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「キュッ」

「キュゥ~」


 人間の赤ん坊なら、「あふっ」とか「あぅ~」とか言っちゃってるのかしら?

 まだ姿は見えないけど、ちっちゃく、かすかだけど確かに声がする。

 思わず足を止めちゃったけど、二歩も歩けば厩舎の中が見渡せる。

 どきどきだよ。

 顔が熱くなって、息苦しくて、全身がどくどくしてる。やばいよ、大変だよって思ったところで、息止めちゃってるって気が付いた。

 どんだけ緊張してるのぉって、深呼吸を繰り返す。

 緊張しちゃうのも無理ないって思う。

 だってね、起きてから六日が過ぎてるの。明日はもう帰るのよ? 寝込んでた分、逗留を伸ばしてもって言われたけど、寝込んだ事をお祖父様に連絡しちゃったのだから、私の選択は帰る一択ですよ。元気だよって、早く顔を見せないとね。

 帰るとなれば、絶対に子竜ちゃん達に会いたい。いくら元気だよって言っても、何だかんだでお母さん竜にも子竜ちゃん達にも会えなかったんだよ。

 それは私自身じゃなくて、頭にまとわりついてる不確定要素の聖獣さん(仮)と、立ち会いの魔法使いさんの都合が合わなかったせいだったんだけどね。


「ミシェイラ嬢?」


 立ち止まったうえに、深呼吸をしてる私を心配してくれたのか、騎士さんが顔色を確かめるように見下ろしてる。


「だ、大丈夫です」


 ぎくしゃくと頷いて、落とした視線の先、二つ並んだ靴の右足を意識した。

 一歩。二歩。

 角を曲がりながら顔を上げる。


「ふぇあ~?」


 竜のお母さんも、他の竜達も、こっちを向いてた。初めてあった時のスーリャとキファみたいに。他の竜達は、何時もはもっと近寄らないとこっちを見なかったのに。こんな事、初めて。

 兎に角。竜達は一塊になってこっちを見てて、その中から、キュウキュウ聞こえてきてるのだ。

 ぼんやりしながら二歩三歩。

 人垣ならぬ竜垣が割れて、小さいのにひょろひょろなのが二つ出てきた。こっちに、私に向かってくる。

 毛や羽のある動物は、赤ちゃんでもこふわふわもこもこだったりするけど…。鱗と皮膜の竜の赤ちゃんは、なんと言うか、そういう可愛らしさは無かった。


「あの二匹が、二個の卵の竜だよ。ミシェが倒れて二日後に孵った。あの時。ミシェから魔力を貰わなかったら、朽ちただろうな」


 横に立ったディ様と子竜ちゃんの間を、何度も視線が行き来する。


「触っても、抱っこしても平気?」


 ディ様の掌が、子竜ちゃんへと動く。

 凄いね。歩ってるよ。足と体のバランス悪すぎ。

 一般的な見た目として、ちょっと可愛いと思えない姿なのに、ちゃんと、凄っく可愛かった。

 最初にたどり着いた子は、灰色の体で白い目の子だった。皆黒っぽいのに、白っぽい子も居るんだねって思いながら手を伸ばす。

 柔らかい鱗。普通に弾力のある人の皮膚みたい。これが、何時かは硬さのあるものに変わるのね。

 そう思いながら、手にした胴体周りをふにふにした。

 灰色の子竜ちゃんは、キュウキュウしながら顎を持ち上げて喉の当たりを擦り付けてくる。


「こいつ等、甘えてやがる」


 ドルレンさんが、何時の間にか側にいた。

 こいつ等と言うなら、単体では無い。複数と言う事。遅れてたどり着いた子竜ちゃんも、背伸びをするように上を向いてて、顎の下をすりすりしてた。


「甘えてるの?」

「頭を擦り付けてくるってのもあるが、首を上げて喉ってのは、子供のうちだけだな」

「そうなの。なら、貴重な体験!」


 改めて子竜ちゃん観察。

 体(胴体)の大きさは同じくらいなんだけど、足元の子竜ちゃんの方がバランスが悪そうで、すりすりよりもふらふらって感じが強い。

 見下ろしながら見てみると、正面から見た以上のバランスの悪さの原因が分かった。両翼の大きさが違うんだ。大きい左翼に重心がずれて、どうしても動作に振り回されちゃってるんだって分かった。同じように歩けてるように見えても、バランスを取りながらの一歩は小さいのかもしれないね。

