【第二章39】疑いの火種は
「違いねえな、考えてみりゃオレらは初対面だったな。だったらそうもなるか!」
「は、はぁ」
「っま、おいおい仲良くしようヤ。な?」
「…おい、それよりあいつ様子がなんかおかしくねぇか」
良然は顔を顰めつつ、パシリと俊什の肩を叩いて前方に注意を向けさせる。
言われてみれば確かに妙だ。この人がどんな人なのかと地元民、観光客、物乞いなど…全てに当て嵌めて推測するが全てにおいて違和感がある。なんというか服も言動も態度も、全てがもの凄くちぐはぐな印象を受けるのだ。
例えば服は体のサイズに合っていないし、貧乏そうな体つきではないのに、来ている服はかなり擦り切れてまるで物乞いの様な出で立ちだ。中将達がさっきから「どこから来たのか」やら、「名前はなにか」、などという質問にはどもりつつも答えるのに対し、何故此処に入ってきたのかという質問には頑なに答えず、ただ「宇柘庵に会いに来た、あわせてくれ」と繰り返していた。
それだけでも違和感だらけだったのに、いまや何もないのに呼吸が浅くなり顔色がどんどん青ざめてしまっている。そしてしきりに手の平を確認し、会わせてくれと懇願し始めた。
しかしいない人間に会わせて欲しいといわれても到底無理な話である。中将らもそう言ってなだめるが彼は居るはずだと叫ぶ。
「もう本当に時間が無いんだ!頼むよ!その人に会えなかったら、お、俺死んじまうんだよ…!」
「だが、うちにはそんな人間は居ないぞ。誰かと間違えているんじゃないか」
「中将様、いかがいたしましょうか。もしかすると錯乱している可能性もあるので地元の病院へ連れて行った方がよろしいでしょうか」
「…いや、少し待て。先程からやけに掌を確認しているが、何かあるのか」
「そ、っそうだ!これを見てくれ!この数字が消えた瞬間に俺、俺、死ぬって言われたんだ!」
中将に向かって土汚れが酷い手の平を見せるが何も見えない。中将達の怪訝そうな雰囲気を察知したのか男は顔を青くして必死に自分の手の平を指さして説明するが、依然として何もない。
「エー…良然お前なンか見えっか?」
「いやまったく。坊ちゃんには見えんじゃねぇの」
「いえ、僕にも何も見えませんが」
「ッチ、何のための眼鏡だよ。つっかえねぇ」
「はぁ?良いですか、眼鏡というのは低下した視力を健康時の視力に近づけるためにあるのであって双眼鏡のような役割じゃないんですが?」
「へーさいですか」
こいつ…!
ほんの少したりとも真面目に聞く気のない様子に一発殴ってやろうかと拳を固めると、何の前触れもなく僕の後ろにいた知らない隊員が「不味い」と焦ったような声を漏らした。
「中将!お下がりください!早く、早く周りの奴は防御の型を取れ!!」
「は!?っいっけね、こいつ見てろ!」
良然は一番早く反応し、僕が状況を理解した時には既に、俊什の背後で爆発音と共に火柱を吹き出す様子の断片を見ていた。
「ああああああ!!!」
「消火!誰か水を持ってこい!」
「先に救急班を呼べ!誰一人こいつに近づくな!っお前早く避けろ!」
轟轟と恐ろしい唸り声をあげて燃え盛る火柱に包まれた男はザラザラとした叫び声をあげている。
「…は?な、何が」
「ッア!久藍下がッてろ!」
思わず一歩踏み出すと何かに爪先が当たったのに気が付き、視線を落とすと黒こげの何か…ああ、「腕」だ。爆発で捥げて吹っ飛んだ「右腕」だ。そしてチロチロと断面から熾火のように赤い光が漏れて地面に積もった雪をゆっくり溶かしていく火が漏れているのだ。
それを見ながら僕は僕の体の芯から恐ろしいぐらい冷えてしまっているような、そんな止めようも無い震えが体を支配しているのを止められずにいた。
辛うじて動く手で腕を掴み、自分の体を抱きしめているような心持ちで震えが止まるのを必死に待つが、落ち着こうとすればするほど足元に落ちた炭のようになった右腕がチラチラと視界に入ってしまってその度に息がまた乱れた。
「あああ、あアアあ…!アヅ、あづいィィ…!」
「おいもっと水を掛けろ!このままじゃ死ぬぞ!」
「無理言うな!全く消えないんだぞ!?これはただの火なんかじゃない!」
「救急班!救急班が到着しました!通してください!」
「おい道空けろって聞こえねぇのか愚図が!腰抜かしてねぇでさっさと退けッ!」
宇柘庵 う しゃあん
ルビを入れ忘れてしまい申し訳ありません。




