クリスマスデート⑤
案内されたのは、店内の奥にある窓際の二人掛け席だった。
大きな窓の向こうには、色とりどりのイルミネーションに彩られた稲守駅前の街並みが広がっている。
まるで宝石を散りばめたような景色を眺めながら、今まで食べたことのない上品な料理に舌鼓を打つ。
そして何よりも、こんな素敵な場所を新と二人きりで過ごせることが叶の胸を高鳴らせていた。
「いやー雰囲気もさながら、料理も美味かったな」
「うん、本当にありがとう新」
「どういたしまして」
優しく微笑んだ新は夜景を眺める。
その横顔を見つめながら、叶は膝の上でそっと手を握った。
……言うなら、今だよね。
ずっと胸の奥にしまってきた言葉。今日こそ伝えると決めていた想いが、喉元まで込み上げてくる。
……うん。伝えるんだ。
「あ、新――」
叶が口を開いたその時、突然店内の照明が一斉に消えた。
「え?」
思わず辺りを見回す。
すると、店内のBGMがほんの少し華やかな音色に変わる。
同時に叶達のテーブルに男性店員があるものを持ってきた。
「柚木様、お誕生日おめでとうございます」
叶の前にそっと置かれたのは、色鮮やかなフルーツと小さなケーキが盛り付けられたバースデープレートだった。
皿の余白にはチョコレートで『Happy Birthday Kanae』と丁寧に書かれている。
ケーキの隣には、一本の小さな蝋燭。
柔らかな炎が、暗くなった店内でゆらゆらと揺れている。
店内にいた他の利用客や店員達からは、拍手が叶に送られた。
「こ、これ……」
叶はプレートと新の顔を交互に見る。
新は少し照れくさそうに笑った。
「まぁ誕生日だし、これくらいはな」
新はそう言って、鞄から丁寧に包装された小さな箱を取り出した。
「あとこれを」
差し出された箱を、叶は恐る恐る受け取る。
「これって……」
「誕生日プレゼント。開けてみ」
「でも私、昨日マフラーも貰ったし、今日だって指輪まで……」
「昨日のはクリスマスプレゼントだろ? 指輪だって一緒に作った記念みたいなもんだし」
「だからって……」
「いいんだよ。何度も言わせんな」
笑う新に、叶はそれ以上何も言えなくなった。
「じゃ、じゃあ開けるね」
リボンを解き、包装紙を破かないように慎重に剥がしていく。
やがて現れた箱の蓋を開けると、中には革ベルトの腕時計が入っていた。
「わぁ……」
思わず声が漏れる。
細身で光沢のある革ベルトに、余計な装飾のない小さな文字盤。
落ち着いたデザインでありながら、どこか可愛らしさも感じられた。
「叶に似合いそうだなって思ってさ」
「すっごい可愛い! つけていい?」
「もちろん」
叶は嬉しそうに腕時計を箱から取り出すと、左手首にそっとベルトを回した。
手のひらを自分の方へ向け、細い指先で金具を留めていく。
最後にベルトの先を通し、手首を胸元まで持ち上げる。
少し角度を変えながら文字盤を眺めると、目頭が熱くなった。
「……ありがと新、大事にするね」
「気に入ってもらえたようでなにより」
新に微笑みを返して、叶はもう一度腕時計へ目を向ける。
小さな文字盤の中では、秒針が絶え間なく時を刻んでいた。
今日一日、新からどれだけのものを貰ったのだろう。
マフラーも。
指輪も。
この腕時計も。
もちろん、全部嬉しい。
けれど一番嬉しかったのは、物そのものではなかった。
自分のために何を贈ろうか考えてくれたこと。
今日一日を一緒に過ごしてくれたこと。
こうして誕生日を祝ってくれていること。
形を持たないそれらが、叶の心を幸福で満たしていった。
「……宝物、いっぱい増えちゃった」
叶が呟くと、新は瞳を満足気に細めた。
「さ、早く消さないと蠟燭がどんどん短くなるぞ」
「あ、そうだね」
叶は慌ててバースデープレートへ向き直る。
そして静かに揺れる炎に息を吹きかけた。




