6. 精霊は何人?
私は厨房で腕を組んだ。
「やること、多いな……」
野苺と天然酵母。それから――
「糠床も欲しい」
米はないけど、ふすまならいけるはずだ。
「よし、両方仕込む」
まずは野苺。軽く潰して水と一緒に瓶へ。
「うまくいけば、ふわふわパン……」
夢が広がる。
次に糠床。ふすまに塩と水を加えて混ぜる。
「早く神様にお供えしないとな」
仕込みは完了。あとは数日待つだけだ。
それから、牛っぽい魔物の肉も処理しておかないと勿体ない。
どれくらい作ればいいんだろう。
……多めでいいか。
気づけば、外はすっかり暗くなっていた。
ふと横を見ると、あの子供がうとうとしている。
遊びに出ては戻り、またどこかへ行って――ついに力尽きたらしい。
「……寝る?」
こくん、と小さく頷く。
「じゃあ、ベッド行こ」
その夜は、子供と一緒に眠った。
本当に迷子じゃないといいけど。
――翌朝。
「……ん」
目を開けると、隣に――
「……え?」
子供が、いない。
代わりに。
「……タヌキ? いや……アナグマ?」
もふもふの塊が、すやすや眠っている。
「……なんで?」
しばらく見つめる。
「……異世界だし、ね」
――いや。
全てそれで済ますのは、ダメな気がしてきた!
そっと撫でてみる。
「……もふもふ」
やばい。手が止まらない。
そのとき。
「おはようございます、ご主人様」
「うわぁ!?」
ベッドの上で飛び上がる。
そこにいたのは、完璧な姿勢の青い髪の美人メイドだった。胸元は少し苦しそうだ。
「……誰?」
「ヘビでございます」
「いや意味がわからない」
改めて見ると、宝石みたいな瞳に見覚えがある気がする。
朝から情報量が多い。
メイドは優雅に一礼した。
「お着替えの準備が出来ております」
「その前に説明をお願いしたい……」
「おなかすいた」
足元から声がする。
見ると、アナグマが目をこすりながらこちらを見上げていた。
「……しゃべった」
もう一度見る。アナグマ。
「おなかすいた」
「……うん」
少し考えて、結論を出す。
「異世界だもんね」
やっぱり考えるのをやめた。
メイドに連れられて廊下を歩く。
「で、あなたは誰なの」
「水の精霊でございます」
「精霊!?」
さらに情報が増えた。
頭が追いつかないまま、階段を降りる。
そして――
「……え」
玄関ホールは風が、吹いていた。
「……ピカピカ?」
昨日まで埃だらけだった床が、鏡みたいに光っている。
その中心に、一人の男がいた。
長身で、整った顔立ち。瑠璃色の瞳に銀の髪。完璧な執事服。
風を操りながら、掃除している。
「……また増えた」
男は手を止め、こちらを見ると、にこりと微笑んだ。
「おはようございます、ご主人様」
「うん、だから誰」
風がすっと収まる。
男は優雅に一礼した。
「風の精霊にございます」
「精霊いっぱいいるのね……」
思わず額を押さえる。
「ちょっと待って、処理が追いつかない」
腕の中のアナグマが、得意げに言った。
「あのね、ごはんいっぱいつくってくれたからね、でてこられたの」
「さらっと重要そうなこと言ったね?」
ふと足元を見ると、トカゲが胸を張って歩いている。
「……お前も?」
じーっと見る。
「お前は……まぁいいや」
さらに視線を上げる。
梁の上。コウモリ。
「……みんな?」
深く息を吸って、吐いた。
「……とりあえず」
「ごはんにしよう。みんな何食べたい?」
「ところでこれで全員なの?」
「六柱でございます」
一、二、三、四、五……指を折って数える。
「五人だよね?」
「あと一柱は……」
「もう少し時間がかかりそうです。」




