二人が幸せなら
「じゃあ、俺達はこの辺で……」
「玉藻さん、本当にありがとうございました」
御言の傍で新と叶が、玉藻達に頭を下げる。
二人が頭を上げると、御言はひらひらと右手を振った。
「二人は先に帰ってて。私は少し話してから帰るから」
御言の言葉に叶が答えた。
「わかった。お茶淹れて待ってるね」
「ありがと叶」
新と叶が背を向けて石段を下りていく。
その姿がすぐに見えなくなると、柔らかい笑みを浮かべていた御言に玉藻が声をかけた。
「御言」
「なに? お母さん」
「……わかってるね」
「……うん」
御言は先程まで振っていた右の手のひらを見る。
一見、特に異常はない。
しかしその手を優しく握る者が一人。
六女の月乃だ。
「御言姉ちゃん……」
「大丈夫だよ月乃……いつもありがとうね」
御言は左手で月乃の頭を撫でる。
その横から紫苑が声をかけた。
「御言……わかってると思うけど」
「紫苑姉ちゃん、自分でもちゃんとわかってるよ」
「……なら、無駄な力は一切使わないで。なにかあったら、私達をすぐに頼りなさい」
「……ありがと」
その場にいる姉妹達全員が御言を見つめている。末っ子の灯以外は皆、痛みを堪えるような……決して明るい表情とは言えない。
「御言……新坊との契約を破棄した今、もう後には引けないよ。しかしあんたが望むなら、母さんも姉妹も外道に進む覚悟は出来てる」
「大丈夫、お母さん。ずっと前から覚悟は決まってたから」
「……そうかい」
玉藻が煙を細く吐く。
煙は社を照らす大きな月へ昇り、ふわりと消えた。
――新と叶が幸せなら……私はそれでいい。
御言の心にあったのは、確かな幸福感と満足感だった。




