明らかな拒絶
御言が玉藻と二人きりで話している間、新はというと、末っ子三姉妹の格好の観察対象になっていた。
「おぉー」
「へぇー」
「ふーん」
「……何してるんだ?」
新が困惑した声を上げる。
千代はしゃがみ込みながら新の脚をじっと眺め、鈴音は背後へ回って甚平の背中を覗き込んでいる。
そして灯に至っては新の背中をよじ登り、そのまま頭にしがみついていた。
「人間の男を初めて見たから珍しいのよ」
横から声を掛けたのは次女の紫苑だった。
「えっと、紫苑さんでしたよね」
新の言葉が聞こえなかったのか、紫苑は答えずに末っ子三姉妹に声をかけた。
「ほらお前達、それは玩具じゃないよ。あっちで遊んどいで」
「「「はーい!」」」
紫苑に促され、千代達は素直に新から離れていく。紫苑も新と目を合わせることなく、背を向けた。
「あの、お気遣いありがとうございます」
しかし紫苑は新の言葉には答えず、末っ子三姉妹の後をついていった。
「……あれ?」
新が戸惑いの言葉を漏らすと、別の方向から声が掛けられた。
「紫苑姉ぇは、あんたのことが気に入らないみたいだねぇ」
声のした方へ振り向く。先ほどまで少し離れた場所で盃を傾けていた女が、徳利を片手にふらふらとこちらへ歩いてきた。
「えっと……こんばんは、小鈴さん」
「さんはいらないよぉ。堅っ苦しいの嫌いなんだよねぇ」
小鈴は盃に残っていた酒を一息に飲み干す。口元に残った酒を袖で拭うと、しゃっくりをした。
「お酒好きなんですね」
「んー? 飲む?」
小鈴は徳利を傾けて盃に酒を注ぐと、新に差し出す。新は慌てて両手を胸の前でぶんぶんと振った。
「い、いえ! 未成年なので!」
「そっかぁ……」
残念そうに盃を戻した小鈴は、その中身を自分でぐっと飲み干した。
「ぷはぁ……御言から聞いてるかもしれないけど、私達、君のことをあまりよく思ってなくてさぁ……まぁ末っ子達はよくわかってないから、あんなんだけど」
「聞いてます。理由は俺が人間だからですか?」
「んー何て言ったらいいのかなぁ……そもそも良く思ってないっていう表現が違うなぁ……受け止めきれないというかぁ……」
小鈴は再び酒を注ぐ。
盃の中で揺れる酒を見つめながら、少しだけ目を細めた。
「私達にとって、御言は大切な家族だからねぇ……君、兄妹はいる?」
「はい。妹が一人」
「じゃあその妹がもし――」
小鈴がそう言った時だった。
「小鈴姉様、飲み過ぎですよ」
声の主は、着物の袖で口元を隠した五女の緋依だった。
「天華姉様がこれから祭に赴くみたいですよ。一緒に行って酔いを醒ましてきたらどうですか?」
「そっかぁ……丁度いいから、お酒も買い足してこよー」
本末転倒なことを言い残して、小鈴はふらつきながら、徳利を片手に天華のいる方へ歩いていく。
その背中を見送った緋依は、口元を隠したまま新を見た。
「緋依さん、初めまして」
緋依は袖で口元を隠したまま、僅かに眉を寄せる。返事は返ってこない。
「ひ、緋依さん?」
「……可哀想な御言姉様……」
ぼそっと呟いた緋依の言葉に新が言葉に詰まった時だった。
「――ちょっと!」
横から飛んできた声に振り向く。月乃が腕を組み、新を睨んでいた。
「えっと……月乃ちゃんだよね?」
「気安く呼ばないで!」
「ご、ごめん」
新が思わず謝ると、月乃はぷいっと顔を背けた。
「こんな奴が御言姉ちゃんの婚約相手なんて信じらんない! 御言姉ちゃんはほんとに凄いのよ! 霊力も、神としての格も! なによりお姉ちゃんとしても! あんたとは比べ物にならないんだから!」
その言葉に新は柔らかく微笑んだ。
「知ってるよ」
「は?」
「御言とは出会って間もないけど、それでも素敵な人間……いや神様だってことくらい知ってる。俺が御言に釣り合わないって言われたら否定できない。でも、いつか堂々と隣に立てるように努力するつもりだよ。もちろん君達に認めてもらう為にも」
月乃は一瞬だけ目を見開く。
しかし、すぐに俯いて拳を握った。
「……私は認めない」
月乃はそう言うと、くるりと背を向けた。
「ついてきて」
「え?」
「証明してよ。口だけじゃないって」




