【第二章28】助っ人としてはやり手な彼
「良然!ちょっとこれ手伝ってくれません!?」
「うるさっ、もうちょっと良いとこのお坊ちゃんらしく静かにできねぇのかよ」
執務室に戻ってから良然に声をかけると、これでもかと思いっきり顔を顰められた。自分でも大声を出してしまった自覚はあるが、しかし僕とて声を抑えられるほど冷静ではないのだ。
「申し訳なくは思いますが余裕ないんですよ僕だって。紅慧さんから資料をもらってきたのですが組み合わせ方が分かりません、手伝ってください」
「しょうがねぇな、ちょっと見せてみろ」
彼に資料を渡すとその分厚さに嫌な顔をしつつも、ペらりぺらりと資料を確認していく。二、三枚目で考え込むように手を止めたり、数頁戻ったりしてある程度目を通し、彼なりに満足したのか資料を脇に置いて僕に書く準備をするように言った。
「俺が今から言うことを書け。いいか、絶対に繰り返さねぇからな」
「は、はい」
慌ててペンを握りなおして紙に向き直る。僕が準備できたか出来てないかぐらいの所で良然はつらつらと読み上げ始めた。
「あーコホンコホン…朴良然が落火市、唐晩餐会にて祝辞をおこないま」
「ちょっと待ってください、それも言わなけばいけないんですか?書くだけではなく?」
「馬鹿!しきたりがあんだよ!知らねぇんだから黙って俺が言うこと書いてろ!」
僕がさえぎると、良然は目を三角に吊り上げてスッパリと怒鳴られてしまい、事実こういったことには詳しくない僕は閉口するしかなかった。大人しく肩を小さく落として頷くと良然は咳ばらいをして眉を顰めながら続けた。
「ッチ…年越しでせわしない今日ではありますが、このような華やぐ宴にご招待いただき感謝申し上げます。落火の名物である寒さも、どうやら皆様方の熱意の火までは落とせぬようで大変感心いたしました。と…まあ始まりはこれでいいだろ。んで坊ちゃんは来たばっかだから対して褒められるとこねぇけど…ここからまた書けよ。遠方より参りましたが落火の活気たるや通るたび見るたび驚かせられるばかりです。どれも皆様の勤勉さによるものでしょう」
…驚いた。まさかここまですらすらと出てくるとは予想していなかった。いや、出てきたとしてもしっかりとした敬語を使いこなせはしないだろうと…正直舐めていた節があったことは否めない。
「…おい、ぼぅっとしてっけどちゃんと書いてんだろうな。俺は絶対に二度も三度も言わねぇからな」
「はい、ばっちりです」
「じゃあとは締めだけだが、ここで乾杯の挨拶を振られることが無くもねぇからとりあえずその場に合わせろ。それがなけりゃ繰り返しオメデトウゴザイマスっていっときゃ何とかなる」
「さ、参考にします。無いことを祈っていますがね…」
ため息をつきながらペンを置く。元来華やかな場所はとことん苦手であり、中将から言われでもしなければ絶対に宴に出席して祝辞を述べることはしなかっただろう。
机の上を片づけているとここが中将の執務室だったのを思い出す。ちらりと伺いみてみると書類を片手に考え込んでいるようだった。
「騒いでしまってすみません中将様。直ぐ出ますので…」
「ん?おお気にするな、なに、この程度騒がしいの内には入らん。戦場の弾が行きかう音やら雄叫びと比べたら子守歌より静かなものだ」
そう笑ってはいらっしゃるが比較する対象のスケェルが違いすぎることに気づいて欲しい。成人男性の二人の会話はどれだけ騒がしかろうが戦場の轟音とは文字通り比べ物にならないだろう。
まぁ…中将の価値観の基準が余りにも大きすぎる事に助けられたのかな。何はともあれ、祝辞の台詞も用意できたわけだし今夜枕を高くして眠れそうだ。
「じゃ、これを僕の方で頑張って覚えてきますね。明々後日が宴でしたがなんとかなりそうで安心しました」
「ッチ、さっきまで大騒ぎしてた奴が何言ってんだか」
「それに関してはすみませんでした。僕も初めてのことでしたからどうも落ち着いていられず…まあ僕がうるさいことなんて滅多にないんですから少しくらい、大目に見てくださいよ」
冗談のつもりで言ったのだが、ひときわ大きな舌打ちで返された。なんだよ…ちょっとした冗談じゃないか…




