表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
12/59

夕暮れ前の帰り道


 始業式から二日後、二度目の高校生活という異常な現実にも少しだけ慣れ始めていた。

 

 朝、教室に入れば智也がいつもの調子で絡んでくる。

 授業中には、教師の声とチョークの音が響く。

 昼休みには叶と弁当をつつき、紬は隙あらば兄の教室まで顔を出そうとしてくる。

 

 確かな変化はやはり御言の存在だ。

 今は共に下校路を歩いている。

 

「なぁ御言?」

「なに?」

「御言は今、理事長の家に住んでるんだよな?」

「そうだけど、それがなにか?」

「今更だけどさ、俺の帰り道とは逆方向だよな?」

「そうだね」


 淡々と答えた御言に新は足を止めた。


「もしかして、わざわざ遠回りして帰ってるのか?」

「まぁ結果的にそうなるね」

「なんでそんなことを!?」

「なんでって、新と一緒にいたいからに決まってるじゃん」


 きっぱりと言い切った御言に新は言葉に詰まる。

 すると、御言はにんまりと笑みを浮かべた。


「あ! 新照れた!」

「違う!」

「もー可愛いんだから!」

「違う、違うからな!」


 放課後とはいえ、夕方と呼ぶにはまだ少し早い。

 真昼の眩しさが薄れた日の光が、楽しそうに笑う御言の銀髪を照らした。

 

「ほんと、こうやって新の傍にいられるのをずっと楽しみにしてたんだから」

「神様にそこまで想ってもらえるとは、ガキの頃の俺は余程凄いことをしたんだな」

「ふふ、光栄に思いなさい。神様に惚れられる人間なんて、まずいないんだから」

「どーも……でも、退屈じゃないか? 人間の生活って」

「どういうこと?」

「勝手な推測だけどさ、神様なんだから、それは優雅に暮らしてたんだろ?」

  

 新が何気なく尋ねると、御言は少しだけ空を見上げた。


「そんなことないよ。退屈で仕方なかったんだから。起きたら、散歩をして、人の世を覗いて、たまに供えられる供物を頂いて、寝る。こんな日々がほぼ毎日」

「……やることないんだな神様って」

「失礼だね! 今は確かに落ち着いてるけど、昔は朝から晩まで願いごとがひっきりなしに届いてたんだから!」

「願いごと?」

「そう。豊作になりますように、とか。子供が無事に育ちますように、とか。旅に出た人が帰ってきますように、とか」

 

 御言は指折り数えるように言った。

 

「昔は毎日誰かが、手を合わせに来ていた。まぁ今は、それもほとんどないけどね」


 空を見上げたままの、御言の表情はどこか寂し気に見えた。

 新は、その横顔に何か言おうとした。

 けれど、言葉は出てこない。

 

「……あ」

 

 御言がふいに足を止めた。

 

「どうした?」


 新が尋ねると、御言は歩道の先を指差した。

 その先を視線で辿ると、五歳くらいの少女が立っていた。

 ピンク色のリュックを背負い、両手で目元をこすっている。

 声を上げて泣いているわけではない。

 けれど、肩は何度も小さく震えていた。

 

「迷子か……?」

 

 新が呟くと同時に、いや、それより僅かに早く御言が駆け出す。

 少女の前まで行くと、ゆっくり膝をついた。

 

「こんにちは、どうしたの?」

 

 柔らかな問いかけに少女は目を擦りながら、震える声で答えた。

 

「ママが……いなくて……」

「そっか……」

 

 御言は少女の頭の上に手を乗せて優しく撫でた。

 

「頑張って一人で探したんだね……偉い偉い」

「でも……見つからなくて……」

「大丈夫。私も一緒に探してあげる」

「ほんと?」

「うん。見つかるまで傍にいてあげる」

 

 御言はハンカチを取り出し、少女の涙を優しく拭った。


「泣いてたら、可愛い顔がもったいないよ」

 

 少女はまだ不安そうだったが、御言の言葉にほんの少しだけ表情を緩める。

 すると、御言は立ち上がって少女と手を繋いで新を見た。


「新、ごめん。私、ちょっとこの子のお母さん見つけてから帰るね」

「俺も一緒に行くに決まってるだろ」


 新がそう言うと、御言は少しだけ目を丸くした。


「いいの?」

「あたりまえだろ。俺はそこまで非情じゃない」

「……ふふ、ありがと」


 御言は「それじゃあ」と言って、少女に視線を向けた。


「お名前は?」

「……佐奈」

「佐奈ちゃん、お母さんとはぐれたのはどのあたりかわかる?」

「えっと……電車から降りて……お店がたくさんある場所で……私が走り出しちゃって……」

「てことは……新、わかる?」

「稲守駅前だろうな。あのあたりは商業施設も多いし」

「そこまで案内できる?」

「もちろん」

 

 新が頷くと、御言は安心したように微笑んだ。

 

「よし! じゃあ早速行こう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