 ほれって手をドルレンさんが出してきたので、抱き上げてた子竜ちゃんを渡す。灰色の子竜ちゃんは、ものすごくキュウキュウ鳴いた。まさに手足ばたばたって感じで、全身で嫌って言ってるみたいよ。

 ものすごく傷付いた顔のドルレンさんを、見ない事にした。

 空いた手で抱き上げる。

 こっちの子は黒っぽい体で、綺麗な赤い目をしてる。赤い目に、縦に走る金。

 はっとして、ドルレンさんを振り仰ぐ。

 二匹の違い。色だけじゃない。それに、二匹と、他の竜との違い。

 ひゅぅっと、喉が鳴る。

 力が緩んで落としそうになった竜を、何時の間にかそばに居たルー様が支えてくれていた。こう、子竜ちゃんのお尻を両手に乗せるようにして。危ないと、ちゃんと抱き抱える。


「無事に孵って良かったよ」


 嬉しそうにも聞こえるドルレンさんの声。遠くから聞こえるみたいで、おかしいなって思う。だって、こんなに近くにいるのに。


「ドルレンさん。この子達って…」


 明らかに白濁した瞳。この子竜ちゃんは、目が見えてないんじゃないかしら。

 大きさの違う翼。こっちの子竜ちゃんは、歩くのにも体が傾ぐんだもの、空を飛ぶ事なんて出来ないんじゃないかしら。

 そう思ったけど、ちょっと言葉にはならなかった。


「あーっ。そういう心配は要らないんだよ」


 落ち込んだのを感じ取ったのか、でも、ドルレンさんの明るい。


「ふぇ? でも…」

「多少の不具合があっても、それ程問題無い。こいつは、確かに目が見えないのかもしれないけど、見え方が違うだけだと思う。現に、真っ直ぐに寄ってきただろ? そっちも同じ。翼の大きさから見てもでかく育つ。飛ぶのが早いか、飛び続けるスタミナがあるか、今から楽しみだよ」


 ばたばたともがく子竜ちゃんを上手にあやすドルレンさんは、愛おしそうに白濁した瞳を覗き込んでる。


「こいつ等。竜は、魔力を使うのが上手いからな。産まれちまえば、どうとでもなるんだよ」


 知らなかったかみたいに言わないで、ドルレンさん。

 知る訳なんかないじゃない。


「えっと、それは、どういう事?」

「竜は、魔力も使って飛ぶんだよ。竜に乗った時に気付かなかったのか? 本来の風の抵抗が、あんなもんだと思うなよ」


 そう言われてみれば、凄く速く飛んでる筈なのに、風であっぷあっぷした覚えない。飛び立つ時にばっさばっさと何回かしただけで空の上。降下する時はひゅーんてなって、ちょっとだけ胸のあたりがキュウってなったけどそれだけだった。感じたのはそよ風くらいで、ふわっと髪の毛がしたくらいだったかも。竜の使う、魔法? 持ってる魔力で飛べるなんて凄いね。


「そう言えば、ドルレンさん。そっちの子竜ちゃんは、何が見えて、私の所に来たの?」

「分からん! が、一番可能性のあるのは、魔力かな?」

「魔力? 私の?」

「生きてるか死んでるかも分からないのに、生きろ! 出て来いって魔力をくれたのは、寝込んでたお嬢ちゃんだろ? ルードにも寄ってたが、比べると、ルードよりお嬢ちゃんの魔力の方が強いんだろうな」

「えっ? 何でルー様?」


 ドルレンさんの言う「ルード」は、ルードルフ様の事。何時の間に「ルード」呼び? って疑問はおいておくとして、ルー様と私の魔力、何の関係があるの?


