4. 神様と鳥が白パンを食べる
一、二、三、四、五、六、七――八。
私を入れて、八人。
……いや、多い。
「って、神様、なにしてるんですか!?」
思わず声が裏返った。
「それはこっちのセリフだよね」
しれっと返してきた八人目――いや、八柱目は神様だった。
会うのはこれで二度目だけど、相変わらず、お姉さんなのかお兄さんなのか判断のつかない、とんでもなく整った美しさをしている。
そして、その隣。
私はもう一度、固まった。
「あなたは……もしかしなくても、マリンちゃん?」
みんなに混ざって当然みたいな顔で食事をしているのは、小さな鳥だった。
白金の羽に、虹色にきらめく長い尾。
思わず見惚れてしまうほど神々しく、美しく――
「もっとこのフワフワのパンをよこすのじゃ」
……喋らなければ、伝説の霊鳥、鳳凰にも見える。
「変身したら、お城が消えるんじゃないんですか?」
さっきの話は何だったのかと問えば、マリンちゃんは当然のように胸を張った。
「これは妾の分体じゃ」
なるほど。
いや、なるほどじゃない。
「お前、分体なんて作れたのか」
ディアンが口の周りをシチューでべたべたにしながら言う。
いや、まずそこじゃない。
「ディアン、お腹がすいていたのはわかりますが、いくらなんでも行儀が悪いですよ」
ラズリが呆れたように注意する。
元通り実体化した精霊たちは、神様が増えようが城が鳥になろうが、もう誰も気にしていなかった。
……ちなみにラズリは、すでにシチューもフワフワの白パンも、無駄のない優雅な所作で完食済みである。
私が眠り続けていた一週間のあいだに酵母が育ち、ついにパンが焼けるようになった。
その成果であるフワフワの白パンは、みんなに大好評だ。
「コハル様も、座って召し上がってください」
パールが気遣うように声をかけてくれる。
私はディアンの口元を布で拭いながら、デザートの仕込みを続けていた。
「私は作りながらつまみ食いしたから大丈夫よ」
せっかくみんな揃ったのだから、もっと喜んでもらいたい。
「ところで、どうして厨房で食べてるのさ?」
神様が白パンをちぎりながら、誰ともなしに聞いた。
馴染み過ぎだ。
なのに誰もツッコまない。
「作りながらどんどん出せるので、熱々のうちに食べられると思いまして」
そういえばここに来てからずっと、厨房の広い作業台をテーブル代わりにして食事をしていた。
「ふぅーん? じゃあここに食堂を持ってくればいいんじゃない?」
またわけのわからないことを言い出した。
「それは良い案じゃ。ヴェルムもたまには良いことを言うのう」
ヴェルム?
神様、名前あったのか。
「ところでオブリってさぁ……」
「マリンちゃんじゃ。今日から妾のことはマリンちゃんと呼ぶが良いぞ」
煌びやかな鳥の周りに、ほんのり金色の光が浮かび上がる。
マリンちゃん、名前気に入っていたのか。
「ぷっ……マリンちゃんって……」
ヴェルム様が口元を押さえながら、ちらりと私を見る。
絶対笑ってる。
ラズリもそっと目を逸らす。
「で、マリンちゃん……っ、どうしてボクより偉そうなわけ?」
「何を言うか! 妾を創造したのは其方じゃ」
「えー? そんな仕様にした覚えないんだけどなぁ」
納得いかない顔で、パンをシチューに浸している。
神様、食べ方が庶民的すぎる。
「それよりも食堂じゃ。今すぐ持ってくる故、みな動くでないぞ」
「え、いや、だからどういう――」
私がようやく口を挟めた、その瞬間。
城が、ゴゴゴゴ……ッ! と音を立て始めた。
この音、なんか怖い!
反射的に耳を塞いでしゃがみこむ。
次の瞬間、ぴたりと音は止み――
恐る恐る顔を上げた私は、言葉を失った。
厨房の景色が、変わっていた。
平和って、たぶんこういうことを言うんだと思った。
……たった数秒前までは。




