5. みんなって誰?
城に戻った私は早速つまずいた。
森の地図を探したいけど、書斎の場所がわからない。
この広い城を片っ端から捜索するのか、とげんなりしてしまった。
「……」
視線を感じて足元を見ると
トカゲが、じっとこっちを見ていた。
「まだついてきていたの?」
声をかけると、くいっ、と首を振って得意気にすたすたと歩き出すトカゲ。
「……付いてこい?」
半信半疑でついていく。
曲がって、曲がって、また曲がって――
扉の前でトカゲが止まった。私がひとりで探したら三日は見つけられなかったかもしれない。
中は壁一面、天井まで本がびっしり。
書斎というより図書館だ。
「おおー!」
テンションが上がる。
中に入ろうとすると突然、
ばさっ!
邪魔するように上から翼の音がした。
コウモリ……
天井にぶら下がりながら、じっと見下ろしてくる。明らかに歓迎されていない顔。
「森の地図、欲しくて」
ばさっ!
ダメだ、ってこと?
その時。
「キュッ!」
トカゲが前に出た。
コウモリを睨み、コウモリも睨み返す。
「キュッ!」
ばさっ!!
「うわっ!?」
喧嘩が始まってしまった。
トカゲがジャンプし、コウモリが羽ばたく。
トカゲとコウモリの取っ組み合いは初めて見るので、この場合どっちが勝つのか興味はある。あるが……
棚が揺れ、あちこちから本が落ちてくる。
まだ一冊も読んでないのに傷つけられてはたまらない。
そもそもくだらない理由で喧嘩をしているような気がしてならない。
そんな時は
「ごはん、食べる?」
ぴたっ。
「あ、止まった」
トカゲもコウモリも、ゆっくり振り返る。
「……食べる?」
こくん。
単純で助かった。
数分後――
お互い牽制しあいながらも厨房まで大人しくついてきた二匹。
「何が食べたい?」
「……」
「……」
首を傾げるだけ。
「まあ、だよね」
多分普通のトカゲとコウモリじゃなさそうだし、何を好むのか……。
コウモリ=ヴァンパイア……?
さっきの牛あるし。
――しばらく後。
ぐつぐつと、鍋が音を立てる。
「牛肉のトマトワイン煮込み」
トカゲとコウモリががっつく。
コウモリは羽ばたきトカゲはぴょんぴょん。
「気に入って頂けたようでなにより」
「で、図書室使っていい?」
ぽとん、と一冊の本が目の前に落ちてきた。
***
翌朝。
日課のようにとりあえず厨房へ向かった。
「さて、今日は――森に出るなら安全対策が先よね……」
ぴたっ。
「……あ」
作業台の上にちょこんと、小さい人影がある。
茶色い髪がふわふわの五歳くらいの子が、鍋を抱えるように覗き込んでいた。
「…………」
「…………」
目が合う。
お互い、完全に停止。
ヒュると柔らかい風が二人の間を吹き抜ける。
「……えっと」
「どこの子?」
「ここの子」
即答だった。
「パパとママは?」
「いないよ」
「いないの!?」
さらっと重い。流そう。
子供が見詰めてくる。
「……今日はごはん、ないの?」
嫌な予感。
「昨日のスープ、食べた?」
「おいしかった」
「お前か……」
静かにため息をつく。
「全部?」
「みんなで」
「みんな?」
「今日も欲しい」
私の質問は宙に浮いて消える。
「おなか、すいてるの?」
「すいてる」
「今日は作り置きはないから、作って上げるよ。何食べたい?」
少し考えてから――
「おやさい」
いい子かもしれない。
クリっとした茶色いお目々が可愛い。なんでも作ってあげたくなる。
「パンはまだないから……」
ちらっと厨房を見る。
「よし、ピザにしよう」
フライパンに生地を広げ、野菜をたっぷり乗せる。
「これならすぐ焼けるし」
じゅう、と音が広がる。
「いい匂い」
子供の目がきらきらしていた。
――ガタン。
「ん?」
振り返る。
「みんなも、たべたいみたい」
「え?」
子供が、当たり前みたいに言う。
「みんな?」
もう一度聞いてみる。
こくん、と頷く。
「あのね……」
少しだけ声を潜めて。
「ごはん、いっぱい食べないとね」
「出てこられないって」
それは、どういう意味?
じゅううう……と、ピザの焼ける音だけが響く。




