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エミールは、招かれたローゼ公爵邸で、アンディとレティシアから、もの凄く凍てついた視線にさらされていた。


目の前には温かな紅茶から湯気を立てているのが見えるが、それをも冷やしてしまいそうな程、無言の二人の視線が冷たい。理由は分かっているものの、一応親切のつもりでしたことなので、そこまで怒らなくてもいいのではないかと思わないでもない。


「一応釈明させてもらえるならば、うちの父上がとても心配していて、僕になんとかしろという無茶振りが有ってね…」


少しでもレティシア達の機嫌が上向く様に言い訳をエミールがしてみると、レティシアは美しい笑みを見せたが、その目は少しも笑っていなかった。


「ごめん!二人はセレーネ嬢に頼んだ事を怒っているんだよね?」


本気でエミールが謝ると、レティシアは「やっぱり確信犯だったのね」と呆れた様に言うと、アンディも頷いて「ご令嬢に頼む内容では無かったと思うがな」と声を低くしてエミールを見据えた。


レティシアは、普段のエミールの紳士ぶりからすると、どうしてあのような伝言を頼むような事をしてしまったのかという気持ちと、あの手紙を四苦八苦して書いたであろうセレーネが気の毒になってしまった。


「ねえエミール。貴方、セレーネ様にどれだけ苦戦している訳!?今迄のお礼に聞いてあげてもいいわよ」


怒りながらも、今迄散々世話になったエミール相手なので、レティシアは少しだけ態度を軟化させた。


エミールは苦い顔をして、「全然異性だと思われてないんだよ…」とレティシアが予想していた事を言って来た。


「何故そんな風に思うの?元々ファンの振りだったのは聞いたけど、セレーネ様って確実にエミールの事を好きだと思っていたのだけど」


今回の件はそれほど必要な事だったのかとエミールに問いたい!


「それって人としてだと思う。それはそれで悪くないんだけど、ほんの少しは男として意識してくれないかなぁって思っちゃうんだよねぇ」


ため息を吐くエミールは、レティシアとアンディが思うよりは悩んでいる様子だった。


「セレーネ嬢が、他のご令嬢に合わせて僕のファンって感じに振舞っていた事は気にしてはいないんだけど、何とも言い難い状態なんだよね。婚約者としては。話も合うし気も合うんだけど、何だか同性の友人みたいな関係になってしまって、そこから抜け出せないんだよ」


「仲良しになり過ぎってこと?」


「端的にいえばね。婚約者から入ったのに親友になってるって摩訶不思議な状況なもんだから、一応似た環境の君たちの状況を直視すれば、この状態から抜け出せるきっかけになるかなぁって思ったんだけど、ダメもとで頼んでみたら、少し様子が変わってたから、もしかして効果ありかもしれない!」


「そりゃあ、あんな内容の手紙の代筆を頼んだら、意識する以前に普通に恥ずかしくて、いつもと態度も違うだろう」


今迄黙っていたアンディがそう言って「嫌われないといいけどな」とボソッと心に刺さるナイフを放った。


エミールが「やっぱり悪手だったかな~」と珍しくうじうじと悩んでいるのを見て、レティシアとアンディの怒りは完全に消え去った。


「エミールはセレーネ嬢に惚れたから、今の状況が不満ってだけの話だろう?馬鹿馬鹿しい!」


「そうそう!エミールは今迄モテすぎて、ちゃんと恋愛して来て無いから、本命にヘタレなのよ!」


アンディとレティシアに図星を指されて、エミールも「成程ねぇ……」と自分のもやもやする真の気持ちの正体に気が付いた。


レティシアは、ここで成程と言ってしまういつものエミールに戻った事にホッとしたが、もう少し、らしからぬエミールを揶揄いたい気持ちがあったので、少々残念に思ってしまった。


「二人とも気が合うよね。少しは婚約者らしくなって来てるんじゃない?」


更にいつものペースを取り戻したエミールに逆襲に遭った。


レティシアは少々頬を染めつつ、「別に普通よ!」と返すと、それを生温かい目でエミールに見返された。セレーネ様にヘタレのくせに!!と心の中で毒づきつつ、アンディの反応を見ると、アンディは意外にも落ち着いていて、レティシアの方を見てからふんわりと微笑みを浮かべた。


『本当にいい感じになってるんだな。良かった』とエミールが聞こえないくらいの声で呟いた。自身の今後の為にアンディに何があったか後で聞こうと決めて話題をメルヴィナの事に変えた。


