夕を浴びる銀髪
「まったく……最初から言ってくれれば……」
完全に夕焼けに染まった空の下、近くの公園のベンチに腰掛け、新は大きく息を吐く。
隣では、御言が何事もなかったかのように座っていた。
「ごめんごめん、言葉で伝えるより見せた方が早いと思ってさ」
笑う御言の制服には、焦げ跡が残っている。
しかし、頬や腿などにあった肌の火傷跡は何事も無かったように消えている。
「傷、大丈夫なのか?」
「安心して、なんたって神様だもん。あれくらいなら、すぐに治るんだ」
得意げに胸を張った御言は、新に向かってピースサインを作る。
少し安心した新の目に、ベンチの向こうで遊具に夢中になる子供の姿が入った。
「……あの子は、火事で亡くなった子だったんだな」
御言はピースサインを下ろし、夕焼けの空を見上げた。
「恐怖と孤独、そしてほんの少しの怨みがあの子の魂を怨霊に変えてしまった。一人が嫌で、自分が見える人間を探してたの。まぁ普通の人には見えないんだけどね」
「どうして俺には見えたんだ?」
「今の新には、ほんのちょっぴり神の力があるから」
「神の力?」
「そう、私と交わした契約書が新の中にも宿ったでしょ?」
新は自分の胸元に手を当てた。
「あぁ、熱かったのを覚えてる」
「わかってると思うけど、あれはただの契約じゃないの。私の力の一部を、新の魂に結びつけた証みたいなもの。だから今の新は普通の人には見えないものが見えるの」
「……そっか」
怨霊。
魂。
神の力。
普通なら、にわかには信じられない言葉ばかりだ。
あの焼け跡で見た黒い影も。
熱いと叫び続けた少女も。
その子を抱き締め、静かに送った御言の姿も。
全部、自分の目で見てしまった。忘れたくても、忘れられない。
新は御言の横顔を見る。
彼女も遊具で遊ぶ子供に視線を向けていた。
「お母さーん!」
子供の元に、母親が迎えに来る。
遊具から飛び降りた子供は、嬉しそうに母親のもとへ駆け寄り、抱き着いた。
「ごめんね! ちょっと遅れちゃった!」
「大丈夫! ちゃんと良い子で待ってたよ!」
金色の瞳に夕焼けと親子を映した御言は、嬉しそうに微笑んだ。
「いつの時も、人の世は綺麗だね」
夕焼けの光が、御言の横顔を茜色に染める。
金色の瞳は柔らかく細められ、風に揺れた銀髪が頬にかかる。
新は、思わず言葉を失う。
素直に見惚れてしまっていた。
すると、新の視線に気づいたのか、御言は視線を新へ向けた。
「新? どうしたの?」
「ん? あ、いや! なんでもない!」
あからさま過ぎる新の反応に、御言は一瞬きょとんとして、はっとした。
「あっ! もしかして私に見惚れてた!?」
「違う!」
即座に否定したが、先程母親が迎えに来た子供の様に顔を明るくさせた御言は新の腕に抱き着いた。
「うれし〜!」
「人の話を聞け!」
肩どころか体ごと寄せてきて、頬をすり寄せるようにして笑う。
「新が私に見惚れてくれた! 新が私のこと、綺麗で良い女で結婚したいなって思ってくれた!」
「そこまでは思ってない!」
御言が腕に抱きついたまま、下から新の顔を覗き込んでくる。
金色の瞳が、夕焼けを映してきらきらと輝いていた。
「……嬉しいなぁ」
御言はそう呟くと、新の腕をぎゅっと抱き締める。
所々黒く焦げついた制服を見ると、新は何も言い返せなくなった。
人の世に紛れ込んだ、狐の神様。
さっきまで黒い影に焼かれながら、泣いている魂を抱き締めていたのに、今は子供のように新にしがみついている。
その無邪気な笑顔を見てしまうと、突き放す事などできるわけがない。
「……御言」
「なーに?」
「お前って、ほんとに神様だったんだな」
「なにそれ! 失礼!」
ぷくっと頬を膨らませた御言に新も笑う。
その日の夕焼けは、一段と綺麗に見えた。




