2. 天の声
どうしよう。
その言葉だけが頭の中をぐるぐる回って、私は図書室の真ん中で立ち尽くしていた。
足が動かない。
一歩も。
考えようとしても、思考がまとまらない。
胸の奥だけがざわざわして、嫌な想像ばかりが膨らんでいく。
もし本当に、みんながいなくなってしまったら。
もし全部、私のせいだったら。
ひとりでこの城に残されて――
「落ち着け。みな、いなくなってなどおらぬわ」
不意に。
頭の中に、直接声が降ってきた。
「ひゃっ!?」
思いきり肩を跳ねさせた。
慌てて周囲を見回す。
誰もいない。
当然、図書室は相変わらず静かなままだ。
「え、誰!? 怖っ!」
「怖いとはなんじゃ失礼な」
むっとしたような声が返ってくる。
いや、姿が見えないのに頭の中に直接話しかけてくるとか、普通に怖いでしょ。
……いや、待って。
この声。
なんか、聞いたことがあるような、ないような。
うーん、と眉を寄せて記憶を探る。
どこだ。
いつだ。
この、澄んだ綺麗な声を台無しにする妙に偉そうで雑な感じに覚えがある。
「あ」
思い出した。
「この城に来た時の!」
『任せる!』
だけ言って消えた、あの無責任極まりない声だ。
「……で、結局だれ?」
いや、でも今はそれどころじゃなかった。
「それより、みんないなくなってないって本当?」
「本当じゃ。あやつらは元の姿に戻っただけじゃ、ほれ」
「元の姿?」
言われて、意識を集中させる。
城の空気を、気配を、ちゃんと感じるように。
すると。
ふわり、と風が頬を撫でた。
「……あ」
やさしく、まとわりつくような風。
知っている。
この感覚。
「ラズリ?」
返事の代わりみたいに、風がくるりと回った。
そのまま廊下の方へ抜けていき、しばらくして、私の上着を器用に引っ張って戻ってくる。
差し出すみたいに、ふわりと。
「……ほんとだ」
思わず、へなへなとその場に座り込みそうになる。
「よかったぁ……」
胸の奥に詰まっていたものが、一気にほどけていく。
「ラズリ、私のこと嫌になったんじゃなかったんだね……」
「そもそも、あれはお主がラズリに嵌められただけであろう」
呆れた声だ。
「いや、まぁ、そうなんだけど……」
それは本当にそうなんだけど。
「実際やっちゃったのは私だし……」
世界を。
森を。
あ――
「じゃあ、ラズリ以外のみんなもちゃんといるの?」
「おる。マイトとネルは庭であろうよ」
「庭?」
私は風――たぶんラズリの案内に従って、そのまま外へ向かった。
朝の空気は少しひんやりしていて、やっと頭がはっきりしてくる。
庭へ出ると、土の匂いがした。
花壇の奥。
少し柔らかく盛り上がった場所に、もこっとした土の山。
近づいてみる。
「……巣穴?」
そっと覗き込むと。
「いた」
思わず声が漏れた。
そこには、丸くなって眠るアナグマ姿のマイトがいた。
もふもふだ。
気持ち良さげに、すやすや眠っている。
そして、そのすぐ隣。
小さなトカゲがいた。
ぴったり寄り添うみたいに。
「ネル?」
「マイトは大地から力を得る。こうして土に還るように休むのが一番効率が良い」
「へぇ……」
たしかに、ものすごく安らかな顔で寝ている。
アナグマだけど。
「で、そこのトカゲがなぜ一緒に居るのかはわからぬ。まぁ放っておいて良かろう」
まぁ、ネルだしね。
ネルはなぜか妙に満足そうに眠っていたので、たぶん問題ないのだろう。
……たぶん。
「でも、どうしてみんなそんな姿に?」
天の声はたっぷり溜めて、
「お主、一週間眠っておったぞ」
「えーーーー!?」
庭に私の絶叫が響いた。
鳥が飛び立った。
「い、一週間!? 嘘でしょ!? 昨日じゃなかったの!?」
「こやつらも、さすがに一週間補給なしでは姿を保てぬであろうよ」
「私が作るご飯のこと?」
ん?どういうこと?
とにかく完全に私のせいであることに違いはない。また頭を抱えることになってしまった。
「なんかごめん……」
「で、あなただれ?」
「まだ名乗ってなかったか?」
「妾は『トルマリン・グロリアアエテルナ・オブセルヴァーレ』じゃ!」




