4. 結局トカゲは強いのか?
森に入って数分。
「……ついてきてない?」
ちらっと後ろを振り返った。
赤と黒の小さいトカゲが、ぴょこぴょことついてきている。
「なんで?」
目が合うと、ぴたっと止まる。
でも歩き出すと、またついてくる。
「……まあ、いいけど」
害はなさそうなので放置することにした。
森の中は色々な音がする。風の音に、獣たちの声。広葉樹が天を塞いで薄暗く、ひとりで歩くには心細い。ちっちゃいトカゲでもちょっぴり頼もしい。
「お、あれって――」
目が輝く。
低木に、赤い実。野苺に似ている。
パンを焼くために天然酵母を作ろうと思っていたからこれを使ってもいいかもしれない。食料庫にイーストはなかったのだ。
ふかふかパンを想像して、手を伸ばした――その時。
がさっ。
「……え」
顔を上げると、巨大な赤いクマがすでに至近距離に迫っていた。
お互い野苺に気を取られ、気が付くのが遅れた。
この距離ヤバい。
その時。
赤黒トカゲがクマに向かって、シャーっと火を吹いた。
「おおっ!?」
まさかコイツ。
一瞬で期待が膨らんだ。
そして
ぴょーんっ。
次の瞬間!
もぞっ。
「え、ちょっ」
私の髪の中に、トカゲが突っ込んできた。
現実は非情である。
チビトカゲが吐くライターの炎では一瞬の足止めにもならなかった。
逃げなきゃ。
しかし私が動くより早くクマが手を振りあげる。
間に合わない。
その瞬間――
ドンッ!!と
赤い巨大クマが、勝手に弾け飛んだ。
「……え?」
さっきまでの緊張が嘘みたいに消え、辺りは静寂に包まれる。手の震えだけはまだ止まらない。
「……なに今の」
怪我はない。全くの無事。
髪の中から、ひょこっとトカゲが顔を出した。
「お前、完全に避難してたよね?」
じっと見つめ返して首を傾げる。
悪びれる様子ゼロ。
むしろなぜかドヤ顔?
「……」
「お前が倒したの?」
「キュィ?」
何を言ってるの?という感じで、また首を傾げる。
「人間の言葉なんてわかんないよね?」
まだ強張った顔で笑いかけてみる。
何にしても助かったのは事実だ。
周囲を見回し、森の中は想像以上に魔物らしきものが氾濫している事に驚かされた。
今まで住んでいた山奥でも熊に遭遇することなんて、月に何度もなかったのに。
「……これ、普通に危ないな」
さっきのはたまたま助かっただけだ。
何も考えずに歩くのはよくない。
「地図、欲しいな」
野苺をたっぷり摘んでから一度、城に戻ることにする。
――そして。
城門の前で、再び固まった。
つい小一時間前に見た牛の山が、無い。
影も形も。
代わりにあるのは――
きれいに処理された痕跡だけ。
「解体済み……?」
なぜ。




