48 初デートはWデート1
「メルヴィナ様の件、どうにかなりそうで良かったわ」
レティシアが安堵のため息を吐くと、アンディは
「父上が甘すぎるとは思うが、ルドゥーテ侯爵家も今回の件は反省もしているようだし、元々忠誠心の篤い家だから、特別にお許しになられたのだろうがな」
とやはりレティシアと同じくほっとしているようだった。
「側妃の件も落ち着いたし、戦後処理も俺が関わる件は片がついたから、どこか気晴らしに出掛けないか?」
アンディからの初デートのお誘いに、レティシアが声に出さず驚いていると、アンディはバツの悪い顔になった。
「今まで、こうして誘わないでいた事は悪かった。言い訳はしない。これからは一緒の家に住んでいるとはいえ、出掛ける機会を増やしたいと思っているが、レティシアは、一緒に出掛けてくれるか?」
「ええ。勿論よ。アンディが誘ってくれるなんて驚いてしまったけど、嬉しいわ」
ここまで少しだけ緊張していた様子のアンディは、レティシアの諾の返事に気を良くしたようだった。
「では、在り来たりだが観劇などはどうだろう?今は人気の演目だったと思うが」
「そうね。令嬢がたに人気の俳優さんが出ているわね」
レティシアは実はもっと演技派の渋めの歳上俳優のファンなのだが、それはここでは黙っていた方がいいことくらい弁えている。
「それで、一緒にエミールとセレーネ嬢を誘って、エミールの奮闘ぶりを楽しもうと思うんだが、レティシアはどう思う?」
「いいわね!それ絶対に楽しいわ!でも、あちらにお断りされないかしら?」
「俺が誘って、アーデン家とモーヴァン家が断るのか?有り得ないだろう?」
……若様の強権発動とか、二人が気の毒過ぎて純粋に楽しめないじゃないの!とレティシアは心の中で『ごめんなさい』と二人に手を合わせた。
♢♦♢
翌々日の夕方に『これって王族が乗ってるって誤解されるんじゃない?』とレティシアが思うほど公爵家が所有する中でも一番上等な白地に金箔の飾りの付いた馬車でエミールとセレーネを迎えに行くと、セレーネはエミールが迎えに行ってからアーデン家で待機していたようで、観劇用に着飾った二人が待っていた。
エミールの横でセレーネが深く膝を折り
「セレーネ・モーヴァンでございます。次期様とレティシア様にお誘いいただきありがとうございます」
とても緊張して挨拶をするセレーネにレティシアはだいぶ申し訳ない気持ちになった。レティシアとお茶会で令嬢同士で気さくに喋ってくれていたので気にしていなかったが、ローゼ公爵家は主筋の家で、ましてあまりご令嬢と会話しないアンディとは、もしかしてこんなに近しく話すのは初めての事かもしれない。
アンディは特にセレーネの緊張に頓着せずに
「アンディ・ローゼだ。今日は誘いを受けてくれて嬉しく思っている。挨拶はこの辺で、馬車に乗ってくれ」
と二人を超豪華馬車に誘い入れた。エミールが手を貸して馬車に乗る姿は微笑ましく、アンディとレティシアはじっと二人を凝視してしまった。
「二人とも、初デートで僕たちを誘うとか、ムードなさすぎるよ。しかもはっきり言って僕たちの邪魔だから、覚えておいてよね!」
お断りできないお誘いに、エミールはちくりとアンディに嫌味を言って来た。アンディはセレーネに緊張を強いてしまった事に少々思うところはあるようで「覚えておく」と短く返して苦笑した。
「セレーネ様お久しぶり。今日は一緒に観劇が出来て嬉しいわ」
レティシアがセレーネに挨拶すると、セレーネもレティシアの存在に救われたようににっこりと笑みを浮かべた。
「レティシア様とはお茶会以来ですわね。ご機嫌よう。お手紙のやり取りが多くございましたから、あまりお会いしていない気が致しませんわ」
「そうね。セレーネ様とは文通仲間ですものね。この舞台の話も思えばセレーネ様にお聞きしたのよね?」
「そうなのか?何だか人気俳優が出るとか言っていたな……」
アンディが話に入って来た。
「次期様がチケットを取って下さったとお聞きいたしましたが」
「ああ。実は母上に聞いて、若いご令嬢に評判の良い演目らしいとしか知らなくてな」
あまり興味が無いのにレティシアの為にローレンシアに聞いてくれたのかと、少しだけ感心する。元々脳筋のアンディに恋愛ものって違和感があったが、レティシアの為だと聞くと、レティシアも嫌いではないがそれ程夢見る方では状況的にもなかったので、冒険ものや、アクションものでも構わないと次回から言っておこうと思った。
今日の舞台は『アリスとセリス』という題名の伯爵家の二人の姉妹の恋物語で、アリスとセリスはお互いに決められた方じゃない相手の婚約者を好きになってしまうという、切ないラブストーリーだった。あまりにも人気の演目の為、多少の演出の違いやキャストの違いはあっても、令嬢ならば一度は見たことがある演目だった。アリスとセリスの葛藤や、お互いの婚約者達にほのかな恋ごごろを募らせながらも苦しく甘い内容を、どう料理するのかで面白さが変わって来る。
人気俳優はセリスの婚約者役で、ジェニー・ウィンストンという若く顔立ちの綺麗な青年だが、少し気分屋なのか演技にムラがあって、今日は当たりの日だといいなと思うレティシアだった。




