表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の森の管理人~森を守るため、世界を締め出しました~  作者: 久東芽蕗
第二章 森の管理人

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/22

5. G8 サミット

 

 反射的に閉じた目を開けるとそこにあったのは、見慣れた石造りの厨房じゃなかった。


 大きな暖炉のような竈は、壁際にすっきりと収まり、その前には艶のある木目の長い食卓。白いクロスまで掛かっている。

 さっきまで寸胴鍋が鎮座していた作業台は、ふかふかの椅子に囲まれた立派なダイニングテーブルへと進化していた。

 しかも、その奥。

 柔らかな絨毯が敷かれた空間には、深い緑色の大きなソファー。低いテーブル。壁には洒落た風景画。

 完全に、応接間だった。


 これはもう――


「LDKだ……」


 思わず呟いた私に、みんなが「えるでぃーけー?」みたいな顔を向けてくる。


「マリンちゃん、すごいっ!」

「なに、大したことはしておらぬ」


 模様替えならぬ、構造替えという奇跡を目の前で見せられ、この森に来て一番ときめいた。


 ヴェルム様は、さっそくソファーにぽすんと座る。

「これでやっと落ち着いて話せるよ」


 落ち着かないと思っていた人の馴染み方ではなかったけれども。



 ラズリは隣の食堂を見回る。静かに椅子を引き、その数を確認して小さく首を傾げた。

「……八脚、ありますね」

「ん?」

 つられて私も数える。

 一、二、三、四、五、六、七、八。

 本当だ。食卓の椅子、きっちり八脚。

 そして応接スペースの方を見る。

 大きな三人掛けソファーがひとつ。二人掛けがひとつ。一人用が三脚。

「……こっちも八人分だ」



「ヴェルムよ、妾の力に干渉するでないわ」



 あ、また来るつもりだ、この()……


 神棚か、小さな祠でも作ろうかと思っていたが必要なさそうだ。



 私は焼きかけのデザートをオーブンに押し込み、ようやく腰を下ろして紅茶を飲んだ。


 いつの間にか膝の上にはモフモフ(マイト)が乗っている。



「それで、オブ……いや、マリンちゃんっ……」


 いちいち笑いを堪えるのをやめてほしい。


「マリンちゃん。外の様子を報告してくれる?」


 ようやくヴェルム様が神様らしい顔をした。

 ――ここからが本題だろう。

 私も居住まいを正す。

 森を守るためとはいえ、異界への道をぶった切ってしまったのはまずいだろう。



 だがマリンちゃんは、羽を揺らしてあっさりと言った。

「知らぬ。おぬしらが寝ておる間、あちこちから苦情がうるさくての。切っておいたわ」


 え?


 既視感がすごい。



「なんてことしたんだ!」

 真っ先に叫んだのはやはりディアンだった。


「興奮するでないわ。ただ通信を切っただけじゃ。妾との繋がりを断てば世界が消えるのじゃぞ。そんなこと、先触れもなくするか」


 いや、先触れがあればいいって話じゃないからね。


「って、今すごい爆弾発言しませんでした?」

 世界が消える、って聞こえたような。


「なんだ、わかってやったのかと思っておったが、ラズリがうまく誘導したのか」


「まぁ結果的に、森は静かになっておる」


「コハル様の制御は完璧でしたので」

 ラズリが満足顔で紅茶に蜂蜜を垂らす。



「ほう? 境界が閉じる寸前、森中の彷徨っていた魂が、風で冥界に押し込まれたようじゃの?」


 全員の視線がラズリに刺さるが、本人はどこ吹く風だ。


「精霊の郷には粛清の通達が風で運ばれてきたそうじゃ」


 もう、主犯はラズリでいいかな。いいよね。



 ……まあ、でも。


「ヴェルム様。申し訳ありません。私、この森をなんとかしたくて……」


「それで?」


 その声だけで、空気が冷えた。

 言葉が続かない。



 この仕事を取り上げられたらどうしたらいいんだろう。

 両手でカップを握りしめて俯く。

 張り詰めた静寂。



「で?」


「え?」


「まんまとラズリに乗せられたのはどうかと思うけど、放っておいたら森も周りの奴らと共に消えてたからね。森を荒らす者を裁くのも君の仕事だよ」


 軽く肩をすくめて笑った。


「いやぁ〜、スカッとしたよね!」



「自業自得だねー」


 アハハハー! と、神様と風の精霊が笑いあっている……


この二人は怒らせないようにしよう、と愛想笑いを浮かべながらも、“裁く”という言葉が妙に耳に残った。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