賑やかな昼食が終われば
新達、藤宮の家族と叶、そして御言を交えた昼食が終わり、一同はそのままリビングで食後のひとときを過ごす。
互いの近況を語り合ううち、とある話題が持ち上がった。
「今年の稲守祭は家族皆さんで参加できますね」
叶の言葉に真は穏やかに頷いた。
「ああ。前に家族四人で稲守祭に出たのは、まだ新と紬が小さい頃だったし、楽しみだよ」
稲守市には二つの大きな祭事がある。
一つは、瑞穂学園が三日間にわたって開催する学園祭、瑞穂祭。
そしてもう一つが、毎年八月の最終日に催される稲守祭だ。
かつてこの地を災いから守ったとされる狐神へ、感謝を捧げるために始まった祭りであり、藤宮家も代々その運営に携わってきた。
「そういえば、今年は遂に紬も奉納舞を踊れるな」
真の言葉に紬が「はい」と少し嬉しそうに答えた。
「私も今年で十六歳。やっと、あの憧れの場に立てます」
「そっか。今年から紬も舞うんだね」
御言はどこか感慨深そうに目を細めた。
「あれ凄い迫力あって好きだな~何度見ても、つい見入っちゃう」
稲守祭の奉納舞は、古くから稲守の地を守る神々へ感謝を伝えるために捧げられてきた舞だ。
御言もきっと、昔から数え切れないほど見守ってきたのだろう。
「叶は今年も出るのか?」
新の言葉に叶は「うん」と頷いた。
「去年は緊張しすぎてなにも覚えてないから、今年はもう少し楽しめるといいな」
苦笑いを浮かべる叶は、ふと御言を見た。
「そういえば、御言は出ないの?」
「私? 私はえっと……」
御言は困ったように頬を掻く。
それもそのはず、彼女は舞を納める側ではなく、納められる側なのだから。
奉納舞を数え切れないほど見てきた彼女も、自分が舞う側に立つことは考えたことがなかったのだろうと、新は慌てて口を挟んだ。
「御言はさ……ほら、家が厳しくて、あまり外に出られなかったから! 理事長からも聞いてただろ?」
「あ、そうだったね」
叶は納得したように頷くと、御言へ柔らかく微笑んだ。
「じゃあ御言、私達のことちゃんと見ててね」
「もちろん!」
御言が元気よく頷く。
すると、突然愛海が何かを思い出したように立ち上がった。
「あぁ! そういえば!」
声を上げた愛海の隣で、真が驚いたように肩を揺らした。
「ど、どうしたんだ愛海?」
「旧稲守駅前の店で注文してた稲守饅頭取りに行くの忘れてたわ!」
愛海は新に向けて両手を胸の前で合わせた。
「新〜悪いんだけど、取りに行ってきてくれない? 私、この街に帰ってきたらあのお饅頭を食べないと気が済まないの」
母の頼みに新は少し間を空けて、短くため息をついて立ち上がった。
「まったく……帰って来て早々息子使いが荒いな」
新が渋々玄関へ向かおうとすると、御言が勢いよく手を挙げた。
「なら、私も一緒に行く!」
その言葉の直後、叶と紬も席を立った。
「私も行こうかな!」
「稲荷坂先輩、お客様にそのようなことを任せるわけにはいきません」
「あら、二人は駄目よ」
愛海が二人に待ったをかけた。
「このあと、奉納舞で着る衣装の採寸をするんだから。紬は初めてだし、叶ちゃんも去年と同じ寸法で大丈夫か、測り直しておかないと」
その言葉に何とも言えない表情で固まった二人に、新は玄関に向かいながら半身で振り返って声をかけた。
「この暑い中、四人で行くこともないだろ。俺と御言で行ってくるよ」
「そういうことで、行ってきまーす!」
御言が嬉しそうに新のすぐ後ろにつく。
なぜか、背後から不思議な視線を感じながら、二人は家を出た。




