50 初デートはWデート3
その後、一行はまた皆が集まってしまう前に、素早く馬車に乗り込んで、予約していたレストランに場所を移した。
アンディは、初めて見る「アリスとセリス」の内容に頭の中でハテナマークが浮かぶばかりで、エミールに
「あの話のどこがいいんだ?」
と聞いてしまった。エミールはくすくす笑いなから、
「結婚した後も、秘密の恋人と愛し合って心が繋がっているところかな。ねえ、セレーネ嬢とレティシアはどう思う?」
と女性陣に話を振ると、レティシアが
「そうね。完全にプラトニックなセリスたちは良いとしても、妹の婚約者と関係を持つアリスはあり得ないわね。それで婚約を妹と変えて貰わないところがあざといわよ。妹達の関係を知らないにしても、家同士の婚約を逆にしてもらう事は出来たと思うのよ。それをしないという事は、伯爵家の分家の奥方よりも、侯爵夫人という身分をとったという事でしょう?」
「……レティシア様の意見は意外ですわ。この話って姉妹間の格差の問題も顕著な作品でしょう?令嬢方でも次女以下の方々には評判があまり良くなくて、良いと讃えるのは各家の長女の方が多くて、どこも長女の令嬢方の方が発言力がありますから、ジェニー・ウィンストンの人気も手伝って、アリスとセオドアに憧れるようですわ」
さりげなく不満票があるとセレーネが教えてくれたが、兄弟のいるアンディにも納得出来る意見だった。
「男の方が家督を継げるから、兄弟間格差は激しいと思っていたが、令嬢方も思えば、次女の方が良いところに嫁がれたという話は聞かないから、セレーネ嬢のいう通りなのだろうな。脚本家はその辺りを皮肉っているのか、よりリアリティを追求しているのかといったところだな。俺は最後は二人の婚約が入れ替わるのだとばかり思って見ていたからな」
「アンディはロマンチストよね」
「そうだよねぇ」
従兄妹コンビのレティシアとエミールが口を揃えて言うと、セレーネが
「私も一番初めに見た時はアンディ様と同じく、そう思いましたわ」
とフォローした。そして更に
「元々、長女優遇とはいっても、それだけ家の期待を背負っていますから、それを達成できない時には、下の娘たちよりも悲惨な未来になりますでしょう?それを思うと、アリスがセオドアを選べない気持ちもわかる気が致します」
と続けた。
確かにミゲルがセオドアのようになってしまっても、ローゼンタール辺境伯家を継ぐのは変わらないが、アンディが同じ事をしたならば、ローゼ領に蟄居の上で身分は、はく奪され、監視の目も付いて結婚も出来ないだろう。
そう思うと長男長女が優遇されてはいるが、責任も伴っているので、その責任が果たせない場合に置いては厳しい立場になる。レティシアは、リリアナの血筋をひいているというだけで、ローゼ公爵家に強く望まれていて、能力は公爵夫人としての振る舞いは求められてはいるものの、ミゲルではないが余程の事が無い限り身分が保証されていて、アリスの気持ちはよく分からない。
セレーネは妹はいないものの、嫡流の従姉妹達がいる為、レティシアよりはプレッシャーがあったのではないかという側面が伺えた。
アンディもそう思ったようで、セレーネにかなり親近感を覚えた様子で、その後もモーヴァンの親族内が今どういう状況か等をアンディが聞きたがり、セレーネもそれに丁寧に答えていた。
そうなると、話の腰を折る気にもなれず、レティシアはエミールといつものように軽口を叩き合い、アンディと出掛ける為のお薦めデートスポットなどを聞いて、人の多いところは無理だとか相談していたら、デザートが運ばれて来た。
そこで、エミールが
「僕たちが一緒だったのは、間違いだったかもね」
とレティシアに耳打ちして来たので、
「セレーネ様とアンディが親しくなれる機会の方が貴重だから、気にしないで。そもそも若様強権発動だし、セレーネ様だって、ローゼの若様に尋ねられたことは全力で答えるしかないでしょう?」
と、こそこそと早口で言うと
「アンディに帰ったら説教してやって」
と言われたので、レティシアは笑ってしまった。それに気が付いたアンディが
「何だか楽しそうだな」
と言って来たので、タイミングの良さに堪えきれずに更に笑うと、アンディから意識が逸れたセレーネが、レティシアに目線だけを少し下げて詫びて来たのでレティシアは笑って首を振った。
「お互いの婚約者の前で内緒話とは頂けないな」
アンディが自分の事は高い棚の上にあげて言って来たので、レティシアは
「まさか焼き餅!?エミール相手に?……アンディはセレーネ様と話が盛り上がっていたから、めったにない機会だから遠慮していただけよ」
「これから社交デビューすれば、いくらでも機会は出来るだろう?」
「そうね。これからが無いわけではないわね」
それでも一対一で話せる機会はなかなか無いし、それはアンディがセレーネを気に入ればという条件付きの話で、今はその気に入りになれるかどうかの途中にいるので、レティシアとエミールは、セレーネを応援しつつ、邪魔をしないようにしていたのだが、若様には伝わらないようだった。
しかし感触は上々で、『説教してやって』といったエミールでさえも満足気だったので、アンディの不興を買わないようにレティシアは話題をデザートの事に変えて、アンディに
「ここのデザートをローレシア義伯母様にお土産に持ち帰りしたいわ」
と言うと、アンディが店の支配人にレモンの風味が爽やかなケーキを、ローゼ家とアーデン家とモーヴァン家の三カ所分の用意を頼んでくれた。
セレーネは恐縮しきりだったが、レティシアの気遣いに気が付いているようで、
「ローゼ家の次期様からの頂き物だなんて、家の者が驚いてきっと喉をつまらせてしまいますわ」
と茶目っ気たっぷりに冗談半分本気半分な事を言って場を和ませた。
そうして馬車は、モーヴァン家、アーデン家と二人を送り、レティシアとアンディはローゼ家へと戻った。
屋敷の皆が、二人の初デートの首尾を聞きたがったので、レティシアは
「アンディが囲まれてしまって大変でした。人の多いところにはしばらく行けそうにありません」
とだけ皆に伝えた。ちなみに場繋ぎに流れで持って帰って来たケーキは、ローレンシアにとても感激されてしまって、レティシアは小さな罪悪感を抱く結果になった。




