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【第二章25】敵の敵は味方

 僕の様子を見た蘭慶はポリポリと頬を掻いて気まずそうに「あー」と声を漏らす。そして何か思いついたようにピンと指を鳴らした。


「でもホラ、共通の敵を持つと仲良くなれるともいいますし、愚痴を聞くノリで聞き込みしてみては?彼の悪口なら大体の人は喜んで話すのでは?」

「悪口ですか…一理ありますね」


蘭慶の言う通り、仮にもし父親に不満がある人と会ったら僕は途切れることなく愚痴を垂れ流すだろう。全く面識のない人に聞くのも怖いし、とりあえず様子見もかねて良然に聞いてみようかな。あいつだったら嫌味言われても応戦できるし。


「助言ありがとうございます。おかげで気が楽になりました」

「俺は話を聞いただけですけどね」

「ははっ、ご謙遜を。蘭慶さんは聞き上手なだけでなく助言も的確じゃないですか」


僕が褒めると蘭慶は「どうだか」と言いながら肩をすくめた。


「さて、俺はもう行きます。朴さんもそろそろお時間では?」

「そうですね。ではまた今度」

「ええ」


蘭慶と別れた後、中将の執務室に行くとなぜかいつも居ついている良然がいない。どうして奴は用事があるときにいなくて、特に用事もないときに限って腹が立つ絡みをしてくるんだろうか。いったいなんのパラドクスなんだろう。


「おお、今日も時間通りだな監査官よ」

「おはようございます。今朝は雪かきが無かったので早めに朝練が終わったんです」

「そうかそうか。ちゃんと続いているようで何より」

「ここでやめてしまったら男が廃れますよ」

「ははっ、こうも気骨があると楊も鍛えがいがあると喜ぶだろう」

「こ、これ以上鍛えられたら辛いところがありますが…」


10周走って死にそうな思いをしているのにこれ以上厳しくなったら堪ったものじゃない。せめてもう少し体力がついてからにして欲しい。今はもう一杯一杯だ。

 そういえば、と本来の目的を思い出す。前任の話を良然に聞こうと相手を絞ってしまったが、中将だって(こう言うのも気が引けるのだが)前任から嫌がらせを受けていたのだから中将に聞くという手もある。


「あの、中将様」


いやまて、もし前任ことを話したくないと言われたらどうする?それがきっかけで気まずくなるのは困る。それに急に切り出したら向こうだって怪しむだろう。せっかくの信頼に傷をつけるような行為は避けたい。

 いろいろ考えた末、僕が話しかけたままスッと口を噤んだのを見て中将は少し首をかしげた。


「なにか、用かね」

「いえ!なにも、全く」


まずいぞ、変にごまかしたから余計疑問が深まってる。眉を寄せてじっと見ている中将に愛想笑いで何とか対応するが、流石というべきかこの程度じゃ全然流されてくれない。むしろどんどん顔が険しくなっていく。最近は慣れてきたが、やはり中将の百戦錬磨を語る圧迫感のある顔が怖い。


「し、失礼になるかなと質問を控えました。失礼しました」

「なぁに気にするな。若者がどうして先短い老人の機嫌をうかがう必要がある」


違う!ここで引いてくれ頼むから!


「あー…お、おいくつでしたっけ…?度々ご自身を老人だとかおっしゃっていますが、そうは見えませんので…」


苦し紛れに別の質問をすると中将はそれで納得してくれたのか76だと答えてくれた。76には到底見えない。もちろんいい意味で。


「そろそろ次の中将を決めねばなぁ…」


そう寂し気に呟いたのが印象的だった。確かにいつ殉職するか分からない職業柄、早いうちに中将以上に強いか、同等ぐらいの人を選ばないといけない。中将が選ばずとも本部が決める可能性の方が大きいけど、多少は中将も推薦しなければいけないのだろう。


「まだ気が早いですよ。中将の活躍を楽しみにしている人は僕を含め沢山いるんですから」


これが正しい答えだったのかは分からないけれど、少なくとも中将は嬉しそうに目元を緩ませた。


「口が達者な監査官にはこれをあげよう。良然には黙っていてくれ、儂がこれを持っていると知られたら小白に口告げされてしまうからな」


中将はそう言って小さな飴をくれた。お礼を言って受け取るとにやりと笑って僕の手を握った。


「これで共犯じゃな?もし露見してしまったら一緒に小白と怒られてくれよ」

「最初からそれが目的でしたか、これはしてやられましたね…」


握られた手をみて肩を落としつつ呟くと中将は快活に笑って手を離した。

学生の方々、ご卒業おめでとうございます。

社会人の皆様、花粉辛いですね。

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