魔王討伐②
どんなゲームにも大抵、チュートリアルというものがある。
ブラグレもまた然り。
魔王位階第八位、吸血王アイザック。
月の化身のような白き髪に、血を思わせる赤い瞳。初っ端から出る「吸血鬼代表のやられ役」として出てくるのが彼である。
「結界……? いやスキルではない……なんだ、この領域は……?」
この時代の吸血王もこれは初見だろう。
これは未来、そう、原作ゲームにおけるバトルの盤面。あまりにも強力すぎる存在の魔王相手でも、人間のまま魔王に太刀打ちできるルールを展開する絶対権限領域だ。
「というか貴様──姿格好が変わっていようと覚えているぞッ! あの夜、不敬にも我に神聖魔法を連射してきたイカレ女だな!?」
「は? どの夜だナンパ王。言いがかりくさい口説き文句はモテないぞ」
「事実を言っているまでだこの化物がッ! ここで会ったが百年目、あの時の屈辱、晴らさせてもらうぞッ……!!」
途端、アイザックの姿が残像と化して消えた。
吸血鬼。その身体能力を発揮した高速移動により、彼の爪が私へと振るわれ、
「──は?」
──ない。
ぎちっ、とそれは私に触れる前に、歯止めがかかる。まるで見えない力によって止められているかのように。
攻撃不可能。なぜなら今は──
「お前のターンじゃないぞ」
「ッ!」
バチン、とシステム的な稲妻が走って、アイザックの身が弾かれる。
再び十メートルほどの距離を置いて、彼と対峙した。
「貴様……何をした」
「たった今、この領域には特殊ルールが敷かれた。ターン制戦闘ルールだ。私は私の、お前はお前のターンにしか動くことができない。そして、このルールにおいての決着は、先に相手のHPを奪った方が勝ちとなる」
「なんだそのルールは……」
まぁ、だろうな、という反応だ。
そう! これはゲームでいうバトルフィールド! 「ブラグレ」はターン制バトルだ。だが魔王とかいう相手が自分ターンとか守ってくれるワケなくない? というメタ的問題を解消するため、劇中で実際に登場する専用決闘領域──それが《決戦領域》だ。
ブラグレは基本的にシナリオパートとバトルパートを交互に行き来する。
そのバトルパートでは、このセクターが主人公によって展開され、敵を引きずり込み、無理矢理に「ターン制で攻撃する」というルールを押し付ける。
そしてそのルール下で行われた勝敗結果は、世界神が認める結果となりて、現実に適用される。
「ふざけるな──なぜ我々が貴様ら人間の課した法則に従わねばならん!」
「文句を言うのは結構だが、法則はもう適用されている。自分ターンでの攻撃以外、互いに相手からHPを奪うことはできなくなった」
「! ……魔王にまで干渉するほどの権限の行使だと……? ただの人間が? 馬鹿な。だとすればこの領域──まさか、世界神が構築に関わる、『世界の新たなルール』か!?」
「理解が早くて助かるよ。じゃあ行くぞ万年チュートリアル野郎」
軽く、片手を挙げる。
同時、私とアイザックの間の空間上空に、文字列が表示された。
FATAL BATTLE!
ヴァイス・フローレンス VS 魔王第八位
▽レベルを測定しています……
Lv80(種族上限) VS Lv 121
「ほう……? 種族上限値とはな。世界神に認められるだけのことはあるか」
「レベルは累積経験値が本体だよ」
「?」
▽パッシブスキルが発動します!
