救出依頼
さてセシリアと今週の休日にでも修行を開始しようという予定を立て、教室に戻る道中。
あれっ、と彼女が声をあげた。
「ザスキアちゃん? と、それに……メリルさん?」
廊下でばったり、二人の騎士団メンバーに出くわした。
片方は朝も顔を合わせたロリ先輩で、もう一人は金髪を二つ結びにした美少女──ザスキアだった。
「ああ、一緒に居たんだあんたたち。そっか、同じクラスだったのね。フローレンス、あんたちゃんとお昼は食べたの?」
「お茶会しました」
「……それ、栄養が偏ると思うんだけど……まぁいいわ、何も食べないよりは。ザスキアと会うのは初めてだったわね?」
「……こんにちは……」
ぺこり、とお辞儀する金髪美少女ことザスキア。
ぼーっとしたような凪いだ青い瞳で、両腕で一匹の動物を抱えている。
黒い小竜だった。
ま、まさかあれは──フィールド全体攻撃確定ダメージ連打という恐るべき嫌がらせエネミー筆頭にして騎士団ペット枠、ファヴニール……!?
「初めまして。……カッコいいドラゴンだね」
「! ……、ふふ」
「なんで私に自慢げにするのよ……ていうか物好きね。ドラゴンと見たら、まず普通は驚いたり怖がったりするものじゃない?」
「ドラゴンは全ての生物の憧れでは? 人類って進化したらドラゴンを目指すべきだと思うんだけど」
「……! ……!!」
「あ、あのザスキアちゃんが凄く反応してる……!」
ぶんぶん、と首を高速で縦に振るザスキア。
心なしか目が輝いている。ゲーム本編では寡黙……というか精神がブッ壊れて機械的な応答しかしないキャラだったが、この時代はまだ感情豊かのようだ。可愛いねぇ。
「って、油売ってる場合じゃなかったわ。そろそろ行かないと」
セシリアが首を傾げる。
「え? 午後の授業、なにかありましたっけ?」
「授業じゃないわよ、私たちの仕事! 騎士団に召集命令がかかってね、皆で早退して王都外部に現れた魔物を掃討しに行くの」
なんと多忙な騎士団業。
学生やりながらの公務って、とんでもないスケジュールじゃないか?
「新学期が始まったばかりなのに大変ですね……手伝いましょうか?」
「──ふん。有難い申し出だけど、救世主の手を借りるまでもないわ。私たちはずっと私たちなりのやり方で戦ってきたの」
ずいっ、と此方を覗き込むようにしてメリルが近づいた。
「せいぜい護られてなさい? お姫様」
「はあい」
その頭を撫で撫でした。
メリルの顔がぽかんとしたものになり、即座にその場から飛びのかれる。
「なな、何するのよアンタッ!」
「いや……つい……」
「あーもー! 意味分かんないのよ!! ザスキア、行くわよ!」
「……ばいばい」
軽く頭を下げ、ザスキアが歩き出したメリル先輩を小走りに追っていく。
ねえ、とセシリアが言った。
「メリルさん……可愛いよね……」
「可愛い」
うんうん、と頷き合い、ここにロリ愛護同盟が結成された。
小っちゃい先輩は可愛い。是、この世の真理である。
♰
──さて、騎士団がそんな感じだったので、当然ながら放課後にアインハルトと出くわすこともなく。
じゃあまたねー、とセシリアと途中まで下校して。
私は寮に戻って、明日の準備をして、装備を整え、スキル《ステルス》で姿を消して、ダンジョンの入口を管理するギルドへと向かった。
いつものようにカウンターで討伐依頼や情報をもらって、迷宮深部へゴー。
「……む?」
周回中、ボス部屋で妙なもんを見つけた。
石の台座に突き刺さった一振りの剣。これは──!
