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境界の森の管理人~森を守るため、世界を締め出しました~  作者: 久東芽蕗
第二章 森の管理人

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3. 光の精霊

 

「――『トルマリン・グロリアアエテルナ・オブセルヴァーレ』じゃ!」



「おおー!」


 思わず感嘆の声が漏れた。

 最後の一柱、光の精霊か!




「……ごめん、全然聞き取れなかった……」


 正直に白状すると、返ってきたのは――


「チッ」


 あからさまな舌打ちだった。

 えっ、今の舌打ち!? 精霊ってもっとこう、神秘的で慈愛に満ちた存在じゃないの!?

 いや、そんな精霊に今のところ出会ってないか。

 頭の中で五柱の精霊を思い浮かべて、ぶんぶんと頭を振る。



「……仕方ない。そなたの好きなように呼ぶがよいぞ」

 呆れを隠そうともしない声音でそう言われる。

 好きなように、と言われても。 あんなラスボスみたいな正式名称を毎回フルで呼ぶ気力はない。

 私は腕を組んで少し考え、慎重に答えた。


「……うーん、じゃあ、マリンちゃんで」


「はぁぁぁぁぁぁ……」


 大きすぎるため息だった。

 庭園の木々がざわめき、噴水の水面が揺れ、なんなら世界そのものが若干震えた気がする。

 ため息で地震を起こさないでほしい。


「壊滅的なセンスじゃが、もうそれでよい。呼び名など大した意味は無いからのう」


 めちゃくちゃダメ出しされた。

 そんなに?

  マリンちゃん、けっこう可愛いと思ったんだけど。



 ちなみに何の話をしているのかと言えば――六柱目の精霊の名前である。


 例に漏れず長ったらしく、耳慣れしない響きだったので、聞き取るのも正確に発音するのもほぼ不可能だった。 たぶんテストに出たら一文字も書けない自信がある。

 過去五柱の名前も、呼び名以外もう忘れた。



「それより、どうして声だけなんですか?」


 そういえば、さっきから会話は成立しているのに、姿が見えない。

 気配だけがある感じで、声が頭に響いてきている。 ホラーなら完全に最初の犠牲者になる状況である。


 すると、マリンちゃんは心底不思議そうに言った。


「いや、ずっとそなたの目の前におるではないか」


「……目の前?」


 きょろきょろと周囲を見回した。


 ここは城の庭園。 ラズリとパールによって整えられた花壇、手入れされた芝、噴水、そして――

 当然ながら、目の前には城がある。

 石造りの巨大な城。 石なのに光の加減で虹色に煌めく不思議な城。



 …………。


 …………えっ?


「まさか」


 嫌な予感が、背筋を走った。


「正解じゃ」


「城が精霊ってどういうこと!?」

 思わず全力でツッコんでしまった。

 いやいやいや。 スケール感がおかしい。


 精霊っていうのがそもそもよくわからないけど、ヘビ、白虎、アナグマ、トカゲ、コウモリまでは、そういうものか……とすんなり受け入れた。

 だけど、なんで建造物?



「正確に言うと、妾は森の核じゃ。世界は妾と繋がって存在できておる」


 さらっと、とんでもないことを言われた。

 森の核? 世界と繋がってる?

 それ、もう精霊っていうか概念では?

 というか、ほぼ神では?

 すごすぎて逆に理解が追いつかない。


 人は情報量が一定を超えると、驚くより先に「へぇ……」ってなる。この森に来てからよくある。

 というわけで今回も――


「……まぁ、いいか」


 考えてもわからないものはわからない。

 それより今、私はやるべき事がある!



「とにかく、ごはん作りますね」


「そうじゃな、そうしてやるとよい」


「マリンちゃんは、人間の姿になったりできないんですか?」


 せっかくなら、マリンちゃんにも美味しい物を食べてもらいたい。



 すると、少し間を置いてから、マリンちゃんは言った。


「できないことも無いが」


 おっ。


「そなたらは雨ざらしになるがよいか?」



「城のままでお願いします」



 即答だった。

 人型になるたびに城が消失するとか、欠陥仕様にもほどがある。




 だけどやっぱり、みんながいてくれるだけで心が弾む。しかも一人増えた。


 今後の森のことを考える気力が湧いてきた。




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