最弱の魔王
私の学園入学から一年が経過した。
「幾星霜と我に終わりをもたらす者を待ち続けていた……そうか、救世主……貴様だったのか……」
目の前では、そんなことを遺言にしながら消えゆく吸血鬼──魔王の一角の姿があった。
それもすぐに消え失せ、塵となってこの世から完全に消える。
人類未踏の地下洞窟。そこをダンジョン化して奥地に隠れ潜んでいた魔王を、たった今、討ち取ったところだった。
パチパチパチ、と後ろから一人分の拍手が響く。
「クックック……まさか魔王第十位を本当に屠るとはな……我輩の手駒としてよくぞここまで成長した……我が教えることはもう何もないッ!」
「お前なにもやってないだろ!!」
腕組み後方師匠ヅラしているアイザックに吠え立てる。
第十位の居所に関する情報こそ、こいつからもたらされたものだが、それ以外は本当に何もしていない。
「当・然・だ! 『狂王』と名高い第十位とやり合うだと? まさに常軌を逸した行動だ! 徐々に精神を蝕まれ、挙句には自ら彼の王の血肉となりたがるのが大抵の末路! 誰が好き好んで相対したいと思う? そしてそんな相手を倒した貴様こそがこの世で最も狂った存在だ!」
ビッシィイ──! と強く人差し指をこっちに突きつけてくる魔王最弱の王。
控えめに言って死んでほしいと思う。
「そんなこと言って……どうせ自分の代わりに私を殺してくれる魔王を期待してただけでしょ?」
「ギクッ」
「自分で殺すと魔剣の所有権がちゃんと引き継がれるのかが未知数。下手したら眷属の身で魔剣の主を殺したことで魔剣の怒りを買い、吸収される恐れがある。だけど他人によって私という主が死ねば、従属者たちはそのまま他人に引き継がれる。──でしょ?」
「は、ははは……面白い推理だ救世主。小説家にでもなったらどうだ!」
「その台詞を吐く奴、初めて見たな……」
アイザック・ヴァーミリオン、やはり芸人の星の元に生まれたか。
滝汗流しながらギリギリと親指の爪を噛んでいる。本性を隠しもしない。なんて分かりやすい雑魚なんだ。
「しかし意外だったよ。そんな思惑があったとはいえ、まさか第十位の居場所を教えてくれるなんてね」
「ハッ、我ら魔王に同盟関係や仲間意識があると思っているのか? そんなものはない! 誰もが最強の魔王の座を、虎視眈々と狙っているのだ!」
「ってことは、一応フィリアに統治されてるの、お前ら?」
「何が統治だ、馬鹿馬鹿しい! 我を含む生き残った魔王は、あの女の機嫌を伺う日々をもう五百年は続けている! 人間どもの大都市に降り、眷属を増やして勢力を築き上げるのは容易だ。しかしそういった力を誇示する魔王をこそ、奴は優先的に狩りに来るのだ!」
忌々し気にアイザックは顔をしかめるが──
しかし今の話が本当なら、フィリアはあれでも魔王陣営の抑止力を果たしていることになる。
そんな彼女が将来有望なアインハルトを勧誘……まぁ、意味深な行動だ。なんにせよ叶えば世界は滅ぶが。
「八体もの魔王を、奴は如何にして狩ったと思う? 奴はな、その魔王らが支配していた眷属に潜り込んだのだ。相手に対して忠誠を誓うと言いながら、それぞれに合った趣で、身を、心を、血を、掴んで支配した。話によれば、魔王の方から奴に力を渡した事例もあったというではないか!」
その辺はヒロイン化した再現体フィリアちゃんのエピソードにも出てきたなー。
フィリアは元々、教会に属するシスターだった。しかし魔族によって全てを失い、復讐者としての道を歩み始める。結果、世界で初めて吸血鬼を殺す吸血鬼となったのだ。
美貌で魅了し、言葉で心を跪かせ、力を以って支配する。
大胆不敵さと慎重さを武器に、少しずつ彼女は魔王の頭数を減らしていった。しかし力が増すにつれて魔族としての本能──力を振りかざし、残虐に手を染める衝動のまま、真に魔を統べる魔王として君臨した。
「……疑問なんだけど。なんで私に負けるようなお前が生き残ってんの?」
「ああ、路頭に迷っていた奴に出くわし、奴を吸血鬼化させたのが我だからな」
殴った。
きりもみ回転したアイザックが落下する。
「お前が!! 元凶かよ!! また!!」
「て、転化させただけだぁ! 人間時代の奴には一切手出ししておらん! 魔王を殺すとかいう大言壮語を抜かす面白い奴だったからな、力を授ければどこまで飛ぶのか見たくなっ──待て待てやめよう、神聖魔法の陣を構えるのはやめようッ!!」
こいつ……! こいつっ……! なんでチュートリアル敵のクセに超重大なターニングポイントにいちいち出くわしてるんだよ!! 小物のクセして重要人物やってんなよ!
