試験結果、発表
迎えた期末試験の結果発表。
学年の上位二十名が張り出される掲示板の前で、目の下に薄い隈を作った叶は、新と共に結果が貼り出されるのを待っていた。
「叶、昨日も眠れなかったのか?」
「だって、これで決まると思うと……」
「大丈夫だって、答え合わせした限り、間違いはほとんど無かっただろ?」
「そうだけど……」
やれることは全部やった。
この一週間は、人生で一番努力した一週間だと言い切れるほどに。
推薦も、新と共に瑞穂へ進む未来も、青潟に譲るつもりはない。
だが、青潟の言葉が頭から離れないのも事実だ。
叶はふと、新の横顔を見る。
試験結果を待つその顔は、いつもと変わらず穏やかで優しい。
新から受けた恩は、叶の人生を救ってくれた。
彼の隣にいるだけでこんなにも満たされる。
しかし、ここ数日はその幸せを素直に受け入れることができなかった。
『あなたは藤宮君に、何を与えられるの?』
青潟に投げかけられた言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
新はいつだって叶に手を差し伸べ、支えてくれた。
けれど、自分が新に何を与えられているのかと問われれば、今も答えが見つからない。
もちろん新は、見返りを求めて自分の傍にいるのではない。
そう信じていても、叶ばかりが与えられ続けているという事実は変わらなかった。
いつか新にとって、自分が重荷になる日が来るのではないか。
何も返せない自分より、家柄も将来も新の助けになれる青潟の方が、彼の隣にふさわしいのではないか。
その疑念に、堂々と言い返せる言葉が叶の中には見つからなかった。
だとしても、そんな中途半端な状態でも、新の傍にいたい。
それだけは、どうしても譲れなかった。
「お、来た来た」
ふと新の視線が、廊下の向こうに向けられる。
一人の教師が歩いて来ている。
その手に丸められた大きな紙を見つけた途端、掲示板の前に集まった生徒達がざわめき始めた。
「来たぞ叶」
「う、うぅ……お腹痛くなってきた」
固唾を呑んで見守る中、教師が紙を貼り終える。
叶は上から順に、自分の名前を探した。
一番上は……新だ。
流石、新だな……。
感心した叶は、その一段下を見る。
「……え」
藤宮新。
その下にあった名前は――青潟綾乃だった。
「嘘……」
視界がぐらりと揺らぎながらも、叶は自分の名前を探す。
見つけたのは青潟の三段下だった。
「嘘だよ……」
信じたくない。
しかし何度見直しても、順位は変わらない。
「か、叶……」
隣で新が叶を呼ぶ。
叶は答えることができなかった。
こうやって学校で声をかけてもらうのも、あと少しだと受け入れられなかったからだ。
「なぁ叶! 俺から母さんと父さんに相談してみるよ! 叶の学費を援助してもらえないか――」
「やめて!」
思わず上げた声が、ざわつく廊下に響いた。
新は驚いたように目を見開いたが、すぐに心配そうな表情を浮かべる。
「叶……」
新に悪気がないことはわかっている。
けれど、その優しさを受け入れてしまえば、本当に青潟の言った通りになってしまう。
新に守ってもらい、与えてもらうばかりで、何一つ返すことのできない存在に。
「……ごめんね。ちょっと落ち着いてくる……」
「待て、叶!」
叶は新の顔を見ることもできず、掲示板の前から駆け出した。
「叶!」
背後から聞こえる新の声に振り返ることもせず、叶は廊下を駆ける。
行先など考えていない。
滲む視界のまま、角を曲がる。
あの時、青潟の提案を呑んでいれば……。
そう考えてしまう自分に、どうしようもなく嫌気がさした。




