帰ってくるのは両親だけではない
家を出た新は、御言と並んで旧稲守駅前の洋菓子店へと歩を進める。
照りつける日差しのもと、周囲は蝉達が命を燃やして歌っている。
その中で御言がぐったりと肩を落とした。
「あ、暑い……」
「大丈夫か? 無理してついてこなくてもよかったのに」
新がそう言うと、御言はむっとした表情を向けた。
「乙女心がわかってないねぇ新は」
「な、なんでそうなる?」
「好きな人とは、少しでも長く一緒にいたいんだよ」
御言はそう言って、新との距離を一歩縮めた。
「言っとくけど、瑞穂祭だって一緒に回りたかったんだよ? まぁ紬ちゃんの先約や、叶の件、そもそもスケジュールが合わなかったからしょうがないけどさ」
「それは……ごめん。どこかで埋め合わせするよ」
「言ったね!? その言葉、忘れないでね!」
御言は嬉しそうに念を押すと、空を見上げた。
「まぁ、今ついてきた理由はそれだけじゃないんだけどね」
「ん? なんかあるのか?」
「あるよ。というか、そっちがメインかも……二人きりじゃないと話せないことだから」
御言の言葉に、新はふと思い当たる節があった。
叶や紬、そして両親から離れて二人きりで話さなければならないこと。
そんなものは、一つしか思い浮かばない。
「俺達の関係のことか?」
「そう。神である私と契約をした藤宮新についてよ」
御言は先ほどまでとは違う、少し真面目な表情を浮かべた。
「さっき、皆で稲守祭の話をしてたでしょ? 実は私からも、その関係で新に伝えたいことがあるの」
「伝えたいこと?」
「稲守祭は、この稲守市の神様達に感謝を伝えるお祭りだって、知ってるよね?」
「あぁ」
新が短く返すと、御言は空から自分の足元の影へ視線を移した。
「それでね、稲守祭の頃になると、この地に縁のある神様達がたくさん集まってくるんだ。もちろん私の家族も」
「御言の家族?」
「意外そうな顔だね。私にだって、ちゃんと姉妹や親はいるんだよ。私含めて九人姉妹とお母さんが」
「九人? 随分多いんだな」
「こっちの常識からしたらそうなのかな? でも神の世界じゃ、これくらい別に珍しくないよ」
「そういうもんなのか……」
新が感心したように呟く隣で、御言は少し前へ出る。
そして後ろ手を組んだまま新の方へ顔を向けた。
「稲守祭は私達家族全員が顔を合わせる、貴重なひと時なんだ。それでね、新にも是非会ってほしいの」
「俺も?」
「うん。新は一応、私のお婿さんだからさ」
「そりゃそうだな……」
考えてみれば当たり前だ。
訳はあれど新と御言が婚約しているのは事実。
ならば、彼女の家族に挨拶をするのが筋というものだろう。
「わかった。是非挨拶させてくれ」
「ありがと……でもね……」
御言は先ほどまで浮かべていた笑みを少し曇らせ、後ろ手に組んでいた手を解いた。
「一つだけ、先に言っておかないといけないことがあるの」
「なんだ?」
「家族の中には……新のことをあまりよく思ってない子もいる」
新は僅かに眉を上げた。
「俺を?」
「うん。でも、勘違いしないでね。みんな家族想いで悪い人じゃないの」
御言は慌てたように付け加える。
「むしろ家族想いだからこそ、新のことを素直に受け入れられない子がいるっていうか……」
「俺を生き返らせたことか?」
「うーん……まぁそんな感じかな」
御言はどこかぎこちなく曖昧に笑った。
「ほんとは私達神は、人の生き死に必要以上に干渉しちゃいけないの。でも、新が気にすることじゃないよ。これは私が決めて、私がやったことだから」
「そう言われてもな……」
「とにかく! ちょっと怖い子もいるけど、会ったらちゃんと話してみて。新ならきっと大丈夫だから」
「……わかった。まぁ、怖かろうがそうでなかろうが、やるべきことはやらないとな」
「新……」
「それに最初から嫌われてるなら、あとは好かれるだけだろ?」
「ふふっ……新のそういうとこ好き!」
ほっとした笑みを浮かべた御言は新の腕に抱きついた。
「おい! この暑い中抱きつくな!」
「えぇ〜! 私の新への想いはこれ以上に熱いんだから、我慢してよ〜!」




