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 「イライザが亡くなって直ぐお前達が居を移し、ミシェイラを弾き出した。王家は、領地に見向きもしなかったお前達より、残されたミシェイラを心配されておる。トルエン辺境公の招待に、近衛から護衛をつける程にだ。注目されていると知れば、行いだけでは無く、領地にも目を向け、今の公爵家の有り様に気付くと思っていたのは間違いだった。後継として相応しく無いと知らしめたのは自身だぞ」

「り、領地の事は、これからでも」

「シェリル。我が公爵家では、小麦の買い付けを長期契約にしているが、理由を知っているか?」


 お祖父様は、お父様を無視してシェリルに話しかけた。


「そんな難しい事を、子供が答えられる訳が無いでしょう! そ、それこそ、これから教師を付けて学ばせます」


 思ってもない質問に、口篭ったシェリルをお父様が庇う。


「なら、お前が答えろ」

「販路を求めている商人が居るのですから、より条件の良い方を選べばいいのですよ。長期契約など、商人が図に乗るだけです。父上の考えは古過ぎる!」


 自由競争を言っているのかな、お父様は。安さを取り引きの売りとして、それで市場を確保する。誰かが言ってた。その場だけの取り引きで安いなら、買う方はそれがいいかもね。お祖父様の言っている長期契約は、まず『当主』『取り引き領主』『商会主』の、それぞれ代替わりが見直しの条件だったはず。後継が信用出来なかったら、相手からだって契約が切られちゃうの。商会取り引きの方は、小麦に拘ってる訳じゃなくて、保険の意味がある。不作や仕入れが難しい場合。そんな時でも「金に糸目はつけないから小麦を寄越せ!」じゃなくて、豆や芋だっていい。必要な分の商品を必ず揃えて下さいよって、お約束なんだって。

食料の流通が止まらない事が大切だって、お祖父様は何時もおっしゃってた。領民の中には個人取引したり、行商人から買う人ももちろん居る。それを禁止にはしてない。お祖父様がしているのは、もしもの布石なのだ。

 お祖父様が誇らしくて、えへんっと心の中で胸を張っちゃうよ。


「答えにならんな。領地無き爵位持ちならそれでもいい。ミシェイラ」


 屋敷だけで回すならそれでもいいって事だね。

 ちょうど考えてたところだったから、整理しながら言葉にする。


「えっと。我が公爵家は、生産地の領主との取り引きと、商会との取り引きを半分半分で結んでいます。一箇所にしないのは食糧難に備えてで、商会側は、もしもの時には代替品になる食料の確保を約束してます。領主との取り引きは、安定した取り引きを続ける事で、生産力を上げていってもらう為でしたでしょうか?」

「ミシェイラの考え、答えはそれでいいのか?」

「他にも理由があるかもしれないけど、相手方の領地収入が安定していれば、農地改革で対策をとる余裕が生まれるの前提の取り引きですよね?」


 首を傾げながらお祖父様を見上げる。

 違うって、否定されたらどうしよう。胸がどきどきする。

 

「まあ、七十点をやろう。分かるか? 立ち位置の違いが。お前の考え方も、確かにありだろう。だがな、もしもの時に、食料を手に入れる手段が無いでは話にならん。何も、言い値で買い付けてるでも無い。損を受け入れている訳でも無い。出来高で話し合いもしてる。安易に目先の事に乗るな。シェリル。学ぶなら、こういう事を学べ」


 わぁ~い、七十点! 嬉しいな。にまぁっと口元が緩む。どやっとしながら対面のお父様を見る。

 お祖父様は私を褒めながら、お父様に、続いてシェリルに言った。


「そんなのっ!」

「分かっていたらとでも言うか? お前が手を付けたのは、その買い付けの資金だ。その金で、数ヶ月短縮して婚姻の証明を取った。意味があるのかと問うしか出来ん」


 お金の出処判明! 勝手に契約破棄しようとして、それ前提でお金を神殿に貢いじゃったの? それ駄目! どう反応したらいいのか分からない。意味不明。お父様。それ、無いわ。兎に角、それは駄目! 色々駄目!


