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境界の森の管理人~森を守るため、世界を締め出しました~  作者: 久東芽蕗
第二章 森の管理人

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8. 職人への道は甘くない

 

「ぐぬぬ……っ」

 忸怩たる思いである。


 目の前の作業台には、失敗作となった製菓道具たちが山のように積み上がっていた。

 せっかくみんなが、あちこち駆け回って材料を集めてきてくれたというのに、この有様。


 ――無いものは、作ればいいじゃないか。


 そんな神様ことヴェルム様の軽やかすぎる一言から始まった、デコレーションケーキへの道。


 ……遠い。果てしなく遠い。


 ヴェルム様の力を借りた私の結界なら、材料さえあれば何でも作れるんじゃないか?

 そんな希望に満ちた発案だったのだけれど、異世界だからって、そう都合よくはいかなかった。



 まず必要なのは、何よりステンレス。


 けれど、

『鉄とクロムで出来てるんだっけ?』

 程度のふわっとした知識で再現できるほど、世の中は甘くない。


 びくともしなかった。


 何度か試したが、そもそも私は『クロム、ナニソレオイシイノ?』レベル。全然ダメだ。


 仕方なく鉄製であれこれ作り始めた。


 たとえばホイッパー。

 正直、針金をそれっぽく曲げれば完成すると思っていた。

 ……甘かった。

 全然ホイップされない。

 いや、びっくりするくらい泡立たない。


 どうやら弾力性、ワイヤーの本数、角度――そのへん全部が重要らしい。


「うまく空気を含ませる構造にしなきゃいけないのか……」

 独り言が止まらない。


 そして、星口金。

 これは先端に切れ込みを入れるやつだ。

 切れ込みの数で用途が変わるのは知っている。とりあえず分かりやすい六切を作ってみた。


 ……が。


 こちらもまた、

『切れ込み入れときゃいいでしょ』

 みたいな雑な認識では、まるで話にならなかった。

 絞れなかったり、

 絞れるけど全然綺麗じゃなかったり。

 絶望である。


 その他にも諸々。

 挑戦しては失敗し、挑戦しては失敗し。

 気づけば、作業台の上には見事な失敗作の山が完成していた。

 嬉しくない。



「そろそろ休憩いたしましょう」


 パールが、厨房横のリビングから声をかけてくれる。

 どうやらお茶を淹れてくれたらしい。

 マリンちゃんの大改造によって誕生した超豪華LDKは、未だにちょっと慣れないけれど、とにかく便利だった。

 なるほど、前の世界でこの間取りが定番になっていたのも納得だ。



「無駄に力を使って疲れたけど、まだ眠くなるほどじゃないかも」


 ソファに沈み込みながらそう言うと、パールは静かに頷いた。


「無理のない力の使い方を覚える必要がございますね」


「だよねぇ……」


 とはいえ、それも一朝一夕で身につくものではない。

 どうやら私は、まだまだ修行が必要らしい。



 でも、『結界の中で物が作れる』ということはわかった。

 それから多分、私がちゃんとイメージした物しか出来上がらない。

 さらに、理解していないのもダメなのだろう。

 複雑すぎる物は魔力をごっそり持っていかれる感じもした。

 森の境界を断ち切るほどの力ではないにしても、連続で使えば眠りに落ちる。




 失敗作の山に対して、成功した物もある。


 生クリームは、ちゃんと成功した。

 なぜなら……

 昔、工場見学をしたことがあるのだ!

 ふふん。

 生乳を遠心分離して、殺菌、均質化、冷却して寝かせる。

 そんな手間暇かけられた物が、あっという間に出来上がった。

 細かい数値はわからなくても明確な工程のイメージがあれば成功するようだ。


 完成品をぺろんと舐めた瞬間、涙を浮かべてヴェルム様に感謝した。


「チートをありがとうございます」


 必ずや、いつかデコレーションケーキも完成させてみせます。


 ……とりあえずこの生クリームは何に使おうか?



 ところで――

 森って大丈夫なんだろうか?

 デコレーションケーキに夢中になってしまって、本来の仕事を忘れてるような……




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