まず伝えるべきは
「ということで……付き合うことになりました」
藤宮家に戻った新と叶には、お互いの関係に進展があったことを伝えるべき人物がいた。
その相手はソファに並んで座る新と叶から、ローテーブルを挟んだ向かい側のソファに座る御言と紬だ。
「そっか……おめでとう。二人とも」
恋敵だったというのに、御言の表情は心の底から祝福してくれていると疑わないほどに優しいものだった。
だが、その隣の紬は目を見開いたまま固まっている。
「紬、悔しいのはわかるけど、ここはちゃんと……」
御言が諭すが、紬は口を開かない。
それどころか、彼女はこてんと御言の膝の上に頭を乗せた。
「つ、紬? どうしたの?」
紬は答えない。ただ目を開けたまま、じっと新と叶を見つめている。
「紬? 紬ー!」
御言が肩を揺すっても反応はない。
やがて彼女は紬の顔を覗き込み、困ったように眉を下げた。
「……気を失ってるみたい」
「おいおい、大丈夫かよ……」
新が立ち上がろうとしたところで、御言が片手を上げて制した。
「いいよ。私が部屋に連れてくね」
御言は紬を背負い、部屋に向かって行く。
リビングには新と叶の二人だけの時間が訪れた。
しかし、いつものような軽い会話は始まらない。
どことなく落ち着かない新は、そわそわとリビングを見渡す。
隣の叶も同じような様子だ。
その何とも言えないぎこちなさが、叶と付き合ったことを改めて教えてくれた。
「新」
沈黙を破ったのは叶だった。
「な、なんだ?」
新が答えると、叶は新との隙間のソファの生地をポンポンと叩いた。
「もっとこっち来て」
新は腰を浮かせ、叶との距離を少しだけ詰める。
すると叶は新の腕に自分の腕を絡め、肩に頭を預けた。
「きゅ、急にどうしたんだ?」
「なんか甘えたくて……迷惑だった?」
「迷惑なんかじゃない! だけど……なんか照れくさいな」
「だって、こうしてみたかったんだもん。でも、紬ちゃんの前じゃ気を付けないと」
「確かに……あいつの前でこんなことしたら、また気を失いそうだな」
叶は「だね」と言って、新の肩に額を押し当てた。
新の胸の内では、今までに感じた事のない高揚感が暴れている。
今まで叶と身体を密着させたことなど、数えきれないほどあるというのに、どうして今まで平気だったのか……今となっては謎だ。
「ねぇ新、年が明けたら初詣行くでしょ?」
「あぁ、もちろん。叶も来るだろ?」
「うん、神様にお礼も言いたいし。『新と付き合わせてくれてありがとうございます』って」
「毎年、そんなこと願ってたのか?」
叶は顔を上げて頬を膨らませた。
「そんなことってなに? 私にとってはずっと夢だったんだから」
「はは……悪い悪い。でもさ、わざわざ神社に行かなくても神様ならすぐ近くにいるだろ?」
「……そうだね」
「とは言っても……俺達は会いに行かないとな」
「うん……絶対に行こうね」
叶が答えると、タイミングを合わせたように紬を部屋に寝かせて来た御言が戻って来た。
「紬寝かせて来たよ……あっ!」
金の瞳に身を寄せ合う新と叶を映した途端、御言は二人を指差した。
「早速いちゃついてる! 私もいるのに!」
「ご、ごめん!」
叶が慌てて新から離れる。
御言は笑いながら、再び向かい側のソファに腰掛けた。
「冗談冗談! あーなんか実感湧かないなぁ」
ぐっと身体を伸ばした御言に、それまで口角を上げていた叶の表情から惚気が消えた。
「御言、本当にありがとう」
「なに急に? 私はなにもしてないよ。あ、新は殴っちゃったけど」
「その節はどーも」
新が軽口を叩くと、叶はくすっと小さく笑った。
「御言が来てから、色んなことがあったよね。びっくりすることも、怖いこともあったけど……私、新とちゃんと向き合おうって思えたのは御言のおかげだと思ってる」
「……叶」
「だから、ありがとう。御言がいてくれて本当によかった」
御言は何か言いかけたものの、そのまま口を閉じた。
そして、膝の上に置いた両手をぎゅっと握る。
「……もう、ずるいなぁ」
「ずるい?」
「だって、私も新のこと好きなんだよ? そんなこと言われたら、悔しいとも言えなくなっちゃうじゃない。絶対幸せになってよ、もう!」
「ははは……うん、わかった」
照れくさそうに頬を掻いた叶だったが、深呼吸を挟んでその場の空気を少し引き締めた。
「あのね、御言。実は新と相談して、御言にお願いがあるの」
「ん? なーに?」
首を傾げる御言に、新と叶は一度顔を見合わせた。