ザッ、と私とアイザックの周囲に、「パッシブスキル」──常時発動系のスキルが問答無用で開示される。多ければ多いほどレシートみたいになるんだよなコレ。
ヴァイス・フローレンス
《人間》《周回マスター》《葬る者》《転生神の加護》《冥府の加護》《世界神の加護》《クリティカルスペシャリスト》《ギャンブラー!》
「???」
意味不明なスキルの文字列にアイザックが心底怪訝な顔をしている。地味に傷つくからやめて。
そんな彼の方は──
魔王第八位
《魔王権限》《悪食》《血の聖杯》《ブレイクゲージ》《吸血鬼》
雑ッッッ魚。
いやザコすぎる。酷いな昔の時代って……いや原作ゲームのチュートリアル敵なんだから、この時代ではお察しなんだろうが、それにしたって酷い。酷すぎる。魔王の下っ端も下っ端すぎだろこいつ。どこまで格の底さがあるんだ。
「では準備フェイズ、《鑑定》」
まずは基本的な動きから。
アクティブスキルの枠には含まれない、アベレージスキルの《鑑定》によって暴かれた情報が視界に映る。
魔王第八位 HP340000
状態異常:混乱(軽度) クリティカル発生率がダウンする
《魔王権限》:HP以外の全てのステータス値が上昇する
《吸血鬼》:昼夜の境界を歩くバンパイアロード。全ての攻撃に耐性を得る
《悪食》:神聖属性以外の相手の魔法攻撃をMPに変換する
《血の聖杯》:失ったHPの分だけ攻撃力を上昇する
《ブレイクゲージ》:HPゲージを3本持つ
「そんなHPで大丈夫か……?」
「なんなんださっきから一体!?」
あ、混乱状態が軽度→中度になった。おいおい、あいつ自分からクリティカル率をダウンさせてるよ……馬鹿なヤツ……
ともあれ。
「とりあえず、一旦消し飛ばすぞ──『星の輝き』!」
刹那、レッグポーチから取り出した戦闘アイテム「星の欠片」を地面に叩きつけた。
試験管に収めた、銀色の輝きを放つ神聖属性のアイテムだ。吸血鬼、アンデッドにはこれが一番効く。
足元に展開する自分の赤い魔法陣にそれを叩きつけた瞬間、視界を塗り潰す眩い発光が発生する。
「ごあああっ!?!?」
「準備フェイズには、《鑑定》や《看破》などの情報取得スキルを使うことができる。また戦闘アイテムの使用は、準備フェイズに一度だけ行える」
『星の輝き』を受けて、アイザックのHPバーが一本消し飛び、二本目が出てくる。
じゃあ次ね。
「そして『超級』レベルの戦闘アイテムを使用したことにより、私のコンボスキルが発動する。《アンコールマジシャン》。使用した戦闘アイテムの効果がもう一度発生する」
「ごぁぁぁ──ッ!?」
再び地面から炸裂する星の極光。
なんでもアイテム説明によると、「超新星爆発の輝きを生み出す。あらゆるものを浄化に導く」、らしい。実際、アンデッド系統には聖水吹っ掛けるよりも、こっちが結論対策アイテムとして優れている。今の時代には馴染みないだろうけどね。
ちなむとコンボスキルは人間種特有の専用攻撃だ。
八枠しかないアクティブスキルと違って、無制限に枠が取れ、こいつをいかに連鎖させるかがゲーム序盤戦の肝になる。周回者はだんだん時間効率を考えていって使わなくなるけどね。
「ッッが……ががっ……ば、馬鹿な……なんだ、なんだ今の……攻撃は!? わ、我のHPが……ゲージが……一本しか残っていないッ!?」
「では戦闘を開始する!! 《慚愧の束縛》! お前をこのターン行動不能にする!」
「そんな人間のスキルが我に届くかぁぁ!」
「いや、お前のパッシブの《吸血鬼》が得る耐性は攻撃に対してだけだから、行動阻害系スキルは通すよ」
「えっ」
魔法陣から飛んだ《慚愧の束縛》が、影となってアイザックの身を拘束する。
これで奴は《カウンター》を始めとした、此方の攻撃行動に対する身動きが取れなくなった。
「は、はは……なんだこれは。なんなんだこれは!? 《慚愧の束縛》はこ、これほど強い拘束スキルではなかったハズだろう! 魔王の我が振りほどけない拘束スキルって何だ!!」