「メルヴィナ嬢のこと、知ってると思うけど、アーデン家とモーヴァン家では、ルドゥーテ家の話は噂くらいしか入って来ないけど、セレーネ嬢の話だと取り巻きの令嬢がたは同情的な見方をしているらしいから、本人は乗り気では無いという事なんだろうね」


ほのかに暗い雰囲気で話すのは、今でもエミールを想ってくれているのが、分かっているからだろう。


「リューク伯父様からしたら、かなりの救済措置だもの。それに貴族の娘が好きな人に嫁げるのは稀な話よ!その辺り、メルヴィナ様は侯爵家の長女としてはご自覚が薄すぎるわ。ミリアリア様だってジュリアン王子派じゃなかったのよ!」


レティシアが勢いで言ってしまうと、エミールは目に見えて表情を暗くした。


アンディに肘で突かれ、レティシアも気付いて「ごめんなさい…」と気まずくなってしまった。


メルヴィナやミリアリアのような高位のご令嬢ほど、現実的にエミールと結婚出来る可能性が高かった為に、側室と寵を争わなければ成らない王家に嫁ぎたい気持ちに成らないという理由も深層心理に有って、ジュリアン王子よりもエミールに傾いたのかもしれないとレティシアは考えているが、本当のところでは人の気持ちは分からない。


アンディが「メルヴィナ嬢が嫌がるなら、望んで側妃に上がってくれる令嬢に変えた方が良いだろう。父上に話しておこう」と言い出したので、レティシアとエミールで慌てて止めた。


「ダメよ!」

「駄目だよ!」


「それではメルヴィナ様は修道院に行かされるわ。その、エミールの事もあるかも知れないけど、メルヴィナ様は、きっと同じ侯爵家のミリアリア様がご正妃なのがご不満なのだと思うわ」


「そうかもしれないね。彼女はプライドが高そうだから……」


エミールは言い淀んだが、それでもメルヴィナにとっては、側妃になったほうが本人の為だろうと力説した。


レティシアもそう思うとアンディに訴えると、アンディは、メルヴィナが不満だと表に出るような言動をしないように、ルドゥーテ侯爵にリュークから注意を入れて貰うと譲歩した。


「そうね。メルヴィナ様は表に出てきていないのだから、ご友人に文などで伝えた可能性が高いわ。そういう不敬な行動が王家に知れれば、ローゼ家にとってもまずい状況に成りかねないものね」


レティシアが令嬢ならではの分析をすると、アンディもエミールも、ことはルドゥーテ家の娘の我儘では済まされない為、早めの解決が望ましいという意見で一致した。


レティシアが日も落ちて来たので、男同士で久しぶりにお酒でもと気を利かせて退出すると、エミールは、二人の雰囲気が微妙に変わった事に深い関心をみせた。


「やっぱり何かあったの!?」


「お前が思ってそうな事は無い!」


「本当に?」


疑わし気にエミールが聞くと、アンディは「レティシアがミゲルでは駄目だというから……」と言うとエミールは目を丸くして「そんな事、今更だよね?」と驚いた顔を見せた。


「今更ながらレティシアの結婚相手は俺で、その逆もそうなんだと自覚させられただけだ」


「ふーん。何だかやっぱり戦のせいでアンディにも気持ちの変化があったみたいだね」


エミールがアンディに気遣わし気な視線を向けると、アンディは心配してくれているのが分かって「大丈夫だから」とエミールに分かるように力強く言った後に、「それからセレーネ嬢のこと、面白そうだからこれからも相談に乗るから」とエミールの肩をポンと叩いた。


「面白そうなんて言われて、普通、素直に相談すると思う?悪いけど親身になってくれるレティシアの方に聞いて貰う事にするから!」


エミールは「その時はついでに横に居ても良いよ」と、不敵に、にっこりと笑んでから、用意されたワインを一口飲んだ。




エミールは、はぐらかすのが上手いと思います。そんなエミールが無意識にセレーネ様にどんどん翻弄されて行って欲しいなぁなんて、思っていたりします。


続きは早めに心掛けます。前回から日が経つのが早すぎてもう師走!令和元年中に何話か投稿できるといいなと思います。m(__)m

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― 新着の感想 ―
[一言] 最近リアルが忙しくてなろうから遠ざかっているので、更新されていた話を一気に読みました。 アンディとレティシアの関係が少しずつ進んでいるのが新鮮で微笑ましい^ - ^ そして本命に意外とヘタレ…
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