「ルードも、卵に魔力注いだの。こいつ等、ルードにもきゅいきゅい甘えんだよな。今、無視だけど」

「ほぁ?」

「本当、本当。おかげで、無事にこいつ等孵ったんだ。ありがとな!」

「ありがとって…。ルー様? 聞いてなかったけど、何したんですか?」

「…あぁ。人からの魔力譲渡の検証」

「はぁ? 聞いてないですよ! 昨日だって、その前だって、話す機会はあったじゃないですか! なのに、何で黙ってたの? 教えてくれなかったの?」


 むすっとした私に、黙り込んだルー様は目をそらす。

 えっ? その態度はないですよね? ルー様ご質問には、何時でもちゃんと答えてますよ、私。「今いいところ!」でも「これも気になるの?」でも。子竜ちゃん達の事聞いたのに、そういう事、全然話してくれてない。

 ルー様に詰め寄る私は、子竜ちゃんをよいしょっと抱き直す。

 と、伸び上がった子竜ちゃんが、くわぁっと髪の毛にぱくついた。


「あっ!」

「あぇっ?」


 ドルレンさんやジークが焦った声を上げた。


「え、何?」


 きゅるきゅると喉を鳴らした子竜ちゃんは、肩にすりすりと始めた。

 にゃーっ、可愛い!

 大層可愛らしい姿から顔を上げれば、私の方を見る人の目は見開かれてる。

 一体、何にびっくりしてるの?

 子竜ちゃんの方に首を傾げて頬ですりすり返ししながらドルレンさんを伺う。

 少し離れた所のディ様もびっくりした顔をしてるし、難しい顔の魔法使いさんは早歩きでこっちに向かって来てる。


「…食った」


 と、ドルレンさん。

 ん? 内緒で試食会はしてませんよ?


「頭にくっついてたの、を…食ったぞ」

「ケセランが食べられた」

「ケセラン? お口開けて。白もこケセランなんて食べちゃ駄目だよ。ペってしなさい。ぺっぺって」


 白もこは、それかどうかは分からないけど、唯一図鑑に名前があった『ケセランパサラン』。『ケセラン』とルー様と、何となく呼び始まったんだけど、くっついてるだけで、手に取って確かめる事もできなかったから、『ケセラン』自体は依然謎のまま。

 抱えてたら口を開けられないから兎に角座った。触ろうとしても振り子のように避ける頭をがっしり掴んで、口元に指を入れようとしても、いやいやってされる。


「あーんって開けてよ。そんなもの食べちゃダメだよ。ぺってしてぺって!」


 ドルレンさんも魔法使いさんも加わって、子竜ちゃんのお口が開いた時には、白もこケセランはもう無かった。ごっくんした様子はなかったのに、何処に消えたの? 綿菓子のように、しゅわっと消えた訳じゃないよね?

 唖然呆然の私達。

 自分も抱っこと言いたげに、灰色の子竜ちゃんが膝へと乗ってきた。

 楽しそうに遊んでると思ったのか、先に産まれてた子竜ちゃん達もそばに来ていてきゅうきゅう鳴きの四重奏。

 先に産まれてた子竜ちゃんは、体こそふたまわり小さい感じだけど、ころころとした丸みがある。これはこれで可愛いいのだけど、ちょっと待って。白もこケセラン、どうしちゃったの? 訳の分からないの口にして、竜って大丈夫なの?

 答えられる人間は居なかった。

 私としては頭から無くなったんだから、良かった?

 


 

お読み頂きありがとうございました。

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