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狐の恩返しは余命宣告でした【テーマソングMV公開中】  作者: Echo&Ink
二度目の高校生活。ただし狐付き
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いきなりぶつかり合う婚約者と幼馴染


 朝のホームルームが終わり、始業式が始まるまでの短い時間。新は御言を学校の屋上へ連れ出した。


「どういうことだよ!」

「まぁいいじゃない? 嘘は言ってないんだから」


 御言が笑うその声は「コンコン」と少し特殊で、狐を連想させる。

 なにから問うべきか。

 なぜ転校生として現れたのか。

 なぜわざわざ婚約者と名乗ったのか。

 けれど、それらよりもある事が胸の奥を重くしていた。


「御言がいるってことは、夢じゃなかったんだな」


 顔を伏せた新に、御言はむっと頬を膨らませた。


「なに? 私との婚約がそんなに不満?」

「そこじゃない……いや、そもそもなんで俺なんかを?」

「それは……また次の機会にでもちゃんと話すよ。それよりも、これからのことを話そう」


 御言はフェンスの向こうへ視線を向けた。


「来年の六月、柚木叶はここから飛び降りる」

 

 その言葉に新がなにも返せずにいると、御言は続けた。


「叶と紬、あの二人が自ら命を絶った原因の一つは二人にとって新の存在が大きすぎたこと。だから私という壁を隔てるの」

「俺はどうすればいい? 二人と距離を取ればいいのか?」


 新の問いに、御言はすぐには答えない。

 フェンスの向こうを見つめながら、首を振った。


「新は何もしなくていい。今まで通り、二人と接してあげて」

「でも、それじゃ」

「急に距離を取れば、二人は余計に不安になる。拒まれたと思う。そうなれば、心はもっと新に縛られる」

「そうは言っても、何かを変えないと……また繰り返されるだけじゃないか?」

「安心して。神である私が新達の間に干渉するだけで未来は変わるから」

「そんな簡単に変わるものなのか?」

「大丈夫大丈夫。神の言葉を信じなさい!」


 胸をどんと叩いた御言は、ニヤリと微笑んで屋上の出入り口へ視線を向けた。


「じゃあ、この話は一度終わり。実は私、新の他にも会いたかった人がいたの」


 御言の視線につられて、新も出入り口を見る。

 そこには半身で屋上を覗く生徒がいた。

 特徴的な藍色の髪が揺れている。

 誰かはすぐにわかった。


「……叶?」


 新が呼ぶと、叶はびくりと肩を跳ねさせてばつが悪そうな顔で姿を見せた。


「叶、どうしてここに?」

「あ、新が稲荷坂さんを連れて屋上に行ったから……あの、朝のことって……」


 目を逸らしながら、叶は制服の袖口をきゅっと握った。


「朝?」

「ほら……稲荷坂さんが、新の婚約者って……」

「あ、あぁ……そのことか」

「本当なの? 新とずっと一緒にいたのに、稲荷坂さんのことは見たこともないし、聞いたこともないよ」

「そ、それはだな……」


 言葉に詰まる。

 幼い頃から、なにをするにも一緒だった叶が疑問を抱くのも当然だ。

 かと言って、ここで「この御言は実は狐の神様で、来年の六月に死んだ俺を過去に戻してくれたんだ。その見返りとして、婚約した」と言ったところで、信じてもらえるはずもない。

 この場を収められる言葉を新が探した、その時だった。


「叶ー!」

「えっ? わっ!」


 御言がぱっと顔を輝かせながら、叶へ向かって一直線に駆け寄り、ぎゅっと抱き締めていた。


「会いたかった! ずっと会いたかったよ、叶!」

「え、ええっ!? な、なに!? なんで!?」

「私のこと覚えてない? そりゃ無理もないか! あー叶、めちゃくちゃ良い匂いする!」


 突然抱きつかれた叶は状況を理解できない。

 さっきまで婚約者という言葉に曇っていた表情が、今は完全に混乱で染まっていた。


「わ、私は今、婚約の話を聞きに来たの!」

「あ、うん。そうだったね」


 御言は叶から離れると、先程までのはしゃいだ空気をすっと収めた。


「婚約は事実よ。新と私は、昔から縁があるの」


 御言がそう言うと、叶は右手で左腕を抱いた。


「縁……?」

「ええ。新のお祖父様と、私の祖父が古い知り合いでね。昔から家同士の付き合いがあったのよ」

「新の……お祖父ちゃん? 小学生の時に亡くなった茂さん?」

「そう、その茂。新の両親が有名な経営者だって知ってるよね?」

「も、もちろん……」

「なら話は早い。新の両親の事業が成功したのだって、一部私達のおかげでもあるんだから。まぁ、それ以前から藤宮家と私達の一族は交流があるの。互いにその縁を大切にしてきた」

「そんなこと……聞いたことない」


 不快そうに眉を寄せた叶は左腕を抱く指にぎゅっと力を込めて、新へ視線を移した。


「新は……新は、納得してるの? 婚約のこと……」

「それは……」

「新が迷ってるなら!」


 流石幼馴染だ。

 言葉に詰まった一瞬の隙を見逃さなかった。


「私は納得できないよ! 今時、好きでもない人同士で結婚なんて……」

「好きでもない?」


 御言が、静かに口を挟んだ。


「確かに急な話だし、新が私に想いを寄せてるなんて思ってもいない。それでもね」


 御言は新の腕に、自分の腕を絡めた。


「私は新のことが好きよ」


 叶の表情が苦虫を嚙み潰したように強張る。

 御言は新の腕に絡めたまま、金色の瞳でまっすぐ叶を見つめていた。


「叶はどうなの?」

「私……私は……」


 叶が何かを言いかけた瞬間、校舎に予鈴が鳴り響く。

 すると御言は微かに口角を上げた。


「続きはまた今度ね。戻りましょうか」

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