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【第二章29】冗談は水をも凍らせる

 内心肩を落としつつも少し業務を進めたり、(中将はやらなくていいとは言っていたがどうせ覚えるだけだし、心の余裕が生まれた分、後の僕のためにもやった方が得だと思ったのだ)朝練を通じて話すようになった英壮(えいそう)に引きずられるようにして午後の訓練にも参加したりなどしてヘトヘトになったりした。

 練習が終わり、食堂の机に突っ伏して筋肉の痛みに耐えていると、英壮が隣に座って来た。その手にはご飯が山のように盛られたプレートがある。


「よお!午後練はちょっと大変だったな!」

「そういう割には随分元気そうですけどね…今は何も腹に入りそうにないです」

「運動したらちゃんと食わないとな~少しでも食っとかないと」


そういいながら英壮は次々と料理を口に運ぶ。彼が食べているのを見るとなんだかお腹が空いたような気がして僕も食事を貰いに受け取り口に並ぶ。既に作ってあったのかすぐに受け取ることができた。

 プレートを持ちながら英壮の隣に座ると、彼は僕が持っている料理を見て目を細めて「そうこなきゃな」と笑った。


「そういえば久藍ってここに来る前はなにしてた?」

「ここに来る前ですか?学舎を卒業した後に就職しようとしてましたよ」

「へぇ、学舎に行ってたのか!すげえなアンタ!金持ちじゃん!」

「いや、親戚がお金を出し合ってくれて…」


英壮が目を純粋に煌めかせて褒めてくるのが居心地悪くてもごもごと誤魔化す。母さんの実家がそれなりに由緒ある家柄だったのと、親父の立場やらなんやらで学舎に行っていた。学舎に行ったと言うと自慢しているようで少し気まずい。回答を間違えたか…


「おれの家はそんなに金がある方じゃなかったからさ、チビ達が腹空かせるのも可哀そうだし、おれが金を作んなきゃな。本当におれが天与礼者だったのは幸運だったぞ!」


朗らかに笑う英壮は本当に気のいい人なんだろうなと思わせる雰囲気があった。僕より少し年上だろうか。なのにここまでしっかりしているなんて、全くもって出来た人だ。どこぞの良然とは全然違う。


「英壮さんはどんな礼物なんですか?聞いていいのかわからないんですけど、もし失礼に当たるなら言ってくださいね」

「全然構わねえって!ただ、おれの礼物は中将様みたいにすっげえかこいいわけじゃねえんだよ。ものを凍らせることができるってだけなんだよな…がっかりしたらすまんね」


頬を指で搔きながら言う彼はコップの中に指を突っ込むと、中の水がパリパリと指に触れたところから凍っていった。


「おぉもう凍った…!すごいですね、夏場は重宝するんじゃありませんか?」

「まあな、氷は高いしそうそう買えるもんじゃないし、あと熱出したときとかも便利だぜ」

「良いですね、素晴らしい力じゃありませんか。なんでそう自信がないんです?僕だったら有頂天になってますよ」


僕がそういうと彼はあたりを見まわしてため息をついた。つられて僕も見回すと夕食時であたりは人が多くてがやがやと賑やかだ。僕が参加した基礎練で見かけた人もいれば、特殊訓練に参加していた顔も見える。


「おれもここに来るまではそう思ってたけどよ…ほら、あそこの兄ちゃんいるだろ?あの人瞬間移動が出来るんだってさ。あとあっちの姉ちゃんは大の大男を片手でなぎ倒せるぐらい強いし、その姉ちゃんと話してる人は建物を透かした向こう側が見えるんだってさ。こんな人たち見ちまったら自信なくすぜ」


比較対象が悪かったのか…可哀そうに、彼の能力だって仰天ものなのに周りが特殊すぎるとこういうこともありえるのか。

 英壮は少し濡れた指先をぺっぺっと払ってコップの側面をはじくと中の氷は軽やかな音を立てて溶け崩れた。

「それで、久藍はどんな礼物なんだ?おればっか喋ってるのは不公平だろ」

「あ、僕に礼物は無いです。天与礼者じゃなくて…本当に皆さんが羨ましいです」

「あっ…そういう感じか、まあ人間何かしらやらかすもんだから、大丈夫だぞきっと。礼物がなくたって気にすることないって」


途端に気まずそうになる英壮は妙に慰めているような言葉をかけてくれた。確かに天与礼者に憧れを持ったことは一度や二度ではなかったし、子供たちの間ではごっこ遊びが主流だった。もちろん想像でどんな礼物かをごっごで遊ぶのだ。

 火を噴いたり、強い動物に姿を変えたり…そんなことをして悪役を倒すまでが定番であった。なお、僕は混ぜてもらったことがなくて傍から見ていただけだったが。でも自分が何も持たない人間に生まれたことに嫌だと思ったことは無かったし、憧れは憧れだ。それ以上でも以下でもない。

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