「契約者は当主である私だから、破棄の撤回は出来た。なら、使ってしまった資金は、どうするつもりだ? お前が結んだ小麦の契約は?」

「それくらいの金はあるでしょう!」

「ある。が、必要な事に使う金で、必要の無い事に使う金は無い」

「だからっ! 何度も言っているででしょう。認められる為には必要なんだと!」

「誰に認められると? だから言っているだろう。長子のミシェイラを蔑ろにして、社交だの騒いでも、足元を見られ、馬鹿にされるだけだと。時期を待って、同じ歳の二人を、同じように社交に連れ出せばいい。それを聞かず、先走ったのはお前達だ。そもそも何故イライザが、子供のミシェイラが注目されているのが分からない? 我が公爵家は、王家の事業を引き受けている。それを考える事無く、上辺を取り繕っても無駄だ。お前達の優越の為に、王からの評価を、これ以上下げる訳にはいかない」


 言い聞かせるように、言葉を区切るお祖父様。

 …分かっていたけど、お父様達は、領地の事は全然全く理解してなかったんだね。携わる事自体しなかったもんね。私も、あんまり分かってないけどさ。お祖父様が物凄く怒っているのと、領地のお金にお父様が手を出したっていうのは、よ~く分かった。王家の事業ってなんだろう。色々な領地と職人さんが出入りするなぁ~は、知ってるよ。どれが王家の事業だか知らないけど、お父様がやった事が駄目なのは分かるよ。


「ルファス。お前が売り払おうとしてる魔石自体が、国の事業だ」


 もう一つ出てきた…。私がお出かけしてる間に、何をしてるの?

 はふぅーっとお祖父様が息を吐き出した。


「ルファス、お前に公爵家を譲るつもりだった。イライザが居ないのに、ミシェイラを公爵家に縛り付けるつもりは無い。だからお前達とは関わらないで済むようにと山繭と綿花の紡績業を相続させた」


 残っても、お前達とは上手くはいくまい?

 言葉にはなってないけど、お祖父様の目がそう言ってる。私もそう思う。

 お祖父様から離れるつもりは無いけど、生きて行くにはお金が必要。食べる事から全て。私のこれからは、お祖父様から離れなければいいって事だけでは無いのだろう。だからって、お父様に頼るのは嫌だ。そもそも頼れるなんて思わない。


「旦那様が、その紡績業をミシェイラに譲ったのが、そもそもの間違いだったのではありませんか?」


 そう言ったお祖母様の声には刺がある。


「なら、王家事業と交換するか? 自動的にミシェイラが公爵だな」

「なっ、なんて馬鹿な事を仰いますの! 旦那様に蔑ろにされながらも、私達は」

「王都で遊んでいただけだろう」

「王家事業も紡績業も、立ち上げたのはイライザ。お前達は、何一つしていない。領地の事を理解してないのがその証拠だ」


 居心地が悪くてお尻を動かす。すかさずお祖父様の手が頭を撫でてくれるのが嬉しい。


「後継問題は王家の口出しする事ではないが、そうしたらどうかとのお言葉がある。ミシェイラ、公爵家が欲しいか?」


 欲しいか欲しくないかなら、別になので首を横に振る。別の聞かれ方なら違う。良くしたいかどうかとかね。お祖父様とお母様が頑張ってきたのだもの、より良く豊かになら縦に頷くよ。


「欲が無いのか、馬鹿なのか…」


 呆れたように言われて、お祖父様を見上げた。

 えっ? 欲なんて有り有りだよ。


「三年。ミシェイラ、シェリルの学園入学を期日として後継を決めろとのお達しだ。王家からの言葉な以上、従わない訳にもいくまい。皆、心に留めて置くように」


 疲れ頭の私は、ぽかんとしてお祖父様を見上げてた。


「ミシェイラ。何か言いたい事はあるか?」

「えっ? 言いたい事?」

「お前は今まで通りにすればいいが、何度も顔を合わせるのも気が重いだろう。次いでに言っていけ」


 次いでにというのは、お父様達に対して? 何か…ある? 特に無いかな。お祖父様は、今まで通りでいいって言うんだもの。

 無いですって言おうとして、はっとする。

 あるある。有ります。お出掛けしてたから忘れてたけど、壊された物の弁償をしてもらいたいです。

 後ろに立ってるセバスを振り返り、どうなっているのかを聞いた。

 壊れた物のリストは出来ている。修繕に出せる物は出してある。セバスは素晴らしいです。セバスだけじゃなくお留守番して、それをしてくれた皆が素晴らしいんだけどね。

 それを伝えたら、物凄く怒ったお祖母様に必要無しと言われた。


「別に、お祖母様に弁償してとは言ってません。壊した者達に弁償してもらえればいいんです。でも、その方達を雇っているのはお父様? それともお祖母様ですか? 他人の持ち物を損なって、そのままという事はありえないと思うんです。壊れた物の中に切子グラスがありました。頂いた物ですけど、捨てる訳にもいきません…よね? それを下さった方は、お客様でいらした時に、それでお祖父様とお酒を飲むのを楽しみにしてますよ」

「あれを壊したのか」


 お祖父様の眉間のシワが深くなりました。

 切子ガラスは東国からの輸入品です。高額です。トルカ領のガラス工房の東国からの職人さんから貰った物だとしても。

 お祖父様もお気に入りでした。

 だからせめて飾るにしても、傷は直しておきたいのです。

 やるだけやって知らんぷりなんて、言語道断です! 

お読み頂きありがとうございました。

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