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夢の果てで、またいつか  作者: 雨宮


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14/30

ひと時の幸せ

 その日を境に、私と翔の関係が劇的に変わったわけではなかったが、それでも私は十分だと思えた。

 連絡先を交換できたということは、明確な前進だ。

 

 前の私ならば、昔のことを何とかして思い出してもらおうと、必死になっていただろう。

 でも、今は見たことのない景色を二人で見たいと思った。

 付き合っていた頃、一度も遊園地へ行こうという話になったことがなかったことを思い出して、私は思い切って翔を誘った。

『来週の日曜日、暇? よかったら遊園地行かない?』

 返事は、どちらでもいいと自分に言い聞かせる。

『もちろん、強制じゃないから。気軽にね』

 ちゃんと予防線も張っておく。もし断られても大したことじゃないと、思わせるために。でも、やっぱり期待してしまう。そんな自分と折り合いをつけながら、翌日を迎えていた。

 私は、大学のピアノ室へ直行していた。


 いつも通り、練習曲から入る。

 弾き心地は悪くない。ある程度指を慣らした後は、書類選考に使用する曲を弾く。

 指先にも熱が入り、勝手に動く。感情も乗る。

 私が何度も弾いてきた中での一番の出来栄えだった。弾き終えた後、ちょうど連絡が入った。翔からだった。

『いいよ』

 シンプルな文面は、私を舞い上がらせるのに十分だった。

 しかし、どうしてもニヤニヤしてしまう。そんな自分を落ち着かせるために、もう一度ピアノに向かう。

 でも、指先はしっかり浮かれていて、鍵盤に手がついていなかった。

 先ほどの人生一番の演奏が嘘のように、手は冷え切っていて、ミスタッチばかりだった。

 

 ピアノ室を出る。そこに楓がいて驚いた。

「楓、いつからいたの?」

 私の質問など耳に入っていないようだった。顔がにやけすぎて、原形をとどめていない。

「やっと翔くんと、デート漕ぎつけたんだって?」

 つい数分前のやり取りが、筒抜けになっている。

「誰から、聞いたの?」

「矢沢君」

 その組み合わせに余計声が出た。

「楓、いつの間に?」

「彩音と一緒に翔くんの大学に乗り込んだとき、同盟を結んだの」

「同盟?」

「二人を幸せにしてやろう同盟」

 まさか、そんなことをしているなんて思いもしなかった。じゃあ、もしかして。

「あの日のバイト先のコンサートに、翔を仕向けたのは、矢沢君と楓のせい?」

 やっと気づいたかといわんばかりに、楓は胸を張った。

「彩音のコンサート情報を矢沢君へ提供したの。そしたら、矢沢君『あいつは真正面から攻めても、ダメだ。回りくどい作戦で行かないとな。あとは俺に任せろ』って快諾してくれた。そして、あの奇跡の再会劇が生まれたって訳」

 そんなこと、全然知らなかった。

「てっきり、奇跡が起きたのだとばかり……勝手に思ってた」

 奇跡なんて起きないことは、さんざん思い知らされていたはずなのに、勝手にそう思っていた自分が恥ずかしかった。やっぱり、私ひとりじゃ何もできなかった。みんなの力を借りてこそ、だ。

「ありがとうね、楓」

「いいの、いいの」

 楓は、上機嫌にそういう。そして、「矢沢君に結果報告しないと」と言って、スマホへ目を落としていた。

 恋している横顔だった。

 この借りは、いつ返そうか。私はそんなことを考えられる今が、この上なく贅沢だと思った。


 それから約束の日がやってきた。

 私は、おしゃれをして、現地へ向かう。ちゃんと地面に足がついているのかわからないくらい、足元がふわふわする。

 待ち合わせ時刻より、少し早めに到着する。

 以前ならば、それでも翔の方が早く待っていることが多かった。なかなかないパターンで、やっぱり前とは違うんだなと思う。

 しばらくすると、翔が現れた。なんとなく、まだどんな顔をしていいのかわからない。そんな表情だ。

「今日は、来てくれてありがとう」

「いや……俺の方、こそ」

 ぎこちないやり取りは、ちょっとした緊張感を生む。

 私は、それを払いのけるように、背中を押した。

「いくら地方遊園地だっていっても、早く行かないと、混んじゃうよ」

「酷い、言いようだな」

 翔はそう言って、苦笑する。


 その後は、私が翔を引っ張りまわした。

 まず手始めに、ゴーカートやシューティングゲームなど子供でも楽しめそうなもので肩慣らし。そして、いよいよ本格的な乗り物へ移ろうと、指をさす。

「ねぇ、次あれ乗ろうよ」

「絶対無理」

「え! 絶叫系苦手だったの?」

 どんどん苦々しくなっていく顔が新鮮すぎた。

「ふわって、お尻が浮き上がるようなスリルが、また楽しいんじゃない!」

 からかってみれば、本気の言い訳が返ってくる。

 結局、ジェットコースターは断念して、お化け屋敷に変更した。しかし、そこでの翔がまた面白いくらい怖がるから、お化け屋敷に私の笑い声が響き続けていた。

「翔の苦手なものが知れて、大満足」

「覚えてろよ……」

 恨めしい顔でそういうけれど、そこに笑顔が乗っていた。

 その後、綺麗な夕暮れが広がる。

 翔が傍にいてくれるだけで、全部が星をちりばめたようにキラキラして見える。

 しかし、その煌めきはほんの一瞬で、夜の暗さの中へ消えていく。

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