6. 空の精霊
ティーカップを持ったまま、私はなんとなく視線を巡らせた。
向かいのソファではヴェルム様がいかにも気軽な調子で紅茶を飲んでいる。
膝の上にはモフモフ(もう、名前、モフモフにしようか)。
コウモリは妙に紅茶が似合う。
理由は不明だが、鳳凰とトカゲが小競り合いをしている。
メイドと執事も、もちろん使用人ではないので後ろに控えたりはせずに一緒にソファで寛いでいる。
何が変って、これを受け入れている自分だ。
そしてニッコリしている。
だけど、そんなほっこりが続くわけもなく――
「あー、そうそう、君さ、いちいちボクの力借りるのやめてくれない?」
ヴェルム様がさらっととんでもないことを言った。
私は思わず瞬きをする。
「……はい?」
「君が力を発動する度、ボクの力使ってるよ?」
「それはどういう……?」
え、ちょっと待って。
私が結界を張るたびに、神様の力を借りていた?
それってつまり、だからなんかおかしなことになっていたってこと?
思考が追いつかず固まっていると、ヴェルム様は呆れたように肩をすくめた。
「印を結ぶって、“ボクに力貸してくれー”ってことでしょう? そりゃ誰彼構わず貸したりしないけどさ、君はボクの森の管理人なんだから、そりゃ貸すよね」
「貸すんだ……」
そんな軽いノリで貸し出されるものなんだ、神様の力。
そういえば、印を結んで山の神様に力を借りるんだって、ばあちゃん言ってたっけ。全く信じてなかったから忘れてた。
「まっ、大した力じゃないからいいんだけど。でも使う時は気をつけてよね。今回も一週間も眠り続けたわけだし」
もしかして心配してくれているのだろうか?
「そういうことでしたか。知らなかったとはいえ、すみません……」
しゅん、と肩が落ちる。
やはり完全にやらかした人の気分になる。
いや実際やらかしたんだけど。
すると、そこでラズリが静かに口を開いた。
「ですが、それだけの力をコハル様がいきなり使えたのは、なぜでしょう?」
その言葉に、ヴェルム様がそれね、と小さく頷く。
「コンフィの血が入ってるみたいなんだ」
「――ああ」
なぜか、その場の全員がなんとも言えない微妙な顔になった。
え、なにその反応。
コンフィって誰?
有名人?
「なるほど。それで結界魔法がお得意でしたか」
ラズリが納得したように頷いている。
いや待って、誰も説明してくれないんですが。
「ボクは“森を守る力”を与えるとしか言ってないのに、勝手に結界魔法使おうとするあたり、コンフィだよね」
呆れたようにため息をついた。
私とコンフィさん、両方ディスられているのは間違いない。たぶん。
「あの……私の話を、私だけが理解できてないようですが」
恐る恐る口を挟むと、ヴェルム様はあっさり言った。
「君、精霊の血が入ってるんだよ」
「……私、精霊なの?」
「いや、人間だろ?」
即答だった。
じゃあその言い方やめてほしい。
びっくりするから。
ラズリがくすりと小さく笑う。
「他種族に精霊の血が混ざるのは、取り立てて珍しいことでもございませんよ」
「まぁ、コンフィっていうのが微妙だけどね」
ヴェルム様が付け足す。
「ともかく」
少しだけ真面目な顔になった。
「君はその力の使い方に気を付けて、暴走させないようにね。今回はラズリがうまく制御していたから成功したんだからね」
私は思わず黙り込んだ。
……あれって、「成功」で合ってる?
神様的に成功ならいいんだけども。
「そのコンフィさんという方が精霊さんですか?」
「そう。空の精霊」
「くうのせいれい?」
「虚空や空間の“空”」
「なるほど」
天の“空”かと思った。
「結界魔法、転移魔法など空間を操るのが得意な精霊だね」
「性格はアレでしたが、力は申し分ございませんでしたね」
ああ、今のパールの一言でみんなが微妙な反応だった理由は察した。
「その方は生きてたりします?」
「生きてるんじゃない?」
「何しろ転移魔法が得意じゃからのう。妾でも居場所はつき止められぬ」
先祖が生きているかもしれない?
……実感出来るわけもないけど。
「ということはコハル様も訓練次第でしょうか」
「だろうね。だから余計気を付けてね!」
要するに、私もいずれ空間魔法の達人に!?
「……そんなバカな」と笑い飛ばしながらも、明日から練習してみよっかなーと思っていた。
広いLDKに甘い匂いが漂ってきた。
そろそろデザートが出来上がりそうだ。




