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それはまるで私の心のようで


 予想だにしなかった言葉に、叶の身体はまるで時が止まったように固まった。


「新……今なんて言ったの?」


 呆気にとられたまま尋ねると、新は特に照れる様子もなく答えた。


「叶が好きだ。一人の女性として」


 まだよく理解できなかった叶は胸の前で拳をきゅっと握る。

 返す言葉を探す彼女に、新は澄んだ冬空を見上げた。


「俺さ、本当は卒業したらこの街を離れるつもりだったんだ。それを知った叶の顔、今でも覚えてる」

「私は……なんで言ったの?」


 新は視線を下げて悲しげに答えた。


「……『嘘つき』って」


 未来の自分がなぜそう答えたか、理解した。

 しかし同時に、とても自分勝手な憤りをぶつけたことも。


「……ごめんね」

「謝ることないって。来るはずだった未来の話なんだから……でも、あの時どうして叶がそう言ったか、わかってたんだ」


 新はそこで一度言葉を切り、自嘲するように息を吐いた。


「小さい頃、叶にあげたカタバミを覚えてるか?」

「うん、覚えてたの?」

「あぁ、カタバミの花言葉の中には『ずっと一緒に』って言葉があるの、知ってるか?」

「……うん」


 それがどれだけ叶の心を弾ませたか、そこまでは口にしなかった。


「あれさ、実は知ってて渡したんだ。だから叶もあの時、俺を『嘘つき』って言ったんだと思う」


 きっとそうなのだろう。

 未来の叶が「嘘つき」と口にした理由はそれ以外に無い。


「新も知ってたんだね……でも、どうしてあの花をくれたの?」

「んー当時は小さかったし、好きとか恋愛的な感情があったとかはわからないけど、叶と一緒にいたい。その気持ちだけは今もずっと変わってない」


 新は叶に見向いた。


「そして、これからは叶の傍で、一番の人になりたい」


 そう言って、新は頭を下げた。


「昨日は傷つけてごめん。もしまだ間に合うなら——俺と付き合ってください」


 しんと静まったホームに白い粒が降る。まるでタイミンを待っていたかのように。

 

 ……あぁ、今日はなんて日なんだろう。

 

 白い粒が叶の鼻先にふわりと降り、ひんやりと冷やして溶けていく。

 今の叶の心をそのまま映しているようだ。


 眠れず朝を迎え、やつれた酷い顔。

 服はコートを羽織っているとはいえ、人生で一番ファッションに悩んだ昨日の格好とは程遠い。


 それでも……こんなに胸が高鳴っている。


 新は頭を下げたまま、叶の言葉を待っていた。

 夢なら覚めてほしい。もしこの先で現実に戻されたら、これ以上ない残酷な朝を迎えてしまうから。


 でも、冷たい風が、澄んだ冬空が、そしてこの鼻先の冷たさが教えてくれる。

 叶が何よりも望んだ未来が……ここにあると。


 前に本で読んだことがある。「大事にしてたものほど、思いがけない時に驚くほどの力に変わることがある」と。

 

「顔を上げて……新」


 叶の言葉に新はゆっくりと顔を上げる。

 すかさず叶は両手で新の頬を包む。

 

 そして――背伸びをしてその唇に自分の唇を重ねた。


「んっ!?!?」


 新の身体がびくりと震える。


 時間にして数秒。

 叶がゆっくりと唇を離す。驚きで言葉も出ない新をエメラルドのような瞳に映す。

 

 彼女に昨夜からの哀愁は微塵も見えない。

 ただ凛と、それでいて頬を真っ赤に染めていた。


「覚悟してね! これから遠慮なんてしないんだから!」

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