いや……小物だからこそ、この舞台装置役に適任なのか……どこまでも小物道を突っ走る憐れな奴よ……ゲームでもチュートリアルだけやって終わりとか、人生構築:舞台装置な奴だからな……
「とにかく! その際、初めに宣言されたのだ──我輩は最後に殺してやるとな。その言葉通り、奴は我輩を後回しに、我よりもっと上位の魔王から狩り出した。そしたら、なんか、魔王の長みたいなポジションになっててぇ……我輩も、まさかあそこまで成長するとは思わなくってぇ……」
「お前のマッチポンプが世界を巻き込んでるんだけど。死んでくれない?」
「ぬははは、やってみろぉ! その代わり、貴様は我輩ほど使い勝手の良い素材回収役を失うことになるのだからなッ!」
──まぁその通りなので殺すことはできないのだが。
「クク……まさかフィリアも思うまいよ。あの日、最後の獲物と定めた我が、人間の元で日々、素材周回させられているなんてなぁッ!!」
「普通に忘れられてるに一票」
「やめろよ身も蓋もない!! 我輩の因縁を残念にするなぁ!」
存在自体が残念な奴である。これ以上落ちる格ももうあるまい。
そう、この一年──というか眷属にした翌日から、アイザック君にはずーっとレア素材回収の係を任じていた。
私は学園生活とダンジョン周回の二足の草鞋、加えてアインハルトたちの闇落ちトリガーを潰すため、王都から離れることはできない。
結果、隣国やら遠方でしか出土しないレアアイテムや素材などを回収しに行けない。
ので、それをカバーするためにアイザックをフル活用していた。使い魔って便利だね。
「今回の第十位も、素材周回の中で見つけたってんだから大手柄だよねぇ」
「そうだ……奴は我輩にとって希望となる男になるハズだったのだ……なのに、どうして……どうして狩られているのだァー!?」
「私が光の救世主だからですね……」
「ええい黙れ女狐めがッ!! ク、クッソォ……クッソォ……!!」
悔しがって両膝を折り、石床に拳を叩きつけるアイザックを横に、でもなぁ、と思う。
「──このまま私がお前以外の魔王狩ってったら、実質的にお前がトップってことにならない?」
「…………おお?」
逆転の発想。
仲間意識はないが、向上心はある小物魔王が顔をあげた。
「言われてみればその通りだな……アレ? もしかして我輩……天才かッ!?」
「他人の発想に乗っかって天才とか言っちゃう辺り、相当な小物だよ」
「黙らっしゃい、結果が全てだ!! フハハハハァッ! これからもあくせく働くがいい、我が主人よ!! 最後の最後、貴様を倒して世界最強の魔王に、我はなるッ!!」
「デキルトイイネー」
そんな感じの近況だった。
残り魔王──アイザックを除き、残り四体。




