藤宮夫妻
「新〜! 紬〜! 可愛い我が子よー!」
姿を見せるなり、新と紬の母は両腕を大きく広げて二人へ駆け寄った。
「わっ!」
「お、お母様!?」
戸惑う二人を母はまとめて腕の中に抱き込み、幸せそうに頬を寄せた。
「会いたかったわ〜! また大きくなって……二人とも元気にしてた!?」
「母さん、苦しいって!」
「お母様、少し落ち着いてください!」
「なーに? 二人とも照れちゃって、可愛いんだから」
嫌がる二人などお構いなしに、母は楽しそうに笑っていたが、ふと新の後ろに立つ叶へ視線を向けた。
「叶〜!」
叶の姿を見つけるなり、母は新と紬を離して叶にも抱きついた。
「きゃっ!」
「も〜、また綺麗になって! 瑞穂祭で歌ったんだって? 私も見たかったわぁ……」
「あはは……お久しぶりです。愛海さん」
藤宮愛海、新と紬の母であり、他者への愛情を隠そうともせず全力でぶつける、底抜けに明るい女性だ。
「まったく……愛海、叶が苦しそうだよ」
父の言葉に、叶を抱き締めていた母が頬を膨らませた。
「えーいいじゃない! たまにしか会えないんだし!」
「気持ちはわかるが……愛海を待ってるとせっかくの料理が冷めてしまいそうでね」
「むー、それは一理ある」
渋々といった様子で愛海が叶から離れる。
解放された叶は父にも柔らかい笑みを向けた。
「真さんも、お久しぶりです」
「久しぶり、叶。元気そうでなによりだ」
藤宮真。
新と紬の父であり、感情豊かな愛海とは対照的に、穏やかで落ち着いた性格の男性だ。
「新、紬、いつも留守を任せてすまないな」
「気にすんなよ。今の環境は、それはそれで充実してるし」
新が答えると、紬も続いた。
「お父様達が頑張っていることは、私達もわかっていますから」
二人の言葉に真は穏やかに頷く。
その視線が、少し後ろに立っていた御言へ移った。
「もしかして、そちらが例の子かな?」
「初めまして、稲荷坂御言と言います」
御言が丁寧に頭を下げる。
すると、愛海がその身体に抱きついた。
「あなたが噂の〜! 話は聞いてるわぁ!」
「うぐっ!」
いつもは人に抱きつく側の御言だが、突然のことに目を丸くして固まる。
愛海は嬉しそうに御言の頬へ自分の頬を寄せた。
「髪も綺麗! 肌もすべすべ! こんな可愛い子と結婚するかもしれないなんて、新も隅に置けないわね〜」
「紬から聞いているだろ? いろいろ事情があるんだよ」
新が呆れたようにため息をつくと、愛海の抱擁から離れた御言がニヤリと笑った。
「私はそのつもりだよ?」
「まぁ! 堂々としてて良いわね……でもね、御言ちゃん」
愛海は人差し指を立てた。
「一つ教えてあげる」
「はい?」
愛海が続きを口にしようとしたその瞬間、紬が口を挟んだ。
「お母様、待ってください」
「なに?」
紬は愛海に答えず、新の方へ向き直り、すすっと距離を詰めた。
「お兄様、そういえば耳の辺りをこうして押さえると、リラックスできるそうですよ。こんなふうに……」
紬は新の背後へ回ると、その両耳を掌でぴたりと塞いだ。
「つ、紬? なんで今?」
戸惑う新の耳を、紬はぐっと押さえ続ける。
そして顔だけを愛海へ向けた。
「お母様、どうぞ」
紬がそう言うと、愛海はくすっと笑って御言へ向き直った。
「御言ちゃん、叶は手強いわよ〜?」
「ちょ、愛海さん!?」
突然名前を出された叶の頬が一気に赤くなる。
しかし御言は驚くことなく、大きく頷いた。
「うん、わかってます!」
「御言も!?」
「だって叶、めちゃくちゃ可愛いもん。優しいし、料理もできるし、一緒にいると安心するし……正直、超強敵だと思ってる」
「な、ななな……!」
叶の顔がますます赤くなっていく。
愛海は満足そうに笑みを深めた。
「ふふ、紬から聞いていた通り、とっても良い関係なのね」
愛海がそう言うと、紬は新の両耳から手を離した。
「はい、お兄様。スッキリしたでしょう?」
「……なんか、あまりわからないけど……それよりも何を話してたんだ? 叶の顔も真っ赤だし」
「な、なんでもないよ!」
叶が食い気味に答えて続けた。
「そ、それにしても、今年は二人とも帰って来れるなんて珍しいですね」
その言葉に真が答えた。
「そうだな、いつもは俺か愛海のどちらかしか帰って来れなかったからね」
「でも今年は二人揃ってお休みを取れたのよ! 家族全員が揃うのはいつぶりかしら……」
愛海がそう言うと、叶は少し申し訳なさそうに眉を下げた。
「いいですか? そんな貴重な時間に私達もご一緒して」
「何言ってるの? 当たり前じゃない」
即答した愛海は叶と御言、それぞれの肩に腕を回して抱き寄せた。
「むしろいてくれないと寂しいわ」
愛海に抱き寄せられたまま、叶と御言は顔を見合わせる。
そして、どちらからともなく嬉しそうに笑みを交わした。
「よし、それじゃあ――」
真が穏やかに一同を見回す。
「さぁ、みんなでいただこうか」




