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魔王討伐① 

「あの森か?」


「は、はい……本当に一人で向かうおつもりですか? 我々も──」


「心遣い痛み入るが、教会関係者を『不慮の事故』で亡くしたくないんでな。一時間経っても私が戻らなかったら、援軍を送ってくれ」


 王都郊外。魔物が蔓延る夜の戦場と、ザスキアが攫われたという森林が見える崖上に私はいた。

 眼下、向こうの戦線では第六以外の騎士団たちが交代で戦線を維持しつつ、魔物の進行を押し留めている。そこへやってくるのが、


(……おー、やってるやってる)


 嵐としか言いようのない光を炸裂させながら、第六神聖騎士団──アインハルト率いる精鋭部隊が駆け抜けていく。


 通った道には魔物どころか雑草すら残らない。遠くからで彼らの様子までは見えないが、動きは殺意に満ちている。ザスキアを攫われたせいだろう。


(まずい……闇堕ち数値が上がる……)


 このままでは世界の危機的にも非常にマズイ!

 どこの誰だ、戦犯魔王は!! 確実に殺さなくてはならない。確実に。


「行ってくる」


「……貴方に神の御加護があらんことを……!」


 もうあります、三つほど。

 《ステルス》と《隠密》、《サイレント》スキルを発動しつつ、転移魔法を起動させて森の中へと舞い降りる。


 景色が切り替わったそこは、瘴気の濃い森だ。

 隠密状態故にまだ気付かれていないだろうが、常人が踏み入れば、あちこちから吸血種の魔物が襲い掛かってくるに違いない。


 今の私は《ステルス》によって姿は消え、《隠密》で魔力の気配が空気中の濃度と同等になり、《サイレント》で発する全ての音が消えている。


 その状態のまま走り出す。草木を踏む音は風による揺れと認識され、何かを察知したような気がした闇夜の魔物たちの赤い目は、一瞬顔を上げるも、探知範囲外となって此方の存在を完全に見失う。


 リアル環境となっても相変わらずの三強隠密スキルだ。フィールド捜索する時とかは必須である。バレたら暗殺できるんじゃね疑惑がつくので墓まで持っていくが。


(どこだ……ザスキア……!?)


 ──この世界には「魔力探知」なんて便利な索敵スキルはない。

 《精霊神の加護》を持つ者は気配を探知しやすいという話はあるが、生憎と私の三重加護(ドライギフト)に精霊神は入っていない。


 ただ、このリアル環境、技術として──魔力を操作する技術の一つとして、周囲の魔力の気配を感じ取る、というものはあるらしい。


 それでも才覚や適性というものが必要になる。

 私にはその才能が無い。

 だから! こうして! 地道に! 足で! 探すしか! 無い!!


(……ここが魔王の潜伏場所なら……魔王はどこに隠れる……?)


 ──魔王。それは魔族の一つとして数えられる、彼らの最終進化形とされる「種族」。

 サブで生来の種族の特徴は付くようだが、この種族:魔王という敵は、原作ゲームにも何体か登場するのだ。


 魔王アインハルトをラスボスに、取り巻きの敵幹部に騎士団メンバーがいて。

 他にも彼らに従属する魔王が何体か登場する。実際、ゲーム開始のチュートリアルでは、初っ端から主人公が魔王の一角を倒すところからゲームが始まるのだ。


 つまり魔王を、人間のステータスのまま倒す方法が存在する。

 それがブラグレの戦闘システム、そのメインコンテンツだ。


『グルォオオオ──!』


(……ッ! ドラゴンの咆哮!)


 直後に、地を揺らす衝撃が上下に波紋した。

 間違いない、ファヴニール……! そしてその近くに、必ずザスキアもいる!


 確信しながら音の方角へ向かえば、鬱蒼とした森の中に、不自然に薔薇のような茨が茂り始めているのが分かった。


 この隠れ家で最も瘴気が濃い中心部。その真ん中で、木に縛り付けられた少女と、それを愛玩する人影が見えた。


『──いい加減に受け入れろ……貴様の従僕を献上すれば解放してやると言っているのだぞ? 傷一つなく、純潔も穢されず、仲間の元へ帰れる。なぜそんなに強情なのだ……?』


『ぁ──い、嫌……ファヴは……私の……友達、だから……っ』


 なんかエロ同人誌みたいな展開(コト)になっているッ!


 木に絡みついた茨に、両腕を上げる形で拘束されているザスキア。団員制服のスカートが少し破けてなまめかしい色気を放っている。でもって彼女の相棒たるファヴニールは、戦場形態だろう巨大な姿を取っているものの、少し遠くで茨に雁字搦めにされ、身動きが取れない状態だ。そして、


『成程、まったく以って理解できん。よくぞそこまで獣風情に肩入れできるものだ。貴様の血を吸って眷属に置き、その思考を奪ってしまうのは容易だが……乳臭いガキの血など我の趣味ではない。だがまあ、』


 するりと、貴族服の青年の手が、彼女の内股に触れた。


『──その身に快楽を仕込めば、多少は言う事も聞くか?』


『ッ……!』


 コラぁ──!!

 ざっけんなあの変態魔王! 年齢指定か! 年齢指定がお好みかこの時代は!! 今、すぐにでも奇襲したいがその前にぃ──!


 優先順位というものがある!


「【ホーリー・レイ】」


 光線を放ち、まずは足であるファヴニールを茨から解放しておく。

 突然の横槍に、弾かれたように魔王の青年が顔を上げた。


「ッ……! この神聖魔法! まさか──!」


 間髪入れずにスキルで姿を消したまま──死角からその首目掛けて魔剣を通す。──が、直前で反応され、その右腕を斬り飛ばす結果となった。


「ガあぁッ!? 貴ッ様……!!」


 魔王が後退する中、素早くザスキアの身に絡みついていた茨も切っておく。

 膝から崩れ落ちた少女は顔をあげ、


「え……? 誰──」


 ──冒険者マリスの素顔はトップシークレットであらねばならない!

 目が合う前にその顔を掴み、回復魔法を叩き込んで過剰な魔力摂取で気絶させておく。


「ファヴニール、お前の主を連れていけるか」


「グルルゥ」


 竜というのは賢い。匂いか魔力かで私の正体を察したのか、身を低めてくれる。その背に、気を失ったザスキアを乗せておく。


「あ……っ! ま、待て上級使い魔!! ブラックドラゴンとか超レアなのにぃ──!」


「お前の戦場はこっちだァ!! 《決戦領域(デュアルセクター)》、展開ッッ!!」


「──!?」


 ファヴニールが森から羽ばたき、飛び去る中──

 トリガーとなる宣言を口にすると、私の足元から領域が広がった。

 青透明の領域だ。それらは幾何学的な波紋を放ちながら展開し、この周辺一帯を箱のような結界で覆い囲む。


「なん……だッ!? なんだこれはぁあ!?」


「貴様の処刑台へようこそ魔王!! 経験値になる時間だよぉ!!」


 そこで初めて相手(てき)の顔を見て気付いた。

 ──あれ、こいつ吸血王じゃん。と。

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― 新着の感想 ―
最後の台詞が最高にイカれてて好き
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