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境界の森の管理人~森を守るため、世界を締め出しました~  作者: 久東芽蕗
第二章 森の管理人

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4. 神様と鳥が白パンを食べる

 

 一、二、三、四、五、六、七――八。

 私を入れて、八人。



 ……いや、多い。



「って、神様、なにしてるんですか!?」

 思わず声が裏返った。


「それはこっちのセリフだよね」


 しれっと返してきた八人目――いや、八柱目は神様だった。


 会うのはこれで二度目だけど、相変わらず、お姉さんなのかお兄さんなのか判断のつかない、とんでもなく整った美しさをしている。



 そして、その隣。


 私はもう一度、固まった。


「あなたは……もしかしなくても、マリンちゃん?」


 みんなに混ざって当然みたいな顔で食事をしているのは、小さな鳥だった。

 白金の羽に、虹色にきらめく長い尾。

 思わず見惚れてしまうほど神々しく、美しく――


「もっとこのフワフワのパンをよこすのじゃ」


 ……喋らなければ、伝説の霊鳥、鳳凰にも見える。




「変身したら、お城が消えるんじゃないんですか?」

 さっきの話は何だったのかと問えば、マリンちゃんは当然のように胸を張った。


「これは妾の分体じゃ」

 なるほど。


 いや、なるほどじゃない。



「お前、分体なんて作れたのか」

 ディアンが口の周りをシチューでべたべたにしながら言う。


 いや、まずそこじゃない。


「ディアン、お腹がすいていたのはわかりますが、いくらなんでも行儀が悪いですよ」

 ラズリが呆れたように注意する。


 元通り実体化した精霊たちは、神様が増えようが城が鳥になろうが、もう誰も気にしていなかった。


 ……ちなみにラズリは、すでにシチューもフワフワの白パンも、無駄のない優雅な所作で完食済みである。


 私が眠り続けていた一週間のあいだに酵母が育ち、ついにパンが焼けるようになった。

 その成果であるフワフワの白パンは、みんなに大好評だ。


「コハル様も、座って召し上がってください」

 パールが気遣うように声をかけてくれる。


 私はディアンの口元を布で拭いながら、デザートの仕込みを続けていた。


「私は作りながらつまみ食いしたから大丈夫よ」


 せっかくみんな揃ったのだから、もっと喜んでもらいたい。



「ところで、どうして厨房で食べてるのさ?」

 神様が白パンをちぎりながら、誰ともなしに聞いた。

 馴染み過ぎだ。


 なのに誰もツッコまない。



「作りながらどんどん出せるので、熱々のうちに食べられると思いまして」

 そういえばここに来てからずっと、厨房の広い作業台をテーブル代わりにして食事をしていた。


「ふぅーん? じゃあここに食堂を持ってくればいいんじゃない?」


 またわけのわからないことを言い出した。


「それは良い案じゃ。ヴェルムもたまには良いことを言うのう」


 ヴェルム?

 神様、名前あったのか。


「ところでオブリってさぁ……」

「マリンちゃんじゃ。今日から妾のことはマリンちゃんと呼ぶが良いぞ」

 煌びやかな鳥の周りに、ほんのり金色の光が浮かび上がる。

 マリンちゃん、名前気に入っていたのか。



「ぷっ……マリンちゃんって……」

 ヴェルム様が口元を押さえながら、ちらりと私を見る。

 絶対笑ってる。

 ラズリもそっと目を逸らす。


「で、マリンちゃん……っ、どうしてボクより偉そうなわけ?」

「何を言うか! 妾を創造したのは其方じゃ」

「えー? そんな仕様にした覚えないんだけどなぁ」

 納得いかない顔で、パンをシチューに浸している。

 神様、食べ方が庶民的すぎる。


「それよりも食堂じゃ。今すぐ持ってくる故、みな動くでないぞ」


「え、いや、だからどういう――」

 私がようやく口を挟めた、その瞬間。


 城が、ゴゴゴゴ……ッ! と音を立て始めた。


 この音、なんか怖い!


 反射的に耳を塞いでしゃがみこむ。


 次の瞬間、ぴたりと音は止み――

 恐る恐る顔を上げた私は、言葉を失った。



 厨房の景色が、変わっていた。



 平和って、たぶんこういうことを言うんだと思った。

 ……たった数秒前までは。




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