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初めてと、二度目の宿泊研修


「新、宿泊研修ってなに?」

 

 下校路、右隣を歩いていた御言が不思議そうに首を傾げた。

 

「なにって……学校の行事だよ。研修先に一泊して、班ごとに課題を決めて、それについて調査したことや体験したことをまとめたりするんだ」

「泊まり?」

 

 御言はぱちぱちと瞬きをする。そして花が咲いたような笑顔を見せた。

 

「クラスの皆とお泊まりできるの!?」

 

 声を明るく弾ませた御言に、新の左隣を歩く叶がジト目で口を挟んだ。

 

「言っとくけど、遊びに行くわけじゃないからね。班ごとに研修内容をまとめたものを発表しなきゃならないんだから」

「いいねいいね! 班は何人で組むの?」

「男女二人ずつの四人一組だけど……」

「なら、新!」

 

 御言は目をキラキラさせて新に顔を近づけた。


「絶対同じ班になろうね!」

 

 御言の距離の近さに、新は「あ、あぁ」と相槌を打ちながら思わず少しだけ身を引く。

 すると、むっとした叶が「ちょっと!」と言って御言に詰め寄った。

 

「勝手に決めないでよ! 新は――」

「叶! 叶も一緒の班になろ!」

 

 瞳の輝きはそのまま、御言は勢いよく叶の方へ向き直った。

 

「私も?」

「当たり前じゃない! 叶とも一緒がいい!」

 

 にこにこと笑っている御言から嘘の気配はない。

 からかっているわけでもない。

 気を遣っているわけでもない。

 本当に、そう思っている顔だった。

 

 それは叶にも伝わったようで、「私は構わないけど」と顔を逸らす。怒りの矛先を失ったようで、動揺を隠せていない。


「やったぁ!」

 

 御言は子供の様に、叶に抱き着いた。


「わっ! い、稲荷坂さん!」

「新と叶と一緒にお泊まり! 楽しみ〜!」

「わ、わかったから……苦しい」


 御言が離れると、叶は少し乱れた髪の毛を整える。

 迷惑を感じているようには見えない。少なくとも新にはそう見えた。


 そこから数歩足を進めると、三人はY字路に差しかかる。

 新と叶は左、御言は右側へ足を向けた。


「じゃあ私はこっちで車を待たせてるから。また明日ね、新、叶!」


 手を大きく振りながら駆け出した御言に、新は「また明日」と返し、叶は小さく手を振り返す。

 御言の後ろ姿が二本先の交差点を左に曲がったところで、新は叶に声をかけた。


「……行こうか、叶」

「うん」


 三人分だった足音が、二人分になる。

 さっきまで隣で弾んでいた御言の声が消えただけで、帰り道は急に静かになった。


「新」

「ん?」

「稲荷坂さんが勝手に言ってたけど、どうかな? その……宿泊研修の班……」

「一緒の班になる話か?」


 叶は恥ずかしそうに、小さく頷く。

 落ち着かないのか、指先に髪の毛を巻きながら、ほんの少し俯いていた。


「そんなのいいに決まってるじゃないか。叶と一緒の班なら、俺も嬉しいし」


 叶の指先に巻かれていた髪が、するりとほどけた。

 新の言葉が予想よりも真っ直ぐだったのか、叶は一瞬だけ目を丸くする。

 それから、慌てたように顔を背けた。


「そ、それはどういう意味?」

「どうって……しっかり者の叶がいると、いろいろと助かるだろ?」

「……へ?」

「時間管理とか、発表の資料集めとか……叶がいてくれたら――いてっ!」


 言い終える前に、叶の鞄が新の脇腹にめり込んだ。


「もう! 馬鹿新!」

「え、なんで?」

「なんでも!」

 

 叶はぷいっと顔を背けて、少しだけ早足になって新の前を行った。


「おい待てよ叶! 急にどうしたんだよ!」

「知らない!」

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