新しい事に、夢中だと思っておこう ①
嫌ですぅ。憂鬱ですぅ。
私はその嫌な事を思い浮かべては、ベッドで、ソファで、骨の無い生き物がのたうつ如く、ぐにゃぐにゃとしながら不満を撒き散らした。
領地に、お祖父様と戻る予定でした。
トルエン辺境公爵のキエナ領にお泊まりに行ってきましたが、王都でのお祖父様の御用が終わったら、何時も通りに領地で過ごす予定でした。
そのつもりでディ様に、余分な荷物は領地に送って貰う事にしたし…。
キエナ領から馬で時間短縮で帰って来たんだし…。
それなのに、それなのにですよ。領地行きは変わらないけど、お父様とシェリルまで同行する事になったとか…信じられないよ。
今度はジークだけじゃなくて、ケリーもセバスもレナもジャンも、皆で領地に行ける事になったけど。それとこれとは別。
帰ってきて早々。あんまり気分の良くない話を聞かされて、気分駄々下がり。気を取り直そうと思ったって無理ですよ。
移動の馬車? お祖父様が一緒でも、お父様と五日も一緒なんて嫌に決まってるでしょ!
それに、あの子。シェリルは、何だか攻撃的な態度を取ってくる。お祖父様に、微妙な感じでいるのを見られたくないから避ける。向こうも避けてる? というか無視だね。そのままこっち見ないでいいよ。
馬車を増やすとして、私とお祖父様。お父様とシェリルでならいいやって思ってたのに、お祖父様は、二人の教育の為に二人と一緒だって言うんだよぉ。
ぐずったけど、結局馬車は増やすけどお祖父様と別になった。
なら馬でいいと思った。何かね、近衛の護衛さんは、そのままなんだって。一度そうやって移動してるし、楽しかったし、問題ないから。
なのに、駄目が出た。私もお勉強する事があるんだって。
何を学ぶのか、それは魔法です。
トルエン辺境公爵家の魔法使いさん。エイネル・ビーツ様が、私に教えて下さる事になりました。
ディ様からあの時お手紙があって、何があったかを知っていても、ビーツ様のお話を聞いたお祖父様は、顔色を変え、涙まで流した。
お祖父様の前に、ケリー達にも泣かれたんだけどね。
魔力欠乏は過ぎた事。
ならばこれからと、ディ様からのお申し出をお祖父様か受けたのです。
それは私への魔法の教育的指導。
ディ様も、保護者の元に生きて返せばいいとは思ってなかったのですね。帰りに渡されたお祖父様への手紙にも、長々、長々と…。
夏には辺境公爵家に遊びに行く予定ですし、ビーツ様の指導はその時まで。途中。どうしてもキエナ領に戻る事になったとしても、今の時期なら二日で行けるそうです。朝薄暗い中出発の夜の帳が下りるまで走ればだそうですが。馬なら一日半。竜のお迎えなら往復半日だって、ビーツ様は、笑って言った。
竜達って凄い。
凄い竜はさておき…。
私達の領地行きの準備の間。ビーツ様から、早速ご指導頂きましたよ。
早速実践生活魔法。
生活魔法は、火と水が基本だって事になってるらしい。
手始めに、コップの中を水でいっぱいにする。
出来ました。一発ですよ。
コップの底からぼこっと湧き上がりました。美味しい湧き水をイメージでしたので…。器をバケツに。バケツをタライに変えても、ぽこぽこと湧き上がりました。これを水源にして川になるんじゃないのってくらいの勢いでした。
しょぼんです。
器に満たすが課題なのに、溢れさせてどうするの?
半歩下がったジークの視線が胸にきました。
次は火です。蝋燭に火を灯す。
蝋燭の芯の手前で火がついて、燃え移る…? これは、何度やっても同じでした。
笑うビーツ様。
焚き火の火起こしでも、そう。物自体に火がつくというより、マッチの火でつけてるみたい。枯葉や乾燥した木の皮から燃え上がるやつ。ちなみに組み上げた木を燃やすのも、消えないマッチの火で、ずーっと炙ってる感じ? おかげさまで、じわじわと、一時間くらいでようやく燃えたけどね…。
ちょっとかっこよくない。
もうそれは、仕方ないけど、私の中の固定されたイメージとしか言いようがない。美味しいお水は領地の泉のお水だし、火をつけるのはマッチだもの。
「これはこれでいいが、小さい魔法の条件は問題なく出来るのが望ましいな」
あぃ…。
確かに美味いと言いながら、コップのお水を飲み干したビーツ様は、空になったコップにお水を八分目まで満たします。ぽっと蝋燭の芯から火がつきます。テーブルの上の二つに、瞬き一つも無い時間で。
「美味しいお水って、考えちゃうから駄目なんでしょうか?」
「それが駄目、という訳では無い。飲めない水よりいい。兎も角。火は、蝋燭に灯すのに必要な大きさという条件を満たしてる。こんな事くらい軽いもんだろうが、一段ずつ上げていくのが望ましいからな」
はい、はい、はい。頑張ってみますよ。
美味しいお水が既にコップにあるって考えるのに、水差しを持ったレナが出て来たり、井戸水を汲み上げるジークが出て来たりして軌道修正。ようやく八分目で止める事が出来た。
「皆、こうやって覚えるの?」
はふっと息を吐きながら、振り返ってジークに問えば、眉下がりの顔がそこにある。
「そもそもお嬢様? そんなに簡単に出来ませんからね」
「どうして? 生活魔法なのよね?」
生活魔法というくらいなのだから、生活で活用されてると思うでしょ? 思ってたよ。見た事ない気がするけど。
「火をつけるならマッチを使った方が早いです。お金があるなら、魔石を手に入れます」
ビーツ様に言われて、渋々とジークもお水を出す。蝋燭に火を灯す。
出来るじゃない。何か、問題?
「お嬢様…。平民は、貴族程魔力は多くないんです。子供ならなおさらで、その少ない魔力でとなると、集中でくたびれてしまうんです。教会か神殿で教えてもらうんですけど…」
「もっと身近な感じじゃないの? ジーク魔法使えてるじゃない」
「そ、それは、この二三年で出来るようになったというか。兎に角。子供のうちはまともに使えませんでした」
「…ビーツ様? 何故でしょうか?」
「平民は、そんなもんだ。元から少ない上に、体が出来上がってこないと体内の魔力が安定しない。ある時、ふと、使えてたりするな。君の場合。貴族で適性があるのだから、魔法の基礎をさっさと教え込むものだが、ここまで魔力と魔法の知識と無縁だったのには理由があるんだろう? 推測話は時間の無駄だから、公爵から聞くように」
「ふぇ?」
「ミシェイラ嬢。君は、早急に魔法を理解しなくてはならない」
ぽすんっと頭に乗った手。
「じゃないと、何時までも、皆が心配するし、迷惑だ!」
そう言われて、ぺこぉんっと潰れた私は、大人しく言われるがまま魔法を使ってみる。「これは?」「何で?」をすると、「馬車移動まで待て」とビーツ様は言う。それは馬車移動になると、揺れて魔法を使うのに集中出来なくなるから。不安定の初心者が、狭い箱の中で魔法を使うのは、危ないって事だね。水浸しも困るけど、焦げ焦げも困る。馬車に乗り込む前に使うだけ使ってみて、感覚を身につけるのですって。
魔獣討伐する魔法使いさんは、理論より、実践の人だったみたいです。
お読み頂きありがとうございました。




