表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
64/70

追いかけたのは目的ではなく


 新達はまず、神々で賑わう祭会場へ向かった。

 ただ狐のぬいぐるみ姿の新では、どんなに急いでもまともに走ることすらできない。

 そのため新は、灯の腕の中に抱えられたまま移動することになっていた。


「月乃ちゃん、いったいどこ行ったんだ」

「んーお祭りは広いし、探すの大変そう……そうだ!」


 灯は立ち止まって、とある屋台の店主に声をかけた。


「すいませーん!」

「いらっしゃ……って灯様? どうしたんですか?」

「あのねあのね。人間の男の人見なかった?」


 店主は首を傾げた後、何かを思い出したように手をポンと叩いた。


「あぁ御言様の婚約者の方ですか?」

「そうそう! 探してるの!」

「えっと……人間界との出入り口の方へ歩いて行ったような……」


 店主の言葉に新は嫌な予感がした。


「月乃ちゃん……俺の姿でなにをする気だよ……」

「早く追いかけないとね!」


 新を抱え直した灯は、笑顔で店主に手を振った。


「ありがとー! あとでお小遣い持ってお買い物に来るね!」

「お待ちしております」


 店主に別れを告げ、新達は再び人間界との出入り口へ向かって歩き始める。

 すると、少し進んだところで突如灯がピタッと足を止めた。


「あっ!」

「どうした?」

「見て見て、新お兄ちゃん!」


 灯が指差した先を、視線で辿る。

 そこには淡い青色の光を放つ、小さな風船のようなものがふわふわと宙を漂っていた。


「わぁ……!」


 灯の瞳が輝いた。

 どうやら近くの屋台で売られていたものが、誰かの手を離れて飛んできたらしい。


「凄い! 綺麗!」

「灯ちゃん?」


 風船はふわり、ふわりと人混みから離れていく。


「あっ、待ってー!」


 灯は新を抱えたまま、それを追いかけて駆け出した。


「ちょ、灯ちゃん!?」

「待って待って!」

「灯ちゃん! できれば今は……」


 しかし灯は新の声など耳に入っていない様子で風船を追いかけ続ける。


「あっ、そっち行った!」


 淡い青色の風船は、人混みを抜けると、そのまま祭会場の外れへと流れていく。


「灯ちゃん、待って! そっちは――」

「もうちょっとだから!」


 灯は新を抱えたまま、迷うことなくその後を追った。


 やがて二人はその先に広がる森へと足を踏み入れたが、それでも灯は止まらない。


「むー待ってよー!」


 風船は木々の隙間を縫うように、ふわふわと森の奥へ流れていく。

 灯もそれを追って獣道を進んでいった。

 祭囃子は次第に遠ざかり、代わりに辺りを満たし始めたのは虫の声と灯が踏み締める土と草の音。

 その中をだいぶ進んだ頃、風船は低く伸びた木の枝に引っ掛かった。


「あっ! 止まった!」


 灯は新を片腕で抱いたまま、もう片方の手を風船へ伸ばす。

 しかし小さな少女の手では届かない。


「とれないー!」

「あ、灯ちゃん……戻ろう! 後で俺が人間界の風船買ってあげるから……」

「本当!? 約束だよ!」


 顔をぱっと明るくさせた灯はくるりと振り返った。

 しかし、踏み出すことは無かった。

 

「あ、あれ……ここどこ?」

 

 きょろきょろと辺りを見回す灯の顔から陽気さが消える。

 自分の過ちに気づいたのだろう。新を抱く力がきゅっと強められた。


「新お兄ちゃん……どうしよう……」

「落ち着こう灯ちゃん、ゆっくり来た道を戻れば大丈夫だ」


 新がそう言っても、灯の顔は晴れない。

 

「でも、どこから来たかわからなくなっちゃった……」


 新も辺りを見回す。

 確かに辺りには似たような木々が並んでいるばかりで、どこから来たかもはっきりしない。

 

「困ったな……」


 新の口から弱々しい声が漏れた時だ。近くの茂みががさりと音を立てて揺れた。


「ひっ!」


 灯は肩を跳ねさせ、茂みを見つめる。

 新も灯の腕の中から、揺れる茂みへと視線を向けた。


「な、なんだ……?」


 新が声を震わせると、再び茂みが揺れる。そして、一つの影が現れた。

 

 現れたのは額から一本の角を生やした生物だ。

 本来の新と比べれば僅かに小柄という程度。

 細身ではあるが身体の随所には筋肉が浮き出ており、貧弱な印象は一切感じない。

 口元からは鋭い牙が覗き、爪は鋭利に伸びている。そこで新は玉藻の言葉を思い出した。


「鬼だ……」


 いつの間にか鬼除けの外まで来てしまっていたらしい。

 鬼は新と灯を睨み、低く唸っている。ご馳走を目にしたせいか、口元からは涎がだらりと垂れていた。


「灯ちゃん、逃げよう」


 しかし灯は動かない。それどころか、その場にへたり込んでしまった。


「灯ちゃん! しっかり!」

「あ……あぁ……」


 恐怖で腰を抜かした灯に新の声は届いていない。

 新は灯の腕から無理矢理抜け出すと、地面へ飛び降りた。


「灯ちゃん! 逃げなきゃ!」

「だめ……足が動かない……」


 灯の金の瞳には今にも溢れ出しそうなほどの涙が溜まっている。

 その間にも鬼は一歩、また一歩と二人との距離を縮めていた。


「マサカ……キュウビノガキヲ、クラエルナンテナ……」


 鬼は口元から涎を垂らし、鋭い爪を振り上げながら勢いよく地面を蹴った。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