②
そんなで出発。馬車の中は、ビーツ様と私とジーク。
ケリー達はもちろん、お祖父様も別の馬車。言いたい事があっても仕方ないよね。やる事があるだけいいと思っておくわ。
大体の時間は、体の中の魔力を意識する事を重視。魔力を循環させると、とっても体がポカポカになる。
飽きたり疲れたりすると、ビーツ様が魔法を見せてくれる。
今は、目の前に水の膜が浮かんでて、中で蝋燭の火みたいな炎がゆらゆら。それが二つ並んでる。
じーっと見てたら、右の炎が消えて、周りの膜が小さくなった。萎んだというか、きゅっと縮んだみたい。
「何で? 左は消えてないよ?」
消えてない炎を食い入るように見ても、消えてしまった炎と同じに見える。
なら、ビーツ様がわざと消したのかしら?
膜に触ってみる。指は、確かに水に触ってる感じがする。
ずぶっとそのまま指を差し込んで、炎に近づける。
「ビーツ様。熱くないです」
ビーツ様は、すかさず私の指が触れてる水の膜を消した。
動いた空気。大きく揺らぐはずの炎。その筈なのに、変わらずゆらゆら。
熱いと思うところまで指を動かして、熱を感じないので、炎の真ん中に指を差し込んでみた。
熱くないと傾げた首が、馬車の揺れとともに、よけいにかくんとなる。
「炎を転写して、今も燃えてるように見せてる」
改めて、ビーツ様が炎を一つ生み出す。紙を近付けて、本物の火であると示してから右手を上げれば、ぽぽぽぽっと沢山の炎がその一つを囲む。
「元は、これ」
そう言って吹き消した。消えた炎と、消えない炎。
「ふぉ~っ! 凄いです。どうしてですか?」
「炎としてじゃなく、光として具現化させたから」
ビーツ様の手がもう一度上がって、真っ白に見える光の玉が現れた。
眩しくて、一瞬目を閉じたけど、眩しさに慣れたら前のめりで見入ってしまう。
「単純に火が必要なのか、灯りとして必要なのかの使い分け」
そして、幻の炎と光の玉が消えた。
今、目の前に残っているのは、火が消えて縮んだ水の膜。
「火が燃え続けるのに必要なものが無くなったらこうなる」
「必要な、もの?」
「酸素だ。冬場に聞いた事は無いか? 暖を取るのに燃やしていた薪の火が、何時の間にか消えてたとか。そんな時は、動けなくなった人間が大体死ぬ」
大体って言い方…。
「…気を付けるようにって、聞いた事があります」
実際気にするのは使用人達で、私が気にした事は無いのだけど、うんうんと頷く。耳から入っただけの知識に頷くなんて恥ずかしいんだけどね。
「苦しくなったり、死にかけた事はなさそうだが?」
「そんな事、ある訳ないじゃないですか。皆、お仕事熱心ですもの」
真面目に答えますよ。快適に暮らしていられるのは、ちゃんと仕事をしてくれている皆のおかげです。
「魔法はイメージが大切だが、想像だけだと漠然とし過ぎていて発動しない事がある。後、適さない場合もあるな。だが、色々と面白いだろ?」
「はい! 面白いです。素敵です」
そして目の前から水の膜は消えた。
興奮を落ち着かせるように、座り直す。
そういえば…。この目の前に座るビーツ様。魔法を使う時とかに、腕や手が動く事はあっても、体が揺れない気がする。右足をあげて足組みしてるのに、持ち上がった右足が揺れてない。意識して見ても、上体、頭も揺れてない。
私? 揺さぶられてますよ。
乗ってる馬車は、我が領地製造最新の高級馬車です。長時間移動対策で背もたれも座面も、たっぷりの綿の入ったクッションです。それが『最新で高級』なのではないのです。最新の理由は、車輪を含む足回り。国内で一番強化と軽量化された鉄を使用してます。
詳しい構造は知りませんが、揺れを軽減する技術を他領と共同開発したのだとか。
ちなみに我が領地では、鉄の産出はありません。上の箱部分が主力ですよ。硬いクルミ材の外装と室内です。はめ込まれたガラスはトルカ領ですよ。