「だからここではそういうルールなんだって。通ったスキルはターンが終わるまで『絶対に』持続するし、私のターンが終わるまでスキル発動もできない」
「……!!」
「じゃあちょっとバフに入らせてもらいますね……《聖典の読者》! 《まじかるエンジェル》! これで30%+50%でクリティカルバフが80%!! 《ラッキーチャンス》! 《勇気の宣誓》! これでクリ発生率は40%+20%で60%となる!!」
「????」
「更にここで私の常時発動、《クリティカルスペシャリスト》と《ギャンブラー!》が上乗せされる! クリスペでバフは更に+50%!! これでクリバフは130%!! そしてギャンブラーは率バフスキル! 確率で1%~100%のクリ率を叩き出す! 実質合計160%!!」
「実質……実質!?」
「クリティカルが発生すると防御耐性は無視され、ダメージ数値は通常の3倍となる。そこへSC! 確定には200%必要になるが、このスペシャルクリティカルが発生した時……更に2倍! 6倍のダメージ数値となってお前を襲うのさ! ちなみにパッシブの《葬る者》によって、私の攻撃力は100%バフを受けている。つまり2倍。そこにさっきのクリバフ130%が加算され、SCを見事引き当てた暁には、発生するダメージ数値はおよそ1720%! 60%の確率でお前をワンキルするッッ!!」
「ちょっと待てぇぇぇ──ッ!?!? そんな事あるかぁ──!?」
あるんすよ、これが。
バフで殴るとはこういうコトだ。
「さぁ……祈るがいい……私が60パーを引くか、お前が4割の生存を引くかッ!」
「いやいやいや、引くだろ普通4割だぞ4割負けるワケないだろうが痴れ者がッ……!!」
「Foo……やっぱりこの瞬間が一番緊張するぜ……引くか引けないか……そう、実質二分の一!! いくぜぇぇ──アイザァック!! えーと、領域内での魔法攻撃にクリティカル判定はないから……普通に殴るか」
「ッ!?」
ぎらぎらと赤く輝く魔剣を握って彼に近付く。
動けないアイザックの前まで歩み寄ると、ヒィ、という声が聞こえた。
「ちょ、ちょっと待て。おい、落ち着け。まだ考え直す余地はあるだろう!? おい……おい! ふざけるなよ貴様、おい、貧相で貧弱な人間の攻撃が──我輩を倒すワケ、ガハァァッ──!?」
なにやら命乞いをしていたが構わずブった斬った。
瞬間、セクター内のシステムは映し出した。そのダメージ数値を。
──New Record!! OverKill!!
「やったぜ」
これだからSCチャレンジはやめられねぇ。
一瞬で消し飛んだアイザックのHPと本人を見る中、領域が解除されていく。
通常ならこれでアイザックは死亡するハズだが──
「──舐めるなよ、人間ッ……!」
「1ターンも動けず封殺された魔王がなんか言ってるな」
「そう! 魔王だ! 我は魔王なのだ!! HPを一度割られたくらいで──死ぬるかァァァ!!」
倒れていたアイザックの姿が光に覆われ砕け散る。
形態変化。魔王特有の強化状態に移行する。
人型を捨て、光と共に大きく盛り上がっていくその異形。大きさは約30メートル。《鑑定》を使えば、再び彼の頭上にHPバーが新たに生成され、エネミーとして顕現するのが分かる。
──それは白い鱗で覆われたドラゴンだった。
この本気モードはプレイヤー間でも人気だったなぁ。超カッケー。
「バトルフェイズ2……だが形態変化した魔王には新たなパッシブスキルが発動する……」
《魔王覚醒》。
この周囲一帯が「魔界化」し、魔王にとって有利なフィールドが形成される。ここでは、先の《決戦領域》を展開することができない。
ではどうするのかというと──殴り合うだけとなる。
【領域支配者としての特権が勝者に与えられます】
「《再設定》」
頭の中にゲームでも聞いた音声ガイドが響き、世界神による加護とルールに従い、アクティブスキルを再設定できる権利が付与される。
このバトルフェイズ移行の刹那、時間は加速し、私は素早く新たな八枠のアクティブスキルを再設定した。
──準備完了。現実の時間が追いつく。




