③
おかしい…。
子竜ちゃんに、会いに行っていいって言ったのに…。
目下のところ、魔法使いさんの予定が空かず、対面は叶って無い。
「ねぇ。ルー様は、子竜ちゃん達、見たんだよねぇ?」
もう、お見舞いとかじゃないよ。普通に時間つぶし。お互い本を手にして調べ物をしてるの。
絵本とは違う分厚い本を見てるルー様を、かなりジト目で見た。ちゃんと自覚はある。
見てきたとか、可愛いとか、ペラペラ喋るでも無いルー様だけど、私の胸の中はもやもや。
自慢じゃ無くても、話に出ても出なくても気になるのだから仕方がない。
卵が割れ始めたのは覚えてる。姿こそ見なかったけど、二匹の子竜ちゃんが産まれたそう。そして二日後に二匹の子竜ちゃん。合わせて四匹の子竜ちゃん。卵から出た瞬間はどれも見逃してしまったけど、見たいし、お母さん竜にも会いたいよ。
「体を小さくしただけの竜だった」
「えっ? ちっちゃくしたのを想像しろと? ルー様? それは無理ですよ。頭でっかち? それともまん丸? くりくりお目目? ちっちゃくしたって可愛くなんかならないよ?」
五、六、七、八、九頭身から二頭身半の姿を遡って想像したって正しい姿を知ってるのは、見た事がある人だけじゃないですか。可愛いと一言で言っても、どう可愛いかが重要なんです。
「どう可愛いと思うかは、個人の主観だし」
「だから、せっかくだから見に行きたいんじゃないですかぁ。ディ様は、嘘つきです!」
そう、かなりがた焦れてる私だ。
他家なのだから、我儘はいけない。そう分かってたって、可愛いものへの関心が溢れそう。いいえ、溢れてる。
幻のお米試食会をしても、食欲ではごまかせなかった。乾燥させたお米をかりっと揚げて、海老とお肉とチビ卵と野菜たっぷりのとろとろスープ。揚げたてにかけた瞬間の胸踊る音。組み合わせばっちりで美味しかったのに…。美味しかったのよ…。食べ終わった時。物足りなさ感が半端なかったの。それは、食べ足りないからじゃなかったわ。
お土産リスト(キエナ領のご当地食材)を埋めていっても、結局、喜ぶお祖父様の顔よりも、近くの子竜ちゃん達が頭を掠めるわ。
繭については夏の時期を待たなくちゃならないから、その前に出来る事で、領地に持ち帰って物になるかの資源の色々の話し合いをして。選別して。自領への指示書を書いて。そうやって時間を過ごしても、集中しきれなくて子竜ちゃん達を思ったわ。
一度子竜ちゃん達に会っちゃえば気が済むのに。行けてた所に行けない事や、何となく行動の制限があるのが嫌だったのよね。
「うにゃぁーっ! 見たら幸運? くっつかれてる私は、幸せじゃないのにゃーっ!」
「お、お嬢様っ!」
ルー様の何となくのため息に、ぐぬぬっとなった私は叫んだ。
手で押さえていた本から手を離して、ぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き回した私を、ジークがたしなめようと身を乗りだすけど、知りませんっ!
「ねぇ。結局、これは何?」
ぽわぽわを頭にくっつけたままあっちこっちと外にお出掛けも出来ないし、お家に帰るのにもこのままじゃって、自分でも調べようって思ったけど、何も分からないに等しかった。納得出来る決定的な記述は見つけられてないの。
書庫の魔獣に関する本に並んで、『摩訶不思議動物図鑑』っていうのがあって、手乗り白もこの事見たいのを見つけたんだけど…。『ケセランパサラン』って、なあに? 図解はまるっきり白もこだけど、頭にくっつくなんて書いてないから、違うんでしょ?
「自然結晶の魔石と同等の魔力を持った何か」
「何でルー様、淡々と言うの?」
「今、分かってるのはそれくらいだろ」
「そうだけど、そうだけどねっ!」
見たという話と、幸運だったという話が、ちゃんと裏づけされた話かどうかは…疑わしい。
何故疑うかって? 幸運だったと書かれてる書物。病気や怪我が治ったとか、天災を免れたとかにはこじつけ感半端無し。そして私は幸せじゃない。
だから、そっち方面の書物は無視。
次は、自然結晶の魔石に関しての本の方。
白もこを見た辺りで大きな自然結晶の魔石が見付かったとか。自然結晶の魔石が砕けた時、白もこが沢山浮遊してたとか。こっちの方は滅多にないものが見付かったとか、見れてラッキー的なやつ。
自然結晶の魔石は、魔獣の魔石より高額。昔、物によっては、一生分以上のお金を手にする事だってあったみたい。今は、その国の物とされるから見付けた人には報奨金が支払われて国の持ち物になる。早い話、国の買取ね。そんな一攫千金の幸運の方がよっぽど分かりやすい。
私が見た記述は図書室のものだから、そんな事しか書かれてないの。魔法使いの本は違う? 流石に、子供には見せてくれないのかもしれない。
だから本はもう、読む気になれない。
ふんすと立ち上がって鏡の前に行く。
この白もこ。意思があるように思える。逃げるのだって的確だし。鏡越しに見えない後頭部を行き来しながら逃げられてればそう思うよね。
「意思があるなら、意思疎通出来ないのかしら?」
「疎通?」
「ほら、竜達だって、駄目や待て出来たよね? せめて、頭じゃなくて、目立たない所なら我慢出来そう? かなぁって」
もう、それで譲歩するよ。
このままじゃ、お祖父様に会えない気がするもん。説明出来ないって事で。そんなの嫌。
それからしばらくの時間。髪の毛を掻き回す私と、鏡越しに白もこに話し掛ける私がいた。
白もこが誰にも見えなかったら、ただの気狂いよ…。
お読み頂きありがとうございました。




