7. 精霊たちの名前
……いや、ほんとにどういう状況?
内心でため息をつきながら、厨房に着いて気を取り直した。
「みんな何が食べたい?」
すると、すぐに一人――いや水の精霊が、すっと背筋を伸ばして答える。
「ご主人様がつくってくださる物なら、全て美味しくいただきます」
迷いのない即答だった。
一瞬ぽかんとしたあと、思わず聞き返す。
「というか、私、あなたたちのご主人様なの?」
「はい」
今度は風の精霊が、まるで当然のことのように頷いた。
「この城の鍵を開けた時にこの城の全てがご主人様の物となりましたので、ワタクシたちもご主人様の物です。如何様にも……」
「物騒な言い方しないでください!」
思わず食い気味にツッコミを入れる。
なんか危ないワードが聞こえた気がする。いや、絶対聞こえた。
「そして、わたしたちを甦らせたのもご主人様でございます」
よみがえる、とは?
「話はわかりました……」
全然わかってないけど。
「とりあえず名前で呼んでください」
コホン、と軽く咳払いをして、少しだけ柔らかく微笑んだ。
「私は……神代 心陽。コハルで」
その言葉に、精霊たちは顔を見合わせ――次の瞬間、次々と名乗りを上げた。
「わたしは水の精霊『オパール・イリデッセンス・アクアソフィア』です」
「ワタクシは風の精霊『ラピスラズリ・カエルラウム・ヴェントゥス』と申します」
「それから、その子は――」
「ちょ、ちょっと待って!」
コハルは慌てて両手をぶんぶんと振った。
「覚えられない以前に、聞き取れてもいないからー!」
腕の中のモフリとしたものが楽しそうにケタケタ笑っている。
長ったらしい名前を全て覚えられるような天才じゃない。
「呼び名を決めます!」
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水:『オパール・イリデッセンス・アクアソフィア』→【パール】
風:『ラピスラズリ・カエルラウム・ヴェントゥス』→【ラズリ】
土:『ヌーマイト・テッラ・クストディア』→【マイト】
火:『スピネル・インカンデッセンス・イグニスドラコニス』→【ネル】
闇:『オブシディアン・ノクティス・リブラリウム』→【ディアン】
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天井近くにぶら下がっていたコウモリ、ディアンが、静かに翼を揺らす。
「――オレは別にいいぞ」
全員の視線が一斉にこちらへ向く。
ほんの一瞬の沈黙のあと――
「承知いたしました、コハル様」
……思ったよりあっさり受け入れられたな。もっとこう、格式とか言われるかと思ったけど、良かった。
ひとまず、この話は終わりにしておこう。
「こほんっ」
軽く咳払いをして、本題へと移る。
「ところで私、神様にこの森の管理人の仕事をもらったんだけど……何をしたらいいかな?」
その問いに、パールが
「ディアンの解析によると……」
ディアンが天井から降りてきて、淡々と語り出す。
「前の管理人が居なくなってから、二百九十三年と八十六日が経過している」
「……およそ三百年でいいかな……」
思わず遠い目になる。
「これだけの時間、管理していなかったとなると……」
ディアンの言葉に、他の精霊たちも静かに耳を傾ける。
「なると……?」
嫌な予感がする。
「森はおそらく、無法地帯となって安定しているだろう」
「安定しちゃってるの!?」
思わず素でツッコむ。
もはや手遅れ感がすごい。
ゆっくりと目を閉じ、そのまま天井――いや、遥か上の空を仰ぐように顔を上げた。
……帰りたい。
帰れないけど。
「ご安心ください、コハル様」
ラズリが一歩前に出て、優雅に微笑む。
「ワタクシたちがお手伝いいたします!」
全員の視線が、再び集まる。
「はい……」
乾いた笑みを浮かべながら、小さく頷いた。
「それはもう、よろしくお願いします……」
あなたたちが頼りです……
初めて自分で選んだ人生が不穏でしかない。




