雨煙のなかで
全身を叩くような雨の中、新達は完全にぬかるんだ七十二番ルートを駆ける。
道の脇に切り立つ斜面の上から、雨水が幾筋もの濁流となって流れ落ちていた。
それは遊歩道の上を横切り、ぬかるんだ土をさらに柔らかく崩していく。
「別れたのはこの辺だ!」
一人の男子生徒が雨音に負けないように叫ぶ。
新を含めた四人は雨に煙った木々の先に目を凝らす。だが、少し先の道さえ白くぼやけていて、人がいたとしてもわからない。
「くそ、この雨じゃよく見えない」
智也がライトを掲げながら舌打ちする。
このまま固まっていては、効率が悪い。
「よし、ここは二手に分かれよう! 俺と智也は観測地点方面、お前達は出発地点の方を! 絶対道なりに沿って探すんだ!」
新の言葉に男子生徒達は「わかった」と言って、すぐに出発地点の方へ駆け出していく。
二人の背中は、すぐに雨で見えなくなった。
「智也! 俺達も行こう!」
「ああ!」
新と智也は観測地点へ続く細い道へ踏み込んだ。
すると、雨は更に勢いを増す。視界の雨煙はより一層濃くなった。
「おーい! 聞こえたら返事しろー!」
智也がライトを掲げて叫ぶ。
だが、返ってくるのは雨音だけだった。
「くそ、出発地点に帰っててくれればいいんだが……」
「とりあえず今は探そう! 智也は観測地点の方を、俺は道沿いの脇を見てくる!」
「わかった! 離れすぎんなよ!」
「智也もな!」
幸いにも迷うような道ではない。道沿いに張られたロープから外れなければ、休憩所か研修センターには辿り着ける。
そのどちらにもいなかった場合、行方不明の女子生徒がいるのは道の外れか観測地点の柵の外。
そう考えて新は、ライトを道の外れへ向けた。
この森の道の両側は険しい斜面になっている箇所が多い。その中でも、この観測地点付近は特に勾配が険しい。雨で土が緩んだ今、滑り落ちてしまったら蟻地獄のように戻れなくなりそうだ。
必死に崖の下へライトの光を巡らせる。
思い過ごしならそれでいい、それなら余計な心配をかけた叶に怒られるだけで済む。
そんなことを思っていた時だ。
崖の下、濡れた草むらの中に見慣れたジャージを見つけた。
「……いた!」
幸運だった。
もう少し光を向ける角度が違っていれば、草と雨に紛れて見逃していたかもしれない。
「おい! 大丈夫か!」
返事は返ってこない。
それで女子生徒は顔を歪めながら意識を失っていることがわかった。
急を要する事態だが、まずは見つかった。
胸の奥に、ほんの少しだけ安堵が広がる。
まずは智也を呼ぼう。
「とも――」
言葉の途中でぐずり、と足元の土が沈んだ。
「なっ――!?」
反射的に後ろへ体重を戻そうとした。
だが、間に合わない。雨を含んだ地面は、踏ん張るための力さえ受け止めてくれず、新の視界を傾かせた。
「く……そっ!」
天地が何度も入れ替わる。途中で思わずライトが手から離れた。
何かに掴まりたいとは思ったが、転げ落ちる速度が速すぎて目標を定める時間など皆無に等しい。
何度も岩や地面に身体を打ち付け、植物の葉や枝が肌を切りつけていく。
どこがどう傷ついていくのか、理解する間もなく新の身体は一際大きな浮遊感を覚える。
そして女子生徒のすぐそばで頭を強く打ち付けて、新の意識はそこで途切れた。




