【第二章37】ぐだりぐらりと
すみません大遅刻です…
中将はそう言って良然を諭そうとするが、当の良然はどこか納得がいかないのか首を傾げた。(依然として顔色は悪いままだが…)
椅子に腰掛けたまま動こうとする気配がない良然を中将は片眉を跳ね上げてじろりと睨んだ。顔に走る大きな傷と相まって威圧が凄い。この顔を前にちっとも動じた様子のない良然は、心臓に剛毛でも生えているのだろうか?それともただただ単純に恐ろしさを感じる頭が麻痺しているのだろうか?
「いいからお前も来い」
「やっぱそうくるよな…なぁ中将、頼むよ今日だけ無しじゃ駄目か?」
「駄目だ。お前にだけ優遇するのは他の者に示しがつかん。それに、儂の座が欲しいのだろう、赴任初日に突然儂にそう言ったのは一体全体誰だ?良い学びの機会だろう、つべこべ言うでない」
「そんな昔のこと掘り返さねぇでもいいだろ…いつの話だよ」
まさに「げんなり」という言葉を顔いっぱいで表現し、気怠そうに天井を仰ぐ。中将はフンと一つ鼻を鳴らしてそれ以上は言わないのを見て、ようやく良然はその重い腰を上げる決断をした。
立ち上がってグッと伸びをし、目をはっきりとさせる為か眉間をぐりぐりと押している。それを横目に中将は入り口付近に立っている僕の横をすり抜けつつ、外套の前ボタンを律儀に一つ一つ閉めていく。他の隊員とは少し違って、中将の隊服は首の上までぴっちりとボタンがあり、さらにその上に外套を羽織っている。
いくら寒さを凌ぐ為とは言えども、ここまで来たら動きにくさや息苦しさが勝つのではないかとも思ってしまう。しかし、もう慣れてしまったのか苦しそうな様子はない。
良然を待たずに歩き出した中将を見て、ようやく焦りを感じたのか良然は勢いよく風を切って上着を羽織り、小走りで中将の後を追った。
「わぁーったって!行くよ、行くからちょっと待ってくれよ!」
「最初から素直にそうしておけば良かったのだ、全く余計な手間が増えたではないか」
「いーやそれは絶対に俺のせいなんかじゃないね。怒鳴られたって認めねぇぞ」
廊下とを隔てる壁を通してでも聞こえてくる二人の会話にそば耳を立てる。自己弁護の為に敢えて言わせてもらうが、あの二人の声が大きいのであって僕がしたくて盗み聞きをしている訳では決してない。断じて違うと天に誓える。
…それにしたって良然よ、どうしてそうも尊敬心などこれっぽっちもないような振る舞いができるんだ?いやはいや、甚だ疑問である。彼には良心というものがないのだろうか。
「やかましい、体調なんぞは自己責任じゃろうが。たわけ」
「っちぇ…そうだ、坊ちゃんも連れてこうぜ。これは『良い学びの機会』なんだろ?こんな機会滅多にねぇんだからお坊ちゃんにも見せてやった方がいいんじゃねぇの?」
「何を言う、監査官殿には関係のない話じゃろう。何でもかんでも巻き込もうとするのはやめんか」
勘弁してくれやしないか。僕は僕で祝辞の準備とかで、決して暇ではないのだ。どうか僕を放っておいてくれないか?そっちの方がはるかに僕にとって都合がいいのだから。
耳を疑う発言に思わず壁にペッタりと張り付いて二人の会話を勝手に拝聴させてもらったが、今のところは良然の言葉を真には受けていないようで少し安心した。
「おい!坊ちゃんも早く来いよ!」
なぜだ。
いつもより短くなってしまい申し訳ないです…




