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境界の森の管理人~森を守るため、世界を締め出しました~  作者: 久東芽蕗
第二章 森の管理人

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7. 新たなミッション

 

 広いLDKは甘い匂いに包まれている。

 話しているうちに、デザートが焼き上がった。


 本当はデコレーションケーキを作りたかったのだが、何しろ足りないものが多すぎた。

 まず、スポンジを焼くための丸型がない。クリームを絞るための星口金もない。生クリームもないから、牛乳から作るとなると手間がかかるうえ、ホイップできるほどのものにはならないだろう。


 もちろん――主役の苺もない。


 ないない尽くしで、さすがに諦めた。


 代わりに作ったのは、パウンドケーキだ。柑橘のドライフルーツを混ぜ込んで、甘すぎないようにしてある。


 少々不格好だが、切り分けてしまえば問題ないだろう。



「マイトには、少し蜂蜜をかけてあげようか?」


「あっ、ボクも! ボクも蜂蜜かけて!」


 ……この神様、いつまで居座るつもりなのだろう。

 大事な話は、もう終わったはずだ。 暇なのか?



「これはとても美味しいです! さすがコハル様です!」


 なぜだろう。 あれ以来、ラズリの褒め言葉がまったく信用できない。


「紅茶にもよく合いますね」


 パールの言葉は信用できる。


「ぬぅ……足りぬのじゃ」


「キュイッ!」


 マリンちゃんとネルは……うん、かなり気に入ってくれたようなので、放っておこう。


 ディアンは、こういう菓子はあまり好まなかっただろうか。


 ……いや、ケーキに顔ごと突っ込んで食べている。

 本を汚される前に、ちゃんと口元を拭かせてから図書室へ戻ってもらおう。



「ところで、なんでデコレーションケーキは作れないの? ボク、甘いの大好きなんだけど」


 やっぱりまた来るつもりか、この神!


「デコレーションケーキというのは、どのようなものなのですか?」

 珍しくパールが興味を示した。


「フッ! お前たちは食べたことがないのか」


 ……この神様に世界を任せて、本当に大丈夫だろうか。


「甘くて、酸っぱくて、すごく綺麗なケーキだよ。でも、道具も材料も足りないの」


「どんな道具が必要かわかるの?」


「ええ、まあ一応……」


「そっか! じゃあ、道具を作ればいいんじゃない?」


 ――あ、この神、また変なこと言い出した。


「あっ、なるほど。結界ですか」

 ラズリがポンっと手を打つ。

 相変わらず私は盛大にハテナを飛ばして説明を待つ。


「牛を解体したコハル様の結界なら、逆も可能、ということですね」


 なにが逆なの?


「さっそく、お前たちは素材や原料を集めておいで! デコレーションケーキが出来たらまた食べに来るよ。じゃあ詳しいことはラズリに聞いて。ボク本当に忙しいからまたね!」


 嘘つけ。


「あっ、ちょっ……」

 待って――

 説明――


「キュイン!」

 ヴェルム様が消え、何故かネルもプリプリとお尻を振りながら出ていく。


「ではワタクシたちも行ってまいります」


「どこに?」


 ねぇ、どこに行ってくるの?


 残ったのはモフモフとマリンちゃんだけだ。


「みんなデコレーションケーキとやらを食べたいのであろう。まあ、任せておけば良い。妾はコレをもう一切れ所望じゃ」


 みんながどこに何をしに行ったのかわからないが、デコレーションケーキを作るミッションが勝手に始まったらしいことはわかった。


「私、また流されているなぁ……」

 まあ、みんなに作ってあげたかったのは確かだし、城にある材料を確認しておくか。



 パウンドケーキを口に入れたこのときの私は、まだ知らなかった。

 泡立て器ひとつ作るのに、 あれほど心を折られることになるなんて。




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