行く先は
「悪かったって埋め合わせはするから……」
冷え込んだ外気が頬を赤く染める中、叶の隣では新がスマートフォン越しに言葉を交わしている。
やがて、収拾がついたのか「それじゃ」と言って通話を切り、スマートフォンをポケットにしまった。
「紬ちゃん、なんて?」
「一週間、一緒の部屋で寝るということで手を打った」
「相変わらずお兄ちゃんっ子だね」
ほのかに微笑んだのも束の間、叶の胸の内にはすぐに影がかかる。
こうして隣を歩いていると、つい忘れそうになってしまう。
私……振られたんだよね。
昨日までとは違う。
もう新の隣にいることを、当たり前だと思ってはいけないのだ。
「叶? どうかしたか?」
「えっ? ううん、なんでもないよ」
慌てて首を横に振ると、新は何か言いたげに叶の顔を覗き込んできた。
「……もしかして、昨日から寝てないのか?」
「そ、そんなことないよ!」
「いや、目の下にクマができてるぞ」
「うっ……」
思わず両手で目元を隠す。
そんな叶を見て、新は申し訳なさそうに眉を寄せた。
「……ごめんな」
「え?」
「昨日のこと、色々と考えさせちゃっただろ」
「……ううん。新が謝ることじゃないよ」
叶は俯き、足元へ視線を向ける。
……やめてよ。
そんな優しい声で謝られたら、余計に辛くなるじゃん。
昨日、あれほど胸が痛くなる思いをしたというのに、たった一言で心が揺らいでしまう。
やっぱり、新と一緒にいたい。離れたくない。
叶は顔をあげて、無理やり口角を持ち上げた。
「あ、あのね、新! 昨日のことなら、気にしなくていいから!」
「……叶」
「その……私が勝手に好きになって、勝手に告白しただけだし……新が気にすることじゃないよ。だから、これからも今までどおりに――」
「それは無理だ」
新の言葉に、叶の胸がぎゅっと締めつけられた。
「……そっか」
もう、逃げ出してしまいたい。
再び俯いた叶の視界が滲むと、新は慌てて手をブンブンと振った。
「いや、違う! そういう意味じゃないぞ!? 俺が言いたいのは……その……なんていうか……」
「どういうこと?」
叶が顔を上げると、新は困ったように頭を掻いた。
「……一度座って話そう。丁度、目的地にも着いたしな」
新の視線が別の方へ向く。
叶もその視線を辿る。そこにあったのは知らない建物ではなかった。
「旧稲守駅?」
「あぁ……叶には知ってもらいたいことがあるんだ」




