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境界の森の管理人~森を守るため、世界を締め出しました~  作者: 久東芽蕗
第二章 森の管理人

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9. ラズリは魔王より怖い

 

 デコレーションケーキは、まだ完成していない。

 というか、しばらく完成しそうにない。


 頭の中ではもう完璧にできてるんだけどなあ。ふわふわのスポンジに、生クリームたっぷりで――



 ……って違う。


 私は森の管理人だ。

 デコレーションケーキ製作ミッションより先に、やるべきことは別にある。


「ラズリ」

 呼ぶと、嬉しそうに顔をあげた。


「はい、コハル様」

 穏やかな笑顔。

 なぜか怖い。


「なんか全部うやむやになってるけど……森、その後ほんとに大丈夫なの?」


 一番大事なところ、誰もちゃんと説明してない気がするんだけど。


「問題などございませんよ」

 軽い。

 びっくりするくらい軽い。


「コハルが展開した領域は強固じゃ。外からの侵入は完全に断たれておるし、魔力の流れも正常に戻りつつある」

 マリンちゃんが、長い尾を揺らしながら補足してくれる。


「荒らされた部分はすぐには戻らぬが……我らも力を取り戻した。復興にそう時間はかからぬじゃろう」


「そっか……」

 思わず、ふーっと息が抜けた。


 よかった。ほんとに。

 とりあえずちゃんと守れた。


 だったら、あとは――


「じゃあ、まずは復興を――」


「ただ」


 出た。


 その一言で、全部ひっくり返るやつ。

 私はゆっくり振り向く。ものすごくゆっくり。


「……ただ?」


「繋がっておった異界は、なかなか気の毒なことになっておっての」


 他人事みたいな顔やめてほしい。

 絶対ロクでもない。


「ちなみに……どのくらい?」

 聞きたくない。でも聞かないともっと怖い。


「まず冥界は――」


 あ、やっぱり来た。


「ラズリが三百年分の迷える魂を一気に押し返したせいで、冥界王も管理者たちも過労死寸前じゃ」


「それ、軽く言っていい話!?」


 てか、冥界王って過労死したらどうなるんだろ……



「精霊の郷は長の権限剥奪。この森の管理権も失った」


「あー……うん……」

 それはまあ……因果応報というか……。


「人間界は?」


 一番興味はある。ちょっと怖い。


「ラズリが放置しておる。人間が気付いた時には手遅れじゃ」


「それ一番ダメなやつ!!」


 静かに詰むパターンじゃん。



「魔界は境界が切断されて孤立した。もう他世界を侵略することはできぬ」


「それは良かった……!」

 思わず前のめりになる。


「じゃあ、ひとまず安心だね――」


「じゃが」


 やめて。


 その接続詞ほんとやめて。


「ラズリが、魔界からこちらを見えるようにしておっての」


「……え?」

 ちょっと待って。意味が分からない。


「それ、なんで?」


 ラズリは、いつも通り穏やかに微笑んだ。

 その笑顔が、一番信用できない。


「魔族は奪うことを本能とします。略奪し、支配し、恐怖を糧とする――」


 いや前振りが怖い。


「欲しいものが見えているのに、永遠に手が届かない。これ以上の罰はないかと」


「怖っ!!」


 反射で叫んでた。

 魔王より発想がえげつないんだけど。


「いえ、むしろ親切です」


 どこが!?


「今後コハル様が成し遂げる偉業を、特等席で見せて差し上げられるのですから」


「その発想が怖いってば!!」


 本当に味方なんだよね、この精霊。

 ……たぶん味方。うん。



「えっと……これって、ほんとになんの問題もないの?」

 少なくとも私の胃には重大な問題が発生してる。


「はい。森は平穏を取り戻しました」


 ラズリは迷いなく言い切った。


「周辺各世界については自業自得。それぞれの王が対応すべき問題であり、我々が干渉すべきではございません」


「……まあ」

 言われてみれば、その通りかもしれない。

 森の力を好き勝手に使って、荒らして。

 その結果がこれなら――

 自分たちでなんとかするしかない。

 あの時見た光景を思い出すと、今でもちょっと腹が立つし。


 滅ぼしたわけじゃない。

 ちゃんと“生きて向き合える”ようには残した。

 だったら、あとは――

 それぞれの問題だ。


「……よし」

 私は小さく頷いた。


 とりあえず、やることは決まってる。


「明日から、人間が投棄したゴミの山を片付けるところから始めよう」


 ケーキは――同時進行で頑張ろう。



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