49 初デートはWデート2
劇場に着くと、四頭立ての豪華な馬車が来たことで、貴人が来たのだと皆が一目見ようと馬車の周りを遠巻きに囲んでしまった。
アンディが降りて行くと『わぁー』と歓声が起こった。先の戦の立役者であるアンディの注目度や人気は高く、老若男女問わず寄って来た。、国を守ってくれたアンディに感謝と憧憬の眼差しを向け、握手を求めて来た。
更に令嬢たちが取り囲もうとしたところにレティシアが降りて行くと、皆がつんのめるように一斉に動きを止めた。
レティシアはアンディから贈られた紫のバラが刺繍されたスカイブルーのドレスに、深い青色のサファイアの装飾品を着けており、ローゼ家とリクソール家の血が混じったレティシアにしか着られないだろうという、非常に目立つ格好をさせられていた。
アンディに邪な想いを持っていた令嬢は、リクソールの権威に足が竦んだのだろう。
令嬢たちが止まると、夫妻で来ていた貴族夫婦がアンディに挨拶にやって来て『ご活躍は王都まで轟いております』とアンディを誉めそやした。レティシアにも『ご婚約者が頼もしくて羨ましい』と貴族夫人達から言われ、目ざとい者からは『素敵なドレスは贈り物ですか?』と聞かれて肯定するとまた歓声が起きた。
どうやら、アンディは英雄視されていて、今まで落ち着くまで外に出て行かなかったので、皆がアンディを待ち構えていたところに婚約者連れで現れたので、英雄夫妻万歳とでも言いだしそうな熱気であふれていた。
エミールとセレーネはそっと抜け出して一足先に観覧席に向かった。従僕に言い置いておいたので、それを聞いたアンディとレティシアが個室の観覧席に入った時には、二人は優雅に紅茶を楽しんでいた。
「お疲れ様」
「お先にすみません。大変な騒ぎでしたわね」
そうエミールとセレーネが言う頃には、アンディもレティシアも疲労困憊で、セレーネが頼んでくれた温めのお茶を飲み干した。
「リューク伯父さまが出掛けないように言われた訳がわかったわ。これが一人だったらと思うと、とてもじゃないけどどうにもならないわ。それにエミールとセレーネ様をお待たせしているからって切り抜けられたから、一緒に来てくれてとっても助かったわ。でもこれっていつまで続くの!?戦勝パーティとか出来ないのは分かるけど、ローゼ家で夜会くらい開かないと、きっとどこにも行けないわ」
「そうは言っても、もうすぐ王宮のシーズン終わりの舞踏会があるし、うちの夜会は俺がデビューシーズンだったから、初めの方に盛大にもう開いている。王宮にはレティシアは行かないのだから、外に出た時は悪いが我慢してもらうしかない」
「……そうね。アンディの方が大変なのだものね。ごめんなさい」
「いや、俺もそろそろ落ち着いた頃かと思っていたが、このところ大きな戦が無かったから、皆興奮しているようだが、実際はそんな綺麗なものではなく泥臭いし血生臭い話なのだがな」
「次期様……モーヴァンのように国境に近い領の者達は、本当の意味で侵略から守って下さったローゼ家の次期様に感謝と尊敬を捧げておりますわ。うちの父も、お若い身で最前線に立たれた次期様のこと、とても驚いてどんな賛辞も追いつかないと言っておりました。戦争が悲惨なものであることをよく承知していて、感謝のあまり思わず声をあげてしまう者もいると思いますので、お気を悪くなさらないで欲しいのです」
セレーネがそう言うとアンディは淡く微笑んだ。
「次期様ではなく名前で呼んで良い。セレーネ嬢は、エミールの婚約者なのだから」
「ありがとうございます。では畏れ多いことですが、アンディ様と呼ばせて頂きます」
「ああ。そうしてくれ。エミールはミゲルと共にローゼ門下家では私の右腕となってもらう。貴女もレティシアを支えてやって欲しい。お願いできるか?」
アンディにそう請われたセレーネは、少し震えてから
「できる限りこの身で役に立つのでしたら、レティシア様を御支えすると誓います」
横で聞いていたレティシアは、色々重すぎる!!と突っ込みたかったが、二人がとても真剣だったので、とても口をはさめなかった。そして何だか主従の誓いみたいな話になって来たが、一応アンディがレティシアの為にセレーネに助けてやって欲しいとお願いしたっていう事だと理解したが、セレーネがアンディを神格化していないか心配になる。
一応、今のところセレーネはレティシアに対しては普通に接してくれるが、アンディと結婚した途端、堅苦しくならないかという不安はあるものの、それは先の話なので黙っておく事にした。エミールでさえ二人に何も言わないのだから、門下家からローゼ家に対しては、これが普通なのだろう。
「そろそろ劇が始まりそうよ」
とレティシアが声を掛けると、皆が正面を向いた。辺りの明かりが消えてどん帳が上がると二人の可愛らしい姉妹の登場の場面から劇が始まった。
二人にそれぞれの婚約が告げられ、姉のアリスは侯爵家嫡男のレスター、妹には伯爵家の次男で子爵位を譲られる予定のジェニー・ウィンストンが演じるセオドアである。
レスターはお堅い俺様タイプでちょっとアンディっぽい。そしてセオドアはオシャレでお喋りも上手な
遊び人。次男の気軽さもあって、城下にも繰り出して平民の女の子にもモテるチャラチャラした男。
これはレティシアの周りにはいないタイプだ。レティシアに少しでも寄って来たら父に消されかねない。セオドアのチャラ男ぶりを見て、物語にするくらいだから、結構こういう人は現実にいるのかもしれないと思った。
そして、お堅いレスターと細かい諍いがあって街に憂さ晴らしに初めて降りたアリスが、案の定ならず者に絡まれる。お嬢様が一人でうろうろしてれば当たり前な話なのだが、そこに助けに現れるヒーローが妹の婚約者のセオドア。
助けて貰っても、本当は怖かったアリスだが、セオドアに弱味を見せられないと精一杯の虚勢を張る姿に、遊び人のセオドアがノックアウトされて、上手く誘導して楽しく街歩きする事になる。
この街歩きが数回続く頃には、遊び上手で楽しいセオドアにアリスは夢中になってしまう。
レスターはアリスとに関係を修復しようと伯爵家に通うが、アリスは留守で応対はセリスがするうちに、レスターの相談相手になる。
セリスからすると遊び人でチャラ男の婚約者より侯爵家の嫡男のレスターの方が落ち着いていて、比べるべくもない。アリスが羨ましくて仕方ないセリス。
そして自分の話を真剣に聞いてくれて、共感するうちにレスターもセリスに魅かれて行く。
二組とも相手の事など知らない恋人たちは、背徳感もあって一線は超えないが、誰にも言えずに思いが燃え上がる。特にアリスとセオドアは、セリス達よりも激しい恋に堕ちて行ってしまう。
セリス達は、頬にキスくらいで二人とも罪悪感を持って思い留まるくらいモダモダした初々しいカップルで、見ている観客たちは、アリスたちと比べてもうキス位したって……と応援したくなってくるから不思議だ。
アリスの結婚式前夜、アリスとセオドアは月夜の下で抱き合いながら、「毎夜同じ月を同じ時間に見ましょう。そして来世では一緒になろう」と約束して泣く泣く別れる。令嬢方にはここが見せ場のようで、セオドアが名残惜しくアリスを引き留めて口づけを何度も交わすのをうっとりと見ている。
そして何も知らない四人は、それぞれ愛のない結婚をして、そしてアリスとセオドアは月を見て毎夜相手を思って涙を流し、セリスとレスターもお互いを想いながら、二人で秘密で贈り合った指輪を愛おしそうにそっと撫でて、そして幕がおりた。




