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【第二章24】よそ者には知る由もないこと

 笑って答えながら白姐は小さく手を振って正面玄関を出て行った。他にも何人か玄関を通っていく人がいるのを見る限り、決まった日に外出できる決まりのようだ。それぞれの手に握られている紙は外出許可書なのかもしれない。にしても結構な数だ、ざっと見ても十数人はいるだろうか。僕が知らないだけでこの落火の町には何かすごい娯楽でもあるのかもしれない…


 そうして白姐を見送った後、朝食を取ろうと食堂に向かう途中でばったり良然に出くわした。すると奴は開口一番に顔を思いっきり顰めてくっさ!と言い放ったのだ。


「おまえ体流してこい!朝練の後体洗ってねぇのかよ!くっっさ!」

「失礼な!今日は汗を拭きましたよ!何なんですか毎日毎日!」

「くせぇもんはくせぇ!とっとと体洗ってこい!そのままで絶対に中将の部屋に行くんじゃねぇぞ!部屋まで臭くなったら堪ったもんじゃねぇ!」


失礼極まりない発言だけどもこいつの嗅覚は冗談抜きにも犬並みなので、僕は気づいていないけれどかなり汗臭い可能性がある。体感では仕事の時間まで1時間半はある気がする。まぁ軽く流すだけなら15分とかからないだろう。こういう時坊主頭は便利だ。


 自分が臭いと認めるようで大変不本意ではあるが中将に体臭で迷惑をかける方が不本意だ。反発したい気持ちがありつつも、良然の嗅覚にしたがって体を流すべく個別に分かれているシャワー室に入ろうと扉に手をかける。

 僕が引っ張るより先に内側から押される感覚に驚いて二、三歩後ろに下がると中から誰かが出てきた。この時間だと誰かがいてもおかしくはないのだが、こうしてたまたますれ違うことなどほとんどないので思わずまじまじと相手を見てしまう。


「なんや、そないワイの顔がおもろいか」

「あっ、いえそういう訳ではなく…昨日良然と居た方ですよね?すみませんお名前は…?」

「あーええてええてそーゆうの。ワイの名前覚えへんでええわ、てか覚えんなし。こちとら監査官とかに関わりたないねん。なんやずっとええ子ちゃんズラしおってスカして、何がしたいん」


何もしてないのに嫌われてる…しかし問題は僕はメガネを外しているから相手の顔や表情がまったくわからないため声音で判断するしかないことだ。かなり刺々しい口調で昨日の人と同一人物か疑いたくなるぐらい声も低く、どこかの地方らしき方言でかろうじて昨日の人だろうとあたりを付けられる程度だ。

 だがこの人に何かしただろうか…?多分会ったのも昨日が初めてだと思うんだけれども。


「あんたのその態度がアホほど腹立つって分からんの?中将様にええ顔しぃ?良然にもええ顔?中央でどんなことをしなさいーとか何を言われとんのかはミジンコも興味ないねんけど、それがワイにも通用するとは思わへん方がええで」


ぼんやりとした輪郭が頭をガシガシとタオルで拭いているのが見える。


「は、はい…」

「さっさと退いてくれへん?ホンマ邪魔やわ」

「あ、すみません」


横に避けると彼は小さな舌打ちをして通って行った。僕は呆然とその場に立ち尽くしてしまい、寒さに身震いする。

 いままであんな分かりやすく悪意を向けられたことはなかった。夕崢にいた時だって近所の人たちは僕の父親を知っているからか、かなり気を使っているような素振りだった。学校でもかなり遠巻きにされていたし…まあ陰で言われる分には気にしないが、こうも直球だとかなり心に来る。まさか監査官だというだけでああも忌み嫌われるのか。


「と、言うことがありまして…こんなに嫌われるなんて、一体前任は何をやらかしてくれたんです?」

「ははぁ、それで悩んでたんですね。どうりで虚空を見つめて淡々と粥を口にしていたわけで。傍から見てかなり気味悪かったですよ」


水浴びを終えた後、食堂で朝食を食べていると蘭慶が顔をひきつらせて声をかけてきた。事情を説明すると蘭慶は茶を啜りながら納得したように息を吐いた。


「前任に関してですが、俺は彼とあまり関りがありませんでしたから俺自身の体験談は特にありません。ただ、彼は中将様と反抗的な態度を取っていた良然に特にあたりがきつかったと聞きます。良然に聞いてみてはいかがです?もしくは良然や中将の周りとか」

「周りの人ですか…先ほどの風呂場の二の舞になりそうですね…ハハ」


肩をすぼめて乾いた笑いを漏らす。

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