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【第二章33】薬で酔いつぶれて

 というか、こいつもう酔っているのか?言葉の端々がおぼつかなくなっているし、酒を飲む間隔も遅くなっている。さっきまでグラスを一分たりと空っぽにしなかったのに、今はグラスが空であるのをいいことにぷらりぷらりと揺らして遊んでいる。ここで寝落ちてしまったら僕が困る。僕より上背のあるこいつをどうやって部屋に押し戻すっていうのだろう?そもそも部屋がどこかも知らないのに。そうなる前に早めに出て行ってもらおう。


「酔ってます?自分で歩いて戻れるように調節してくださいよ」

「お前医者の家系だったんだろ?頭を治す薬ってねぇのか」

「はぁ?いきなり何の話ですか、藪から棒に…正確には医者の家系じゃないですよ。水飲んで帰ってください」


僕が水差しを勧めてもゴロゴロと机の上に上体を預けていて、遊んでいるのかぐずっているのかわからない。まるきり芋虫のようだ。

 この酔っ払いめ…なんて手のかかる面倒な酔い方をするんだ!頭の薬が本当に必要なのはお前じゃないのか!?


「あのね、薬って複雑なんですよ分かります?そんなホイホイ効かせたい所に効くわけじゃないんです。今だってあなたの頭を治す薬なんて無いんですからねこの酔っ払い!いいから早く帰ってください!」

「はぁ~?薬がどうたらこうたらって、んなこた白姐にとっくに聞いたっつうの」


こ、こいつ…!もう消灯時間をとっくのとうに過ぎてしまって早く帰ってほしいのが分からないのか!?しかも絶妙に話がかみ合わない!しかも頭に効く薬ってなんなんだ、そんな曖昧な薬!せめて頭痛薬かなんなのかはっきりしてくれ!

 仕方がないので引きずって部屋の外に連れ出そうと、良然の腕を僕の肩に回して持ち上げようと試みるが、何分僕より無駄に上背も筋肉もあるので持ち上がらない。これでもかと踏ん張っては見るものの、椅子から浮かぶ様子すら見られない。


「こないだ中央に行かなきゃなんねぇ時があってよ…長林にばったりあって、アイツ変わってたよ…股間蹴られた…」


しみじみとそう語る良然は本当に頭の薬が必要なんじゃないかと心配になった。言葉は不明瞭だし寝かけてるのか声は低く聞き取りずらい。股間蹴られたって…なんでしみじみと出来るんだ、あと何をしたら股間を蹴られるような恐ろしいことになったんだ。

 疑問は台風のように渦巻くが、この良然という酔っぱらいを何とかして部屋まで輸送しなければいけない。僕の部屋はこんなデカブツを置いておけるほど広いわけではないのだ。くそう、ここが極寒で有名な落火でさえなければ外に放置できたのに…!


人目を気にしつつもようやく良然の部屋の前までたどり着くことができた。途中で良然の頬に平手打ちを食らわせて何とか部屋を聞き出すことに成功したのは大きかった。

 一応相部屋だと聞いていたので控えめにノックすると、中から不審な顔をした良然と同じ年に見える男性が出てきた。


「はぁいどちらさん…何や自分、こないけったいな時間になにしよんの。ほんで、なんで良然死んどるん」


こ、この声は大浴場で僕に難癖付けてきた人と同じ声ではないか!良然と一緒にいたときはあんなに人の好さそうな感じだったのに…この人が?


「し、死んでません…寝ているだけです。僕の部屋で寝られても困るので何とか連れてきました」

「へぇ、そりゃおおきに。ほなあとはワイが面倒見ますんで」

「お願いします」


しどろもどろになりながらも言葉を絞り出すと、彼は話は終わったとばかりに、いとも容易く良然を担ぐと早々に部屋へと引っ込んでしまった。

 人は見かけによらないとはよく言うが、誰の前かによってもこうも性格が変わるのかと身震いした。(僕の推察に過ぎないが)友人の良然の前ではあんなに優しそうな対応なのに僕しかいないとなるとボロボロに言うんだものな。人ってやつはつくづく恐ろしいと思い知らされる。


 疲弊しきって自分の部屋に戻るとベッド脇に置いた祝辞の下書きを見つけて覚えなければいけないことを思い出してげんなりと肩を落とす。どうして人は分裂できないのだろう。もし僕が分身することができる礼物を持って生まれたらどれほど良かったことか…

 所詮生まれた瞬間に決まった運命であるから、うだうだと泣き言を垂らしても仕方のないことだとは分かりつつも、どうしても思わざるを得ない。だって消灯時間を大幅に過ぎているのに、明日も朝早くに起きて朝の訓練に参加しなければいけないのに僕は祝辞を覚えるために机に向かってるんだ、こんな悲しいことがあるのか。

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