王都で、王宮に行くのに乗った馬車は、これより小ぶりだけど、外装彫刻の凝ったやつです。(何台か、注文が入ったと聞きました)
そこで、です。あくまでも軽減ですから、揺れないわけではないのです。ぽわんぽわんと体が揺さぶられる事はあります。全ての道が、整備されたものではないですからね。ですが、従来のものと比べたら…。と、今のところ胸を張っておきましょう。あくまでも今のところはですよ。技術は進歩するものですからね。
それはさておき。目の前のビーツ様。本当に揺れません。ビーツ様は、筋肉の人ではありません。言い直します。ごりごりの筋肉の人ではありません。魔獣討伐もなさるので、けしてひ弱な感じではないのですけど…。四肢に力を入れて、姿勢を保っているようには見えないのです。
そのコツを、是非とも伝授して頂きたい。
それだけの安定性があれば、移動中の読書とか、物書きもいけるのではないかと期待します。
「ビーツ様? 質問がございます。何だかあまり体が揺れないみたいですけど、何かこつでもあるのでしょうか?」
真面目に見れば、おやっとした顔をしたビーツ様が足を組みかえた。
「それは、馬車が良いからだろう」
そうい言ったビーツ様は、ふんっと鼻で笑った。
「我が家の馬車が良いのは認めます。でも、それでは説明出来ません、よっ!」
現に私。きちんと座り直しても、膝から下はぶらぶらするし、頭は右に左にと動く。ジークだって頭が揺れている。ジークの足は、私と違って床についてるからぶらぶらしてないけどさ。
「なら、体を鍛えてるからだな」
「ふぁ? あははははぁ」
ビーツ様の言った事がおかしくて、私は笑い出してしまった。
思わず自分の大口に気付いて両手で口元を押さえても、くふふふってくぐもった笑いが止まらない。
「それ程おかしいか?」
「おかしいですよ。ビーツ様が、冗談言う方だとは思わなかったです 。筋肉では説明出来ないです 」
くふふと笑いながら、「ねっ、ジーク」っと、同意を求めちゃいました。
「なんだ。鍛えてるのを、筋肉だと思ったのか」
なら、何を鍛えてるの? 止まった笑いに、ビーツ様がにやり。
「鍛えるのは、何も筋肉だけとは限らない」
その言葉にぴんっと来ました。魔力です。魔法ですね。
「魔力があれば生活魔法は使える。ただ、効率が悪いとか、子供には負担があり過ぎる。隣の従者がここ二三年って言ってたろ、使えるようになったのはと」
これは、待てをくらっていた話ですね。
「体が出来上がれば、少ない魔力でも、放っておいても安定する。血の巡りと同じで体内を巡る。巡る事によって、自然と魔法を使う基礎が出来上がっていく。適正が分かるのも、その時期を過ぎた頃だな」
「適正…?」
「魔法を得意とする者としない者。それから…それは、後にするか…。今ミシェイラ嬢には循環を意識してもらっているが、それを子供のうちは無意識にしているんだ。その過程で身体能力の底上げがされる。それは、個人個人で違うのだが、平民の殆どが体力面だったりする。それは常日頃から体を使う事によるからだな。前に、魔力を使った事が無いと言っていたが、正確には、意識して使った事が無いが正しい」
「それと、どう繋がるの?」
「今の私は、その基礎と言える魔力の循環で、身体を強化しているって事だよ」
「えっ? でも、私、出来ないよ?」
「今出来ていないだけで、覚えれば出来るだろう。ミシェイラ嬢は、無意識に出来てる。馬の移動でも不調を訴えなかったろ。だから目下のところの課題は、意識をする事なんだよ。そして、魔力の底を把握する」
「不調って?」
「くたびれたり、体が痛みを訴えたり。そういうの、無いだろ。基本が大事という事。それに尽きるな」
ビーツ様のお話は終わりになり、再び魔力循環の時間です。
ちょっと夢中になりすぎて、今日のお宿に着く頃には、さすがにくたびれました。
お読み頂きありがとうございました。




