育ち盛りの末っ子
月乃が新の身体で人間達の祭りへ繰り出している一方、神域の社の倉庫では新が必死に身体を捩っていた。
「くっ……この!」
しかしどれほど身を捩っても、今の身体は古びた狐のぬいぐるみ。あまりに非力で、新を柱に巻きつける縄は微塵も緩まない。
「くそっ! 月乃ちゃん、俺の身体で何するつもりだよ……」
彼女の話の流れからして、ろくなことをしないのは間違いない。一刻も早く見つけなければ身体を返してもらった時、自分の知る藤宮新はもういないかもしれない。
「誰かー! 助けてくれぇ!」
藁にもすがる思いで、叫んだ時だった。
バンッ! と倉庫の扉が勢いよく開く。
差し込んだ月明かりの向こうに、幼い少女が姿を見せる。
「誰かいるのー?」
狐の耳と尾を出したまま倉庫の中をきょろきょろ見回していたのは、末っ子の灯だった。
「灯ちゃん! 助けてくれ!」
「わっ! 狐さんが喋った!?」
君も狐の神だろう。
そう言いかけたが新はぐっと堪えて手足をバタバタさせた。
「俺だ、新だ! この縄を解いてくれないかな?」
「新? 御言お姉ちゃんと結婚するあの新お兄ちゃん?」
「そうそう! その新だ!」
灯は迷うことなく新のもとへ近づいてくると、柱に結びつけられた狐のぬいぐるみの身体をじっと眺めた。
「でも、新お兄ちゃんは狐のぬいぐるみじゃないよ?」
「月乃ちゃんに身体を乗っ取られて、このぬいぐるみに移されたんだ!」
「あー! なるほど!」
ぽんと掌に拳を叩いた灯に、新はもう一度手足をばたつかせてアピールした。
「と、とにかく! この縄を解いてくれないかな?」
「いいよ! 月乃お姉ちゃんを探しに行くの?」
「そうだ! 月乃ちゃんから、身体を返してもらわないと!」
新がそう言うと、何故か灯は目を輝かせた。
「なんか楽しそう! 私も混ぜて!」
「いや、そんな楽しいことじゃ……」
すると、灯は頬を膨らませた。
「あっ! 私を仲間外れにするなら解いてあげない!」
「わかった! 一緒に行こう!」
「やった!」
灯は嬉しそうに両手を上げると、すぐに新の背後へ回った。
「じゃあ解くねー」
灯が小さな指で縄の結び目を弄り始める。
しかし、月乃が余程強く縛ったのか、なかなか解けない。
「んー……固い」
「頑張ってくれ!」
「むむむ……できないー!」
「大丈夫! 落ち着いてやれば出来るよ!」
「むー……あっそうだ!」
何か思いついた灯は再び新の前に回ると、人差し指と中指を揃えて立てた。
「灯ちゃん?」
「むむむむむ!」
小さな身体を力ませ、灯は顔を真っ赤に染める。
すると突如、新を縛っていた縄にぼっ! と小さな青白い炎が灯った。
「うわっ!」
小さな炎は蝋燭の火より一回りほど大きい程度。
今は縄を徐々に焼いているが、それがいつ新の布と綿の身体に燃え移るかわからない。
「あ、灯ちゃん! 火……火!」
しかし集中しているせいか、新の声は灯に届かない。
その直後、炎は縄だけを焼き切って新を柱から解放した。
「とれた……あ、ありがとう灯ちゃん!」
新が素直に礼を告げると、灯は大きく一息吐いて両手を上に上げて飛び跳ねた。
「やったぁ! 成功!」
「流石神様!」
「えへへ……初めて上手く出来たの! 前に狐火を出した時は、そのまま辺り一面燃えちゃったんだ!」
「そうなんだ……え?」
俺、マジで危なかったんじゃね?
突っ込みたい気持ちをぐっと抑え、新は咳払いをひとつ挟んだ。
「と、とにかく助かったよ! じゃあ、行こうか!」
「うん!」