「これは聖剣チャレンジの予感──! あ、違ぇやこれ魔剣だわ」
冷静になって《鑑定》すると、こんな感じだった。
《紅血剣ニーズヘッグ》
品質:13MAX。切れ味:非常に良好。
概要:「血塗られた剣。多くの血を受け継ぎ、その刃は研ぎ澄まされた。剣の囁きが聞こえる。魔を斬らせろと。」
(ここだけなんか原作ゲームの空気感だなぁ)
ダンジョンなんだから当然だろうが。
学園生活との温度差で風邪をひきそうだ!
「貰っとこ」
柄を持って引き抜く。おお、血のように赤い刀身だ。煌く様は燃えているよう。実に禍々しい!
「鞘は……魔力で作成っと。よしっ」
魔の気配を封じる白鞘を魔力で編み、納刀する。
これなら寮に持ち込んでも平気そうだ。
「ポーションも丁度なくなったし……帰るか」
思わぬ戦利品もゲットしたので、帰投を決める。
この世界、少しでも油断したら命取りなのだ。いくらレベルカンストでもリアル環境、万が一を考えて、いったん地上に上がることにする。
「──あ! 姐さん、丁度いいところに!」
「ん?」
ギルドに戻ると、何やら騒がしいことになっていた。
いつもの受付係と……それに、教会の……使者っぽい白い格好をした人らが二人ほどいる。
「貴方は……?」
「冒険者名、『マリス』と言います。どうかなさいましたか」
「我々、神理教会の者です。失礼ながら……レベルをお伺いしても?」
冒険者時のレベルは十個下を言うようにしている。
カンストって言ったら正体バレるし。登録名も偽名だ。
「70ですけど」
「おおっ! まさに神の導き……マリスさん、折り入ってお頼み申し上げます」
「これは教会からの依頼と受け取っていただいて構いません……我が第六神聖騎士団が、一時間前、『魔王』と思われる個体と接敵しました」
「!」
なに? 魔王……ってことはフィリアか?
いや、彼女はこの前、相当な深手を負ったハズだ。となると、別の魔王か……?
「その魔王は吸血種と化した魔物の軍勢を引き連れて現れ、これに第六騎士団団長と副団長を始めとした、第一から第五の騎士団も総力を挙げて討伐に掛かったのですが──……」
「激戦の最中、魔王が第六騎士団の竜使い……ザスキア・ゲイル・シュヴァイツァーをかどわかしたのです」
え、ザスキア?
ここでザスキア?
「恐らく、彼女が操る竜の眷属化を狙ったものでしょう。しかし今もなお魔物の襲撃は止むことなく、こうして腕の立つ冒険者たちの手も借り受けるべく、ここへ参上しました」
「ですが……このままでは、魔王に攫われた彼女の身が危ぶまれる。騎士団長たちの手が離せない今、実力のある冒険者に、裏で彼女の救出作戦を依頼しに来たのです」
……少し、思い出してきたぞ。
原作ザスキアの設定、その経緯を。
ゲーム本編において、敵として現れる彼女は徹底して機械的・事務的な口調や表情を崩さない。その理由は、別に吸血鬼化したからではなく、アインハルトの世界破滅計画前から、その状態だったという裏設定があったハズだ。
そしてなんと、ザスキアだけは主人公の行動によっては、ヒロインにすることができた。
いわゆる「光堕ち」というやつである。敵幹部の中でもとりわけ悲惨な過去持ちとされた彼女は、主人公やその仲間たちの呼びかけと交流により、騎士団側から離反する。
確かそのヒロインエピソードで──
『私は……昔、ある吸血鬼の手によって穢されました。竜を統べる力を求められ……』
(アウトアウトアウトアウト──ッ!!)
く……クソッ!! 原作開始前は鬱展開が多いなぁ!!
そもそもブラグレ本編自体、結構画面暗めだったけども! そこを主人公が光に照らして行くからこそ面白かったんだけども! その時代に生きる者としては冗談じゃねぇ──!
依頼を即引き受け、私は魔王が去ったという森林地帯が見えるポイントに向かった